信念と罪
今回からは戦闘シーンがメインでシリアス多めです。
大護達が騒いだ晩が過ぎ、ついに謳歌師団に乗り込む時間となった。予定通り、大護は竜次と、水夜は冬馬とに分かれて、教会の正面と裏側に回る。
教会の正面で新聞を読んだふりをするという、なんともべたな誤魔化し方をしながら辺りの様子を伺っていた竜次の目に、明らかに不自然な物が入る。不自然な物の正体は、どこか挙動不審な大護だった。意味もなく左右を見てみたり、腕を組んで貧乏揺すりをしてみたりと、一時たりとも落ち着く様子がない。
「黒河、もう少し落ち着け。」
「いや、でもなぁ‥‥」
なぜ大護がそんなに落ち着かないかと言うと、それは今回の作戦にあった。まず一般人を遠ざける事から始まるのだが、その方法が大護の冷静さを失わせているのだ。
「そんなに心配しなくてもいい。そのために冬馬と行かせたんだぞ。」
「いや、でもなぁ‥‥」
先程から何を言ってもこれだ。今まで一緒に仕事をしてきた大護には、水夜が手加減出来るかが不安で仕方ないのだ。大護を落ち着かせるのが無理だと判断した竜次は、仕方なく合図があるまで、大護が不審人物として魔界の警備隊に捕まらない事を祈るのだった。
教会の裏手に回った水夜と冬馬は、誰にも見つからないように、裏口の前の茂みまで来ていた。裏口には、教会の警備には厳重すぎる装備をした衛兵が二人立っていた。
「あんなに厳重に警備してると、何か隠してるのが丸分かりだな。」
「全く、間抜けな奴らだ。」
衛兵に見つからないように身を潜めながら、冬馬が魔力を放出する。冬馬の魔力を感じた衛兵は辺りを見回すが、魔力が頭上に集中しているのに気付き、上を見上げる。そのタイミングを見計らって、冬馬が魔力を一気に圧縮させる。
「「ぐっ!?」」
衛兵は頭上に突然現れた氷の塊に目を見開くが、驚き硬直した体では落ちてくるそれを避けられず、そのまま頭を襲う衝撃に意識を手放す。
「やはり貴様の魔法は綺麗だな。」
衛兵の意識がないのを確認した水夜は、伸びをしながら茂みを這い出る。冬馬のそれに続いて茂みを出てくるが、その顔は何処か苦々しい物だった。
「だから魔法じゃねえって言ってんだろ。」
冬馬が言う通り、彼自身は魔法が使えない。だが、魔力自体が特性を持っており、魔力を圧縮させればさせるほど、温度を下げる事が出来るのだ。今衛兵の頭上に現れた氷も、冬馬の魔力で空気中の氷が凍結して出来たものだった。
障害を取り除いた二人は、今まで隠れていた茂みに衛兵の身体を隠すと、もう一度周りに人がいない事を確認し、作戦を実行する。水夜は教会の屋根へと手を向けると、魔力をそこへ向けて放つ。
「『我は望む、赤き矢を』。」
放たれた魔力は炎へと姿を変え、教会の屋根に燃え移り、黒煙を立てる。しばらくすると、異変に気付いた人々が騒ぎだし、教会内にいた信者達は、正確な情報を得られない不安で逃げ出す。竜次の作戦は、火事で一般人を避難させ、その間に教会に踏み込むと言う物だったのだ。
「よし!上手くいったようだな。」
「マフィア潰すためとはいえ、警察の俺がこんな事黙認していいのか‥?」
作戦通りにいった事に喜んでいる水夜の横で、冬馬は自分の仕事のあり方に疑問を持つが、これも竜次の為だと自分に言い聞かせる。
その後、教会内の人々が避難した頃合いを見計らい、魔力で消火して、裏口から水夜とともに教会へ入っていく。
「黒河。合図があったぞ。」
「何っ!?本当か!?教会が消し炭になってないか!?」
教会から黒煙が上がったのを見た竜次は、先程からそわそわしていた大護に声を掛ける。本人がいれば、間違いなく自分が消し炭にされそうな言葉を発しながら、大護は慌てて教会に目を移し、教会ごと消し炭にされなかった事に胸を撫で下ろす。
