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ダーククリムゾン  作者: amo
ダーククリムゾン
7/16

最強の魔獣

※最終回ではありません。多分、最後の一行がなければこのまま終わってました(笑)

 健一と別れた大護と水夜は、今までにない程に慌てた様子の竜次と合流した。ただでさえ感情の起伏に乏しい竜次が慌てているのを見て、大護はすぐに只事ではないと悟る。


「竜次、どうした?何かあったのか?」


「話は走りながらする!着いてこい!」


「ぅわわっ!?抱えるなら、先にそう言え!」


 竜次は大護達の間を走って横切り、大護はすぐさま水夜を脇に抱えてそれを追う。いきなり抱えられた水夜はじたばたと動いているが、大護はそれを無視して前を走る竜次の横に並ぶ。


「で、何があったんだよ?」


 こうして、竜次は走りながら、先ほどあった事を二人に説明した。







 神崇教の教会から少し離れた場所で、国重は大事そうに抱えていた丸い魔具を、召喚の紋章の刻まれた祭壇に置く。自身に召喚士の才能がない国重は、魔力から紋章に至るまで、全てを他人に任せていた。


 他人の力でドラゴンを召喚しているような構図だが、国重にしてみれば、これから始まる大事に比べれば、だれの助力によるものかなど小事だ。


「凄まじい気配を感じる‥!ここまで来るのに、ずいぶんとかかったが‥‥今日でそれも終わりだ!」


 紋章の中心に置かれた魔具から魔力が噴き出し、床に刻まれた紋章が紅く光り出し、その祭壇をかたかたと揺るがし始める。


「さあ!『魔力を代償に、招来せよ』!」


 魔力がその場を満たしたのを確認し、国重が召喚士の詠唱を唱える。


 詠唱が唱えられるのを待っていたかのように、魔具が目に見えない力で砕かれ、中に溜まっていた魔力を一気に噴き出す。噴き出した魔力は紋章の中心に吸い込まれていき、刻まれていた紋章を消し去っていく。


 紋章が完全に消え去ったのと同時に、紋章が描かれていた場所の中心から、巨大な鉤爪を持った腕が床を突き破るように現れる。


「おお!ついに、ついにこの時が‥!」


 国重が感動で声を漏らしている間にも、魔力によって作られた次元の穴から這い出るように姿を現すそれは、まさにドラゴンそのものだった。


 爬虫類を思わせる黒い鱗に全身を覆われ、背中からは自分の体長以上に長い翼が生え、歯も全て犬歯のように尖っている。麒麟のような長い首の先についたとかげに似た顔から、魔族同様の紅い瞳で、自分を仰ぎ見る国重に一瞥くれると、もう興味が失せたのか、今度は周りを見渡し始める。ぱっと見ただけでも、体長は十二メートルを超えるほどに大きい。


 その見た目にも国重は心を奪われたが、それ以上に感動したのが、肌に感じる凄まじいまでの魔力だ。国重は魔力を感知する能力に長けている訳でもないのだが、そんな彼でさえ意識せずにはいられないほどの魔力。しかも、ドラゴンはそれを意識して放出させている訳ではない。それだけの魔力を無意識に周りの放出させているのだ。


「ほほほ!素晴らしい!さあ、ドラゴンよ!手始めに、あの教会を消してしまえ!」


 興奮した国重は、もう資金集めの必夜はないと、証拠隠滅の為に教会を消し去ろうとする。だからなのか、国重はまだドラゴンの様子がおかしい事に気付いていない。


 普通、召喚された魔獣は召喚士に従って行動するものだ。しかし、魔力も紋章も他人に任せていた国重では、ドラゴンを従える事が出来ていないのだ。その証拠に、国重の声が煩わしかったのか、ドラゴンは大地を揺るがすほどの咆哮を上げる。


