転生した勇者(♀)と聖女(♂)の偽装ラブコメ
前世では勇者だった少女、
前世では聖女だった少年、
恋心の分からない2人の偽装ラブコメ。
「3年生の皆様、卒業、おめでとうございます」
「大学に進学する人や就職する人などがいるでしょう。
そして、この卒業式に対しての思いも、人それぞれでしょう」
「私、生徒会長の私は、先輩たちの卒業を心から祝福します。
卒業、本当におめでとうございます」
私は笑顔で言う。
壇上で、生徒会長からの言葉。
泣いている卒業生、泣きそうな卒業生、受験に失敗したのか焦っているような卒業生もいる。
生徒会長からの言葉、生徒会長の使命、か。
まあ、こんなものだろう。
普通は嫌なのに普通にしないといけないなんて。
卒業式後。
卒業生の3年生と最後の会話をしている後輩や、「この後どっか行かね?」と打ち合わせをしている卒業生たちとか。
皆、笑顔で楽しそうに。
そんな中、
「聖ちゃんっ、オレのスピーチ、どうだった?」
「凄かったですよ、勇くん」
「えへへ。オレ、頑張ったんだ」
「流石です。流石、世界の救世主」
「もー、言い過ぎだよ」
「ふふふ」
「ははは。本当に言い過ぎだって」
いや、本当に。
校庭で、オレ(今は私じゃない、式が終わったから)と1年生で後輩の聖ちゃん(今は♂)は仲良くする。
「本当に仲良しだよね、会長たち」「ラブコメだな、ラブコメ」
声が聞こえてくる。
「けど、あの会長も来年は卒業生か。寂しくなるな」
そんな声に、ついドキッとしてしまう。
そして、今、オレたちは図書館に歩いて向かっている。
「素敵でした、勇者様の言葉」
「はっ。
どこが」
「勇者様の言葉だからです」
「あっそ。誰もいないからって勇者とか言うのやめろよな、この世界じゃイタイ奴でしかないよ」
「誰もいないから、ですよ」
「こわいこわい」
「ありがとうございます」
笑顔で言われる。
正体がバレたら嫌だし、コレを野放しにしてたらどうなってしまうかわからないから、仕方なく学校ではラブコメをしている。
けど、本当は偽装。
オレに恋心は分からないし、コレは恋心じゃなく『信仰』だから、本当に偽装。
どっちも、恋心は分からない。
この人生も、前の人生も。
「てのは、どうでもいいんだよ」
オレはため息を吐き、うなだれる。
本当、どうしよう。
あー、どうしよう。
「どうしました? 勇者様」
「気にすんな」
この狂信者には絶対に知られたくない、オレの悩みは。
何をしでかすか、分からない。
しっかし、本当にどうしようかな。
普通は嫌なんだ、普通は。
でも、時間は迫ってきていて。
来年、オレは高校を卒業してしまう。
それまでに、将来の夢を決めないと。
普通じゃない夢、自由で、とにかく普通じゃない夢。
あと、あの高校も、何かオレの名前を残すような、普通じゃなくて、でっけえことをしないと。
というのに、夢もまだなく、でっけえことも未だしてなくって。
はあ。
不味いな。
図書館。
コレは、椅子に礼儀正しく座り、一心不乱に本を読む。イケメンやオッサン顔だったら不気味に見えたかもしれないが、多分可愛い系の顔だから、礼儀正しく、かしこまって座っても、不気味ではない。
オレは、隣にいる。椅子に座って。若干股を開いている。スカートだが、まあ、見えないだろう、何がとは言わない。
本を、オレは開いてみる。
適当に、目についた本。
読もうとする。
だが、集中できない。
…。
マジ、どうしよっかな。
将来が怖すぎる。
来年卒業だぜ? オレ。
勉強はできるから、そこはいいんだが。
そういう問題じゃないんだよなー。
「普通じゃないこと、普通じゃないこと」
「将来について悩んでいるのですね」
「いや、何でバレてんの」
「信者ですので」
真顔で言ってくる。
ふと、あのときを思い出す。
『勇者様は本当に素晴らしく、ボクの世界を救ってくれました。さあ、あなたも勇者様の素晴らしさを知って下さい!』
「初対面でアレだったよな、お前って」
「?」
オレを勇者と知らなくての、アレ。
本当にビビった。
もし、勇者本人がいなかったら、コレはただのイタイ奴で、いじめられるか、避けられるか、どっちかだったにちがいない。
だから、偽装ラブコメしてるんだがな。
恋心なんてないのに。
「勇者様は、将来に悩まなくても問題ありません」
「人いる人いるよ?」
「なぜなら、私が勇者様の学校での素晴らしさを、卒業した後、学校の皆に説くので!」
「やめてやめてやめて」
「前の怠惰な世界みたいにならないよう、頑張りますので、安心して下さい」
微笑まれる。
オレが魔王を倒し、自殺した後の世界は、だらけきった、怠惰な世界だったらしい。
まあ、魔王がいないからな、目標がなくなったから、だろう。
「オレの将来はどうしたらいい? 聖女サマ」
「私、ボクのお嫁様に」
「恋心分からないのに?」
「尊敬はあります」
「絶対ヤダ」
どうするか分からないが、コレ(狂信者)の嫁とか、屈辱すぎるわ。
『貴方は勇者として産まれたのです』
母、いや、アイツは言った。
『勇者として魔王を殺し、世界を平和にしなければなりません。それが、貴方の存在する唯一の理由です。それ以外に、生きる理由は貴方にはありません』
真面目に。
普通に生きることを諦めさせられた。
魔王を倒し、世界を平和にする、それしか考えさせてもらえなかった。
だから、だろう。
『僕の…僕の生きる理由は?』
魔王を倒した後、すぐ、思った。
『ははは、ない、ない! 僕に生きる理由はない!』
大笑いし、
『よし、死のう』
剣(相棒)を自分に刺し、死んだ。
魔王を倒すために生き、魔王を倒したら自殺した、そんな、オレの前世。
だから、普通に生きたくないんだ、この人生は。
自由に生きていいんだから。
普通じゃない、歴史に載るような、凄い人生に。
「いっそ時止めてくれねえかな」
「頑張ります」
「前世でもムリだろ、聖女様」
「ボクと結婚しましょう」
「絶対ヤダ」
てか、何で聖女も転生してんの?
前世では全く関わりのなかった聖女様が。
ありがとうございました。