人々が避難するのを建物の蔭から見ていた二人は、しばらくしてから逃げ惑う人々の波に逆らって教会へと入って行った。
火事で起きた騒ぎは、教会の地下まで届いていた。昨日と同じ地下室で退屈そうにゲームをしていた秀治は、それが誰によるものかをすぐに悟り、ぱぁっと顔を輝かせる。
「やった!遊び相手が来た!」
「はぁ‥‥ずいぶん呑気だねぇ。」
ゲームに付き合っていた健一は、秀治が投げ出したコントローラーを片付けながら、呑気な口調で溜め息を漏らす。一方の秀治は、嬉しそうに魔力を練りながら、今か今かと言った風に落ち着かない。それを見た健一は何を言っても無駄だと思い、仕方なく自分も大剣を背負う。だが、その顔は何処か曇っていた。
「じゃあ、予定通りに俺がチビで、健一さんが『血染めの死神』だよ!」
「分かってるよ。じゃあ、少し景気づけと行こうか。」
何をするのかと見ている秀治を横目に、健一は手榴弾を手に取る。そして、背負っていた大剣を構えて、床を強く蹴る。少しでも秀治の生存確率を上げるために。
人がいなくなった教会内で、特にマフィアの構成員と争う事もなく大護達は合流した。大護と冬馬は顔を見合わせるなり、互いに顔をしかめたが、敵地で騒ぐような事をするほど、二人も馬鹿ではない。
「で、これからどうする?」
「また二手に分かれて‥っ!?」
竜次が言葉を発したのと同時に、床下から轟音が鳴り響き、床が崩れる。そして、突然足場を失った四人の真ん中に何かが割り込んできた。
「あら?二人だけだと思ってたんだけどねぇ。ま、細かい事はいいかぃ。」
床下から現れた健一は、そう言ってピンを抜いた手榴弾を頭上へと投げる。
「くっ!?離れろ!!」
大護の声を掻き消すように、その場に爆音が鳴り響き、爆風が四人を別々の方向へと吹き飛ばす。爆風を大剣の腹で吸収した健一は、地下へと降り立つと、秀治に水夜が飛んでいった方向を指さした。
「お嬢さんはあっちだ。じゃ、気を付けていくんだよ。」
「ずるいよ、健一さん。抜け駆けだ。」
少し呆気に取られていた秀治だったが、すぐに顔をしかめて駄々をこねる。健一はお詫びのように頭を撫でながら、まあまあとなだめる。
「悪かったよ。他の二人は早いもん勝ちでいいかぃ?」
「おっけー!じゃあ、さっさとあいつを殺さなきゃ!」
無邪気のそう笑った秀治は、健一が指さす方へと走って行った。それも見送った健一も、自分も遅れないように大護の方へと歩いて行った。
吹き飛ばされた水夜は、強く打った頭を押さえて、よたよたと壁伝いに歩いていた。魔導士である水夜は、大護のように上手く受け身を取れない。普段は後ろから魔法で大護を支援しているだけだったため、今まで必要としていなかった事が災いしたのだ。
「うぅ‥‥‥あの顔は確か、山本健一だったか‥?絶対に燃やしてやる!」
ようやく脳震盪が収まって来た水夜は、悔しさを紛らわせるために地団太を踏んでいると、自分以外の足音に気付く。足音の方へ目を向けると、自分と大して身長の変わらない少年がこちらに向かってきていた。
「貴様は‥‥近藤秀治か。悪いが今は‥」
「挨拶はいいや。死んで。『疾風脚』。」
水夜が攻撃されていると気付いた時には、側頭部に衝撃が走り、横へ移動しようとする頭に追随するように、身体ごと吹き飛ばされていた。吹き飛ばした本人は、僅かながら驚いた顔をしていた。これで勝負が決まると思っていた秀治は、身体を震わせながら起き上ってくる水夜を見て、予想外にしぶとい獲物を前にして、口元を吊り上げる。
「あんた、丈夫だね。普通の人なら、これで頭が潰れてるのに。」
「ふんっ。貴様のへなちょこな蹴りでは、この私は殺せないぞ。」
「へぇ。じゃあ、これはどうかな。『疾風脚』!」