「ぐあぁあぁぁ!み、耳がっ!?」


 国重は耳を押さえてしゃがみこむが、すぐに耳は痛みしか伝えなくなる。鼓膜が破れたのだ。大地さえも揺るがすほどの音が、側にいた人間に耐えきれる筈もなかった。


「黙れ!!静かにしないか!!」


 何とかドラゴンを従えようと声を張り上げた国重だったが、その行動が不味かった。


 ドラゴンはまた国重の方を見下ろすと、不意に息を吸い込む。また咆哮するつもりだと勘違いした国重は、咄嗟に音が聞こえない耳を封じる。だが、凄まじいまでの魔力を感じ、ドラゴンの顔を見上げる。


「ま、まさか‥‥竜の息吹(ドラゴンブレス)!?」


 竜の息吹(ドラゴンブレス)とは、ドラゴンが使える唯一の魔法である。口内に溜めた魔力を高エネルギー体に変換し、息とともに一気に吐き出すそれは、熱に換算して2000℃、光に換算して5000㏓、電気では2億Vと言われている。


 それが自分に向けられていると分かった国重は、何とかそれを止めさせようと口を開いた。だが、その瞬間にドラゴンの口が開き、目を覆わんばかりの光に包まれた。


 底が見えないほどの大穴を開けたドラゴンは、それにさえも興味を持たない。


 ただうるさい物を消した。


 人間や魔族にとっては膨大なエネルギーの放出であったものも、ドラゴンにとってはこの程度の感覚でしかないのだ。


 しばらくその場であたりを見渡していたドラゴンは、近くにある町に目を付け、そこに向かって巨大な翼をはばたかせた。







 教会を出た大護達は、手分けして国重を探そうとしていたが、すぐにその足を止めた。


「おいおい、マジかよ‥!」


 体長12メートル、広げた翼の幅は15メートル程もある生物が飛んでいたのが、教会を出た三人の目に入った。近くの町では警笛が鳴り響いており、ドラゴンがそれをうるさそうに眺めているが、まだ上空を旋回したまま何もしていない。


「予想以上にでかいぞ。どうするんだ、警察?」


「俺もあんなでかいのと戦える腕だとは思っていないが、何とか町に被害がいかないようにしないとな。」


 竜次はそう言うと、ホルスターから二丁の拳銃を引き抜き、空を飛んでいるドラゴンに標準を合わせる。それを見た大護は、慌ててその手を下げさせる。


「待て待て待て!注意を引くのはいいが、俺達まで巻き添えにする気か!?」


「今回の旅費を払うんだったら逃げてもいいぞ?どうする?」


「大護、諦めろ。どうせ乗り掛かった船だ。このまま岩礁に乗り上げるぞ。」


 大護は二人の言葉にがっくりと肩を落とし、仕方なく抑えていた竜次の腕を開放した。解放された腕は狙いを定めた標的に銃口を向け、その引き金を引く。


「『光弾』。」


 二筋の光が飛んでいるドラゴンの顔に命中し、耳をつんざく声を上げたドラゴンが、自分を攻撃した竜次の方へと顔を向ける。


「で、作戦は?何か名案でもあるんだろうな?」


「ある訳ないだろう?一般人より俺達の方が生存確率が高いからこうしただけだ。」


「と言う訳だ、大護。私を担いで精一杯逃げろ。攻撃は私に任せておけ!」


 計画も作戦も持っていない二人の言葉に、大護は一層肩を下に下げる。だが、ドラゴンが完全にこちらを攻撃対象にした様子で迫って来たのを見て、仕方なく水夜を脇に抱えて走り出す。


「じゃあ、とりあえず町のない方に走ってけばいいんだな?」


「ああ、そうだな。とりあえず周りに人がいない場所まで行くぞ。冬馬も、まさかあんな大きな奴を見失わないだろう。」


 とりあえずの方向性を決めた二人は、ドラゴンが町から離れるように走り出す。


 ドラゴンは標的が逃げていくのを見て、機嫌悪そうにもう一度吠え、飛行速度をさらに増していく。大護達は何とか町の郊外に向けて走って行くのだが、このままではそう遠くへ行く前に追い付かれてしまうだろう。何とか大護達も速度を上げるが、ドラゴンのそれが上回っていた。