また軽い脳震盪でふらつく身体に鞭打ち、水夜は立ち上がるが、わざわざそれを待つような秀治ではない。再び足に魔力を込めながら、床を蹴りつけて、水夜の頭に踵落としをかまそうとする。だが、水夜も黙ってやられるほど、お人好しではない。飛んで距離を詰めてくる秀治の前に魔力を集中させる。
「『我は望む、赤き破壊を』!」
「おっと!?『疾風脚』!」
眼前で軽い爆発が起きた事にも、秀治は慌てた様子もなく、両手で顔を庇う様にして、そのまま炎の中に突っ込んでいく。すると、炎が秀治を襲う前に掻き消されていく。これで隙が出来ると思っていた水夜は、魔力で形成された炎が掻き消され、驚いた表情を取る前に、また石のように転がされる。
「っ、‥‥‥うぅ‥」
吹き飛ばされた水夜は、また横になった身体を動かそうとするが、今度は本格的に身体が動かない。動かない身体を動かそうともがきながら、水夜は上手く働かない頭で、目の前で起こった事の理由を考えていた。確かに炎と風では、風の方が有利の事は分かっていたが、それを差し引いても、先程秀治が身に纏った魔力の風は、自分の炎を掻き消すにしては弱過ぎた。あの程度の風では、せいぜい爆風で身体が吹き飛ばされるのを防ぐ事しかできない筈だ。
そんな思考が顔に出ていたのか、秀治は水夜を見下ろせる位置まで近付いて来ると、水夜の頭に足を乗せながら、得意気に話しかけてくる。
「自分の魔法が消されたのが信じられない、って顔だね。理由を教えてあげようか?」
顔を踏まれながらも、まだ目が死んでいない水夜を、秀治は腹を蹴りつけて、また転がす。
「ぐっ!?‥っ、がはっ‥‥」
「簡単な話だよ。俺に服には、防魔法コーティングが施されてるんだ。唯一、靴だけがされてないんだけどね。」
抵抗らしい抵抗をしてこない水夜に、秀治は勝ち誇ったように言葉を続ける。諜報員から知らされた情報で、水夜が魔導士である事を知っている秀治は、足と顔さえ守れば、魔法が通じない事を知っている。知っているからこそ、油断してしまった。
「話、しは‥‥それだけ、か‥?」
苦しそうな口調で声を漏らした水夜から、空間が歪んで見えるほどの魔力が噴き出し、秀治は本能的に距離を取る。身体が勝手に身構えての行動だったが、それは水夜に立ちあがる猶予を与えてしまう。
「私を何度も蹴った事を後悔させてやる!」
「じゃあ、もっと後悔させてもらうよ!」
二人を覆う魔力の渦の中、秀治は水夜に向かって走り出した。秀治が走りだしたのを確認した水夜は、すぐに詠唱を唱える。
「『我は望む、赤き壁を』!」
水夜の唱えた詠唱によって、その場を満たしていた魔力が炎の壁となり、秀治の行く手を阻むように燃え盛る。だが、秀治は足に魔力を纏いつかせるだけで、速度を落とさずに、その壁へと突っ込む。
「何度やっても無駄だよ!『疾風脚』!」
防魔法コーティングされた服と、足を包むように吹き荒れる風が炎を撥ね退け、秀治は無傷で目の前の壁を突き破る。秀治は足に籠めていた魔力はそのままに、水夜を蹴ろうとして、その動きを空中で止める。壁の向こうにいた筈の水夜の姿がなくなっていた。
「どこを見ている!こっちだぞ!『我は望む、灼熱の矢を』!」
「右だね‥!遅い!」
声のする方へ目を向けると、既に目の前まで迫って来た炎の矢が視界に入る。秀治はそれを足に留めていた風で吹き飛ばすと、また水夜の姿が見えなくなっているのに気付く。そして、今度は見ている反対側から声がした。
「防魔法コーティングでも、これは防げないだろう!『我は望む、灼熱の破壊を』!」
秀治が声のした方を見ると、水夜が魔法で椅子を爆発させているのが見える。一瞬何がしたいのか分からなかった秀治だが、飛来してくる無数の木片を見て、すぐに魔力を全身に纏わせる。
「『疾風壁』!」
見えない風の壁が秀治の周りを包み込むように発生し、飛来してきた木片を粉々に粉砕して弾く。今度は水夜から目を離さないようにしながら、秀治は足に魔力を込める。