 水夜は近付いて来るドラゴンを抱えられながら、じっと何かを待っていた。そして、もう3メートルも距離がなくなった頃、急に魔力を放出する。


「『我は望む、灼熱の槍を』!」


 直径1メートルはある巨大な炎の槍が、噛みつこうと開けていたドラゴンの口に突き刺さる。口の中を焼かれたドラゴンは驚いたように何度か頭を振り、その場に急停止する。だが、竜の息吹(ドラゴンブレス)を吐く口には、その程度の攻撃では火傷さえ負わせられなかった。


「おい、竜次!水夜の攻撃も通じねえのに、どうやってこいつと戦うんだよ!?無理に決まってんじゃねえか!」


「口の中は鱗以上に頑丈に出来ているから、そこへの攻撃はナンセンスだ。だが、足止めの効果はあったぞ。」


 そう言った竜次は、その場で足を止める。何事かと振り返った大護は、ここが町から大分離れている事に気付いた。そして、これから始まるドラゴンとの戦いの事を考え、水夜に顔を向ける。


「水夜。分かっちゃいると思うが、あれは『不特定多数の人を殺す可能性のある更生不可能な生物』だ。」


「‥‥っ!‥‥‥‥ああ。分かっている。」


「ん?何だ、それは?」


 大護と水夜の会話を聞いて、どこか違和感を覚えた竜次は声を掛けるが、大護はそれに苦笑いで答える。


「気にすんな。見てりゃ分かるからよ。」


 苦笑いしている大護の言う通り、水夜に顔を向ける。水夜はしばらく目を閉じていたが、決心したように目を開けると、自分達を睨みつけているドラゴンに向かって手をかざす。


 それまで何事かと水夜を見ていた竜次は、普段あまり感情を顔に出さない彼には珍しく、大きく目を見開いた。水夜の身体から、今まで感じた事のないほどの魔力が噴き出し始めたのだ。


「‥っ!この魔力は‥」


 水夜の放った魔力は、まだ詠唱を唱えられる前から熱を放ち、蜃気楼のように景色を歪ませる。側にいた大護達は、肌に感じる熱風に思わず顔をしかめる。ドラゴンも異変に気付き、空へと高く舞い上がろうとする。


「させるかよ!『魔剛鎚・巨影』!」


 空に高く舞い上がろうとするドラゴンの挙動をいち早く察知した大護は、両手に魔力を大量に込める。大護は詠唱を唱えると、両手に込められた魔力は巨大な黒い鎚に姿を変える。


 大護は魔力の塊を頭上にかざすと、ドラゴンの頭上まで大きく跳躍し、ドラゴンの背中に思い切り叩き込む。


「よくやったぞ、大護!『我は望む、業炎の矢を』!」


 空を飛んでいたドラゴンは上から叩き付けられる力に逆らえず、地面に落ちて身動きが出来なくなる。そこへ水夜の放った炎の矢が放たれる。


「この魔法は‥!?」


 大護と水夜の魔法は、明らかに人を殺せるだけの威力を持っていた。いつも人を殺さないようにしている大護達が、絶対に使わない魔法。だが、二人はある条件下でのみ、それらを使うと決めていた。それが、先程大護が言っていた『不特定多数の人を殺す可能性のある更生不可能な生物』なのだ。


「竜次!お前も早く攻撃しろよ!」


「あ、ああ。『光弾』。」


 二人も魔法の威力に一瞬呆けていた竜次だったが、大護の声で我を取り戻し、すぐに炎に身を焼かれてもがき苦しんでいるドラゴンに弾丸を撃ち放つ。


「これだけやりゃあ、いくら何でも‥‥っ!?」


 空中で炎に包まれているドラゴンを見下ろしていた大護の言葉は、そこで途絶えた。空中にいた大護に向かって、ドラゴンが尻尾を振ってきたのだ。大護は咄嗟に体を庇うように身を固めたが、魔力を練る時間さえ与えられず、その衝撃をまともに受けて弾き飛ばされる。


「大護!?大丈夫か!?」


 大護が飛ばされた方へと駆け寄ろうとした水夜の背中に向かって、ドラゴンは口を開く。竜次はそれに気付いて声を掛けようとするが、それより一瞬早く、ドラゴンの口から光が放たれた。


「水原!‥くっ!?」


 水夜の方へ駆け寄ろうとした竜次に向けて、ドラゴンの鋭い爪が薙ぎ払われる。竜次は迫ってくる爪に直前で気付き、後ろに大きく飛んで何とかかわす。ドラゴンの爪をかわした竜次は、慌てて水夜のいた方を見ると、そこには信じられない光景があった。


「なっ、お前は!?」


 竜の息吹(ドラゴンブレス)で抉られた地面の向こう側にいたのは、水夜を抱えた見覚えのある男だった。


「貴様、何で‥?」


「まぁ、気にしなさんな。お譲ちゃんには、秀治を更生してくれた恩があるからねぇ。」


 その男は、先程まで戦う相手だった筈の健一だった。

 健一は水夜を降ろすと、今度は大護の方へと歩いていく。地面に叩き付けられた大護は体の殆どが地面に埋まってしまっていたが、何とか這いずり出ると、自分の方へと歩み寄ってくる健一を見上げる。


「何しに来たんだよ、お前?」


「ちょっとばかし野暮用でねぇ。刑務所に空きがあるか尋ねに来ただけさね。」


 大護と健一はしばらく見つめ合っていたが、同時に口元を緩めると、ドラゴンを見据える。


「刑務所に入りたかったら、あのデカブツを潰さねえとな。」


「はぁ、面倒臭いねぇ。せっかくあんたみたいなの戦わなくて済んだ所だってのに‥‥」


 会話が終わったと同時に、二人はドラゴンへと駆け出す。こちらに走ってくる二人を見たドラゴンは、また大きく息を吸い込むが、口を開けた瞬間、頭の上に何かが落ちてきた。そのせいで、竜の息吹(ドラゴンブレス)は大護達の前に外れる。


「たまには役に立つな、お前もよ。」


「うっせえ!さっさとこいつを殺せ!」


 ドラゴンの頭の上に落ちたのは、ドラゴンの後を追ってきた冬馬が作り出した氷の塊だった。


「分かってるっつうの!『魔剛拳・闇』!」


「ほいっ!」


 大護の黒い拳と健一の大剣が、冬馬の攻撃で下がったドラゴンの頭に打ち落とされる。ドラゴンの頭はついに地面に落ち、なおも地面の表面を抉る。更に、そこへ水夜の追撃が加わる。


「まだまだ行くぞ!『我は望む、業炎の破壊を』!」


 ドラゴンの背中で水夜の魔力が大爆発を起こし、ドラゴンは地面に突っ伏す形になる。ドラゴンはなおも暴れようと身体をもがかせるが、今度は竜次の二丁の拳銃が火を拭く。


「あまり暴れるなよ。合成魔法『閃光』。」


 両腕から放たれた眩い光の弾が、目にも止まらぬ速さでドラゴンの身体に突き刺さる。ドラゴンは大声で吠えながら無茶苦茶に身体を捩りながら、大きく息を吸い込む。


「ちっ、まだ生きてやがる!凍れ!」


 冬馬は向かってきた尻尾をかわしながら、再び開こうとしているドラゴンの口を凍らせる。竜の息吹を吐こうとしていた口が凍り、それが口の中で暴発し、これにはドラゴンも苦しそうに身体を硬直させる。口を凍らせていた氷はその衝撃で砕けるが、未だにドラゴンは硬直したまま動けないでいる。