「隠れんぼは終わりだよ!『斬風脚』!」
秀治が瓦礫の後ろに隠れようとしている水夜の方へと足を払うと、見えない刃がそこにあった瓦礫を切り崩す。瓦礫を崩されて動きを止めた水夜に、秀治は容赦なく攻撃を続ける。
「ほらほら、逃げなきゃ真っ二つだよ?『連・斬風脚』!」
土埃で姿を消した水夜の方へと、何度も襲いかかる鋭い風の刃。秀治はその数が十を越えた辺りで足を止め、土埃が止むのを待つ。直接蹴る技ではないので、肉を潰す感触が味わえないのが残念だったが、たまにはズタズタになった人間の死体を見るのもいいか。そんな事を考えていた秀治だったが、土埃の向こう側で僅かに何か動くのが見え、大きな目を更に大きくする。
「まさか、あの斬撃を全部かわしたの‥?」
「どうした?来ないなら、こっちから行くぞ!『我は望む、赤き大地を』!」
土埃の向こう側から姿を現した水夜が、床に手を付ける。その動きが何を意味するのかを悟り、秀治は瞬時に高く跳躍する。秀治の読み通り、足元が一気に燃え上がり、木造で出来た床を黒く焦がしていく。だが、水夜の魔法の及ぼす被害は、秀治の予想を超える。
「壁に燃え移って‥!?くっ!『疾風脚』!」
木造の教会は、水夜から受け取った炎を十二分に受け取り、床から壁、壁から天井へ浸食領域を増していく。天井に張りつこうとしていた秀治は、慌てて魔力を足に集めて、空中に留まろうとする。だが、水夜の猛攻は止まらない。
「これで避けられんだろう?『我は望む、灼熱の破壊を』!」
「くっ!?『疾風脚』!‥‥がっ!?」
詠唱に点火された魔力は、秀治の目の前で大きな爆発を起こし、その小さな体を紙切れのように吹き飛ばす。秀治は慌てて衝撃を和らげようとするが、それは失敗に終わる。魔力の枯渇である。吹き飛んだ身体は、勢いを殺す事なく、そのまま教会の壁へと叩きつけられる。叩きつけられた際に起きた風で炎はある程度掻き消されたが、その衝撃をまともに受けてしまう。防魔法コーティングされていない頭部と四肢に軽い火傷を負った秀治は、そのままずるりと床まで崩れ落ちる。
「く、‥‥ぁ、れ‥?」
すぐに立とうとした秀治は、思うように足に力が入らずに、また床に崩れる。先程の水夜同様、軽い脳震盪を起こしていた。何とか立とうとしている秀治に近づいてきた水夜は、腰に手を当てて、大きく踏ん反り返っている。
「わははは!これでおあいこさまだな。」
秀治は水夜の笑い声を聞きながら、自分の負けを悟り、無駄な抵抗は諦めた。
抵抗を止めた秀治は、敵を目の前にしても呑気な態度の水夜を、健一に似ていると思った。まだ敵が生きているにもかかわらず、水夜が自分を殺そうとしていない事が不思議で、気付けば口が勝手に開いていた。
「あんた、俺の事殺さないの?」
「ん?何だ、唐突に?」
豪快に笑っていた水夜は、床に寝転がったまま、こちらを不思議そうに見上げてくる秀治を見下ろす。初めは冗談だと思ったが、そのような雰囲気でもないので、水夜は仕方なく答えてやる。
「なぜ貴様を殺さなきゃならんのだ?私は文字通り、貴様らに焼きを入れに来ただけだ。」
「じゃあ、どうやって決着つけるの?俺はまだ生きてるよ?」
「もう貴様は戦えんだろう?もう魔力も残ってはいまい。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
水夜の言葉に、秀治は更に疑問を深める。今まで裏の社会で生きてきて、殺す事でしか戦いを終わらせられなかった秀治にとって、水夜がさも当然のように言っている事が信じられなかった。唯一相手を殺さずに戦いが終わったのは、健一と戦った時だけだった。あの時は、健一が謳歌師団に入ると言う事で、戦いが終わったからだ。
だが、今回は明らかに、その時とは状況が違っている。未だ敵対状態である水夜が、自分を殺さないでいる理由が思い当たらなかった。