「首ががら空きだぜ!『魔剛拳・闇』!」


 硬直して動きを止めたドラゴンの長い首の中心に、大護は魔力を込めた拳を突き立てる。だが、その拳は固い鱗に弾かれてしまう。その衝撃に身の危険を感じたドラゴンは、暴風を発生させながら体を宙に浮かせ始める。


「固えな、くそ!一体何食えばあんなに硬くなるんだ!?」


 再び上空へと逃げようとしているドラゴンを見ながら、大護は弾かれ痺れた手を振る。あれだけの攻撃を受けたドラゴンは、それでもなお深い傷はなく、まだ健在といった感じで空高くに舞い上がっていく。


「ドラゴンっていうのは、普段魔力を纏っているのさ。」


「だからあんなに硬いのか。じゃあ、そうすれば奴に勝てるんだ?」


「さぁ?ドラゴンを呼ぶ研究はしていたけど、勝つための研究なんてしていなかったからねぇ。唯一可能性があるとしたら、この防魔法コーティングされてる大剣くらいかねぇ。」


 そんな健一の意見を頭に入れながら、全員は遥か上空まで飛んでいってしまったドラゴンにどうすれば勝てるのかと頭を働かせる。


 大護はドラゴンの頭の僅かについた傷を見て、何か引っかかるのを感じ、更にドラゴンを観察する。


 なぜあれだけ固かった鱗を通して、あんな傷がついたのか。傷の位置から見て、傷を付けたのは初めの自分の魔法と健一の大剣だろう。大護は魔剛拳・闇で傷がつけられたのを見て、その後もその魔法で攻撃したが、それは弾かれてしまった。


 その二つに何の違いがあるのか。その違いが分かるのとほぼ同時に、ドラゴンが大きく息を吸っているのが見える。


「やばい!避けろ!」


 大護の声が終わるのと重なって、目を覆わんばかりの光が自分達に向けて放たれる。それをかわそうと大きく地面を蹴った大護の視野の端に、明らかに攻撃範囲内にいる水夜の姿が入った。


「しまっ‥」


 気付いて引き返そうとした瞬間、水夜の姿は轟音とともに見えなくなった。




―大護の声が聞こえて、ドラゴンが口を開けたと気付いた時には、周りを光が照らしていた。だけど、なぜか自分の周りだけ影になっていた。


 自分の前に何かがあるのか?一体何があるんだ?


 周りの光が止んで、逆光で見えなかった何かの正体が分かった瞬間、全身の血の気が引くのを感じた。倒れこんでくるそれに、思わず手を伸ばしていた。


「秀治っ!!貴様がどうしてここに‥っ!」


 防魔法コーティングされていた服もぼろぼろに破れて、全身に激しい火傷を負いながらも、私をかばった秀治は嬉しそうな顔で私を見上げてくる。


「よ、か‥‥た‥ひと‥‥‥まもれ、たよ‥‥」


 私に手を伸ばそうとした手が、僅かに宙を彷徨って、すぐに力なく地面に落ちる。頬に何かが伝うのを感じる。でも、それ以上に怒りの感情が抑えきれなくなった。


「ああああああああああ!!!」


 握った手はもう、少し冷たくなっていた。―




 健一は光が止んだ時に、水夜の前に誰が立っているのが分かった。先程別れた時、あれほどついて来るなと言ったのだが、やはりついて来てしまったらしい。


 秀治は水夜を守った。きっと秀治も後悔はしていないだろう。そう心に言い聞かせても、身体が怒りで震えるのを止められなかった。


「おい。手ぇ貸せ。あのデカブツやるぞ。」


 水夜が泣き叫んでいるのを何処か遠くの事のように聞きながら、ドラゴンを見上げていた所に、後ろから大護に声を掛けられる。大護の声は冷静そうに聞こえたが、僅かに震えているのが分かる。


「‥‥どうするんだぃ?さすがにあそこまでは俺でも飛べないよ?」


「俺を飛ばす事は出来るんだろ?」


 大護の言葉に頷きはするが、言葉の意図が分からなかった。先程の言葉を忘れるほど冷静さを欠いているようには見えないが、何か勝機でもあるんだろうか。だが、大護は困惑している健一に説明もせずに、魔力を四肢の全てに込める。


「‥っ!?あんたも凄い魔力量だねぇ。本当に人間かぃ?」


 水夜のそれには及ばないまでも、大護の発している魔力はかなりのものだった。


「竜次、冬馬!援護頼むぜ!健一、俺をあいつの所まで思いっ切り飛ばしてくれ!」


「何する気か知らないけど、どうなっても知らないよ?」


 健一の大剣に大護を乗せると、健一は可能な限り空高くまで飛び上がり、そこで力の限り大剣を振り抜く。大護は振り抜かれるのに合わせて大剣を蹴りつけ、一気にドラゴンの頭上まで飛び上がる。


 ドラゴンは注意深く下にいる大護達を見下ろしていたが、急に自分の上に来た大護に驚き、大護に向けて尻尾を振う。


「こんなんじゃあ、俺は落とせないぜ?『魔剛脚・闇』!」


 大護はそれを予測していたように、迫りくる尻尾に踵落としを喰らわせて軌道をずらす。ドラゴンは尻尾に受けた衝撃が先程以上のものだと気付き、また竜の息吹(ドラゴンブレス)を吐こうとする。


「竜次!冬馬!これを何とかして反らせてくれ!」


「なっ!?いきなり無茶を‥!」


「手前はあほか!!いきなりそんな事言われて出来るか!!」


 二人はそう言いつつも、それぞれ魔力を練る。そして、ドラゴンが口を開け放つ直前に、竜次の銃口がドラゴンの顔を捉える。


「これは買ったばっかりだったんだが、仕方ないか。合成魔法『極光』。」


 竜次の四肢、拳銃、弾丸の全てに魔力が込められるが、その魔力量は閃光の時の数倍だ。それだけの魔力量に応じただけの速度で、弾丸がその銃身さえも破壊しながら撃ち出され、刹那の間にドラゴンとの距離を詰める。


 ドラゴンが口を開けるのと、竜次の魔法が当たったのは同時だった。ドラゴンもこれだけの衝撃を受けるとは思っていなかったのか、口から放たれた光は大護の頭上を掠める。


「そのまま動くんじゃねえぞ!凍れ!」


 冬馬の魔力がドラゴンの翼の付け根辺りで凝縮し、ドラゴンの羽が一瞬ではあるが止まり、僅かに高度を下げる。


「ナイスだ、二人とも!これでも喰らいやがれ、デカブツ!!『対の魔剛拳・漆黒』!!」


 大護の両手が真っ黒な闇に覆い隠される。その両手が組まれ、そのまま大護の頭上からドラゴンの頭へと振り下ろされる。ドラゴンは金切り声を上げながら高度を落としていき、ついにその巨体を地面へと墜落させた。


 ドラゴンは普段、鱗に魔力を纏わせて身を守っているが、その魔力が薄くなる瞬間がある。それは、竜の息吹(ドラゴンブレス)を放った直後だ。全身の魔力を口内に溜めて放つその魔法は、威力は絶大である半面、その直後は魔力を全身に回らせる事が出来なくなる。