「力を持っているのに、何でそれを使わないの?あんただったら、俺を殺す事が出来るんだよ?何で殺そうとしないの?」
「貴様は何か勘違いしているようだな。力は守るために使うんだぞ。」
水夜の言葉に、秀治は初めて少年のようにあどけない顔を見せる。衝撃的だった。今まで、力は殺す為だと教わって来たし、相手もそれをしてきた。だから、それが当たり前だと勝手に決めこんで、自分の中で完結していたのだ。
いや、そうではない。そう決めつけないと、自分の親を殺された事への、どうしようもない怒りを抑えきれなかったからだ。魔法を覚えたてだった秀治は、目の前で無残に殺される両親を、ただ震えて見ている事しか出来なかった。だから、力を手に入れた後は、それを使って人を殺し続けた。そうする事で、自分の両親が殺されたのは、仕方のない事だったと思い込ませるために。
だが、目の前の少女は、それを否定した。水夜の言葉は、両親が幾度となく口にしていたそれだった。その両親が殺されたから、それが間違っていると自分に言い聞かせ、ひたすらに人を殺してきた。だが、守る者が勝ち、殺す者が負けた。そんな今の状況は、今までの秀治の行動を真っ向から否定するものだった。
「違う!力が無い者は殺される!それが世の中の全てだ!今までそうやって生きてきたんだ!」
知らずに声を荒げていた。目の前の少女が、今まで自分に言い聞かせていた言葉を否定するのが怖くて、許せなくて。
いきなり声を荒げた秀治に水夜は驚いた表情をするが、それでもすぐに元に戻る。
「殺さないと言うのが私の信念でな。貴様が今までどう生きてきたか知らんが、私は自分の信念を貫くだけだ。」
「そんな甘い事を言っている奴は殺されてきた!なのに、何であんたは死んでないんだ!?」
両親と同じ言葉を言っている少女が、自分に勝った事が気に入らなかった。なぜこの少女は生き残って、自分の両親が死ななければならないのか。なぜ甘い考えを持って生きてきた少女が勝ち、自分を殺して生きてきた自分が負けるのか。
秀治の言いたい事が何となく分かった水夜は、少し表情を優しくし、鋭く睨みあげてくる少年に手を伸ばす。手を伸ばされた秀治は殺されるとでも思ったのだろうか、身を固くして目を瞑る。だが、水夜は優しく頬を撫でるだけで、それ以上の事はしない。
「それだけ怒る事が出来るなら、貴様はまだ救いようがある。人を殺した事は許される事ではないが、殺してきた人々の分だけ長生きしろ。そして、その人生は懺悔に捧げろ。」
水夜の言葉を聞いて、秀治は何かが頬を伝っていくのを感じる。水夜はそれを拭ってやりながら、言葉を続けていく。
「貴様には刑務所に入ってもらう。そこで反省しろ。それでも足りないと感じるのならば、私も貴様の罪を一緒に償ってやる。貴様が殺した人の分、私が人を守ってやる。」
「‥‥‥いい、のかな‥?‥‥‥自分勝手に人を殺してきた俺が生きてて‥」
それまで頑なだった秀治の心が、僅かに綻ぶ。綻んだ心から涙は止め処なく流れ、それと一緒に申し訳ない気持ちも溢れてくる。
「貴様が死んでも誰も救われんぞ?後悔しているのだったら、生きて人を救えるようになれ。」
水夜の言葉に、秀治は言葉もなく頷く。
今まで、秀治はこうなる事を望んでいたのかもしれない。自分より強く、でも両親のような甘い考えを持った者に負ける。その事実が、両親は間違っていなかったと言ってくれているような気がした。
「動けるようになったら、教会から離れていろ。私はまだやらなきゃならん事がある。」
水夜はそう言って、まだ泣いている秀治から離れていった。秀治はその後ろ姿を見送りながら、心の中で何度も感謝の言葉を繰り返した。
珍しく、水夜メインの話でした。主人公の大護は、特に何もしてないですね。