 その事に大護が気付いたのは、初めの攻撃が通ったからだ。初めに攻撃が通ったのは、魔力が全身に行き届く前だと気付いた大護は、わざと攻撃を誘い、その瞬間を狙ったのだ。


 だが、ドラゴンはまだ生きていた。あれだけの攻撃を無防備に近い状態で受けて、なおも暴れようと体をうねらせている。


「くそ!さすがにもう魔力は残ってねえぞ‥!」


「俺もだ。冬馬はどうだ?」


「俺はあと一回あいつの動きを止めるぐらいしか‥」


「万事休すかねぇ‥」


 再び空へと逃げようとするドラゴンを前に、四人は為す術なくそれを見る事しか出来なった。


 だが、最後の一人は諦めていなかった。


「‥‥貴様、あと一回ならあいつを止められるんだな?」


 秀治の亡骸に泣きついていた水夜だったが、冬馬の声で顔を上げる。


「あ、ああ。って、お前は止めとけよ。あいつに魔法を喰らわせるのは、あの攻撃をかわした後じゃなきゃいけねえんだぞ?」


「いいからやれ!後は私がやる!奴を殺さなきゃ、秀治の死が無駄になる‥‥」


 一瞬悲しげに秀治の顔を見つめる水夜だったが、すぐに決意を固めて立ち上がると、四人の前まで歩いていく。


「貴様らは出来るだけ下がっていろ。」


 そう言った水夜の身体から、ドラゴンも警戒するほどの魔力が放たれた。

 自身に匹敵するほどの魔力を放つ水夜に対し、ドラゴンは警戒して空へとはばたこうとする。だが、背中の上に巨大な氷の塊が降ってきて、その動きを止めざる得なくなる。


 動きを制限されたドラゴンは、ならばと息を吸い、口内に全身の魔力を集め出す。水夜もドラゴンのその挙動を見て、詠唱を始める。


「『我は望む、業炎の宝玉を』!」


 水夜の魔力が一点に集中し、巨大な火球となる。だが、水夜は更に魔力を集中さえ、その火球に魔力を上乗せしていく。


 水夜から離れていた竜次はその様子を見て、更に動きを速める。


「どうしたんですか?竜次さん。」


「お前達も急げ!水原の魔法で死ぬ事になるぞ!」


 珍しく声を荒げる竜次につられて水夜の方を見て、冬馬は顔を青ざめる。水夜の周りの空気が、その火球の放つ熱によって曲がり、その熱は水夜の足元の草を炭にしているのだ。


「あいつ、どれだけの魔力を‥!?」


 冬馬がそう言っている間にも、熱は空気を伝わり、その歪んだ景色を広めていく。おそらく、あの熱に当てられた人間は、火傷では済まないだろう。


「おいおい。お宅のお譲ちゃん、何する気だぃ?」


「知るかよ!俺だってあんなのは見た事ねえ!」


 迫る歪んだ空間から逃げる為に、走る速度を上げながら、大護が後ろを振り返ると、ちょうどドラゴンが口を開けた所だった。だが、水夜はそれを避ける素振りも見せず、再び口を開く。


「二重詠唱『我は望む、蒼炎の宝玉を』!!」


 水夜の声を引き金に、それまで宙に浮いていた真っ赤な火球が、表面を揺らめかせながら透き通った蒼になり、ドラゴンへ向かっていく。それに身の危険を感じたドラゴンも、口内に溜めていた魔力を一気に吐き出した。


 水夜の蒼い火球とドラゴンの竜の息吹(ドラゴンブレス)は、一瞬だけ拮抗を見せた後、水夜の火球が呑まれる。


「水夜!!逃げろ!!」


 大護は走らせていた足を止め、そう叫んだが、水夜はその場を微動だにしない。そして、水夜が竜の息吹(ドラゴンブレス)に触れる直前に、その動きが止まり、急に逆方向へと動き出す。


 水夜の火球は、呑まれてなどいなかった。竜の息吹(ドラゴンブレス)の中心を貫き、そのまま進んでいたのだ。そして、ついに竜の息吹(ドラゴンブレス)を内から吸収し始め、その勢いを上乗せしてドラゴンに向けて飛んでいく。


 ドラゴンは目の前の光景に驚き、何とか逃げる為に身体を起こそうとするが、それまでのダメージが響いたのか、がくりと膝を落とす。そして、水夜の魔法と自身の魔法の威力が合わさった、高エネルギー体に体を貫かれる。


 大地を揺るがす断末魔の後、ついにドラゴンは力尽き、その身を地に突っ伏す。


「秀治。お前のおかげで大勢の人を守れ、た‥ぞ‥‥」


 水夜は秀治の方を見てそう言うと、魔力の使い過ぎによる疲労で気を失った。


 こうして、魔界中を騒がせる事になる、ドラゴンの襲来事件は幕を閉じたのだった。







「ん、‥‥‥ぇ?ここ、は‥?」


 目を覚ました水夜は、だるく重い体を起こす。周りを見渡すと、清潔感漂う真っ白い部屋のベッドで寝ている事が分かった。おそらく病院だと言う事は分かったが、ここに来る前の記憶が朧気だった。


 しばらくぼんやりとした頭を捻っていると、病室の扉がノックされ、大護が中に入ってくる。


「よ、起きたみたいだな。調子はどうだ?」


「大護、私はどうして病院に?」


「覚えてないのか?お前がドラゴンを倒したんだぞ?」


 大護の言葉で、ようやく気を失う前の記憶が蘇って来た。教会での秀治との戦い、その後のドラゴンとの死闘、そして、秀治が死んだ事。記憶が一気に溢れだし、少しめまいを起こす。


「で、ここはどこの病院だ?魔界か?」


「いや、人間界だ。請負所の側の病院だよ。」


 大護は脇に抱えていた見舞いの品を、ベッドの隣のテーブルに置きながら、自身もベッドの脇の椅子に座る。


「そ、そうか。もう人間界に戻ったのか‥」


「三日間は向こうにいたんだけど、お前が目を覚まさないから勝手にこっちに帰って来た。里帰りでもしたかったか?」


 大護の問いかけに、水夜はほっとしたようにした後、首を横に振る。


「すまんな、いろい‥」


「みぃちゃ~ん!お見舞いにきたよぉ!」


「ぐふぅっ!?」


 水夜が珍しく大護に謝ろうと口を開いた途端、病室の扉が勢いよく開け放たれ、そこから姿を現した沙織がベッドの上の水夜目掛けてダイブする。自分よりも体の大きい沙織に勢い良く圧し掛かられ、水夜は呻き声を漏らすが、沙織はそんな彼女にもお構いなしだ。


「聞いたよ!いろいろ大変だったんでしょ!?マフィアと戦って怪我したり、ドラゴンと戦ったり、ずっと寝たきりだったり!もう大丈夫なの!?痛い所はない!?私のこと分かる!?」


「き、貴様が、今乗ってい、る所、が痛い‥!」


「ここ!?ここが痛いの!?やっぱり怪我したんだ!大丈夫!?」


 水夜の精一杯の皮肉も、沙織の状態を更に悪化させえる結果にしかならず、沙織は器用に水夜の身体を踏みながら、先ほど乗っていた場所を撫でる。結局痛む場所が移っただけの水夜は、何とか沙織を退かそうと、また無駄な努力を強いられてしまう。


「すいません。大護さん達が帰って来たって聞いたら、沙織が言う事を聞かなくて。」


 沙織の後から病室に入って来た香織は、ベッドの脇から避難していた大護の隣に立つ。


「気にすんなよ。迎えに来てくれただけでも、あいつは嬉しいだろ。」


 大護の言葉を裏付けるように、水夜の顔はどこか嬉しそうだった。そんな大護の横顔を見て、香織は頬を緩める。


「ふふっ。私達は大護さんも迎えに来たんですよ。」


「‥‥そうかい。そりゃありがとよ。」


 照れくさそうに頭を掻いてそっぽを向く大護に、香織は一層頬を緩めて、笑い声を漏らすのだった。


 だが、のどかな四人の知らない所で、運命の歯車は音を立てて回り始めていた。今はその事に誰も気付く事が出来ず、そして、それを止める事も出来ないのだった。

ドラゴンのイメージは、某ハンティングゲームの鋼竜と黒竜が混ざったような感じです。

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