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二人の声は、空と海に響き渡った。

作者: をりふで
掲載日:2026/01/11

 空と海が見える港町。

 十歳の少年と少女がいた。

 学校の帰り道。

 夕方になっても、空気は熱と湿気を孕んでいる。

 少女は、前を歩く同じクラスの少年に聞く。

「引っ越しするって、本当?」

 少年は、面倒臭そうに答える。

「お父さんの仕事の都合でな」

「いつ?」

「来月の十日」

「夏休み入って、すぐだね」

「おう」

「どこに引っ越すの?」

「海外」

「遠いね」

「そうだな」

「また、戻ってくる?」

「わかんねー」

 会話が途切れた。

 少年は少女の足音がしないことに気づいて、後ろを振り向いた。

「どうしたんだよ」

 少女は俯いていた。

「会えなくなっちゃうんだね」

「なに言ってんだ?」

 少年に言われ、少女は顔を上げた。

「だって……」

 少年は少女から顔を背ける。

「大人になったら、また会える、だろ」

 少女は、少年の顔を覗きに行く。

「ねぇ、どうしたの?」

 少年は腕で顔を隠す。

「恥ずかしいこと、言わせるからだろ」

「わたしの方が背が高いから、顔見えるよ?」

「おまえの背なんて追い越すからな」

「大きい海斗(かいと)くんか。想像できない」

 少女は顔を曇らせた。

「わたしたち、大人になるのに十年は待たなきゃなんだよ?」

「それがなんだ」

「海斗くんに恋人ができたら、会えなくなるよね」

「恋人ができるとは、決まってねーし」

「……いやだ」

 少女の口から漏れ出た言葉に、少年は硬直する。

「それって……」

「海斗くんの、彼女さんや彼氏さんの邪魔したくない」

「一人としか付き合わねーよ」

「えっ、もしかして恋人がいるの? 彼女? 彼氏?」

「どっちもいねーよ」

 少年は拗ねた表情を浮かべた。

 少女は、少年の表情に気づかない。

「十年後、海斗くんに会えるのかな」

「お、おれが、会いに行くから、いいだろ」

 再び少年は少女から顔を背けた。

「忘れない?」

「おまえこそ」

「電話、してもいい?」

「……おう」

「あまり長電話はできないけどね。お母さんに怒られちゃうから」

「わかってる。おれの家もそうだし」

 少女は空と海を見つめた。

 空に大きな雲。

 海の穏やかな波。

 風が潮の匂いを運ぶ。

 空と海の青い地平線。

「離れていても、空と海は繋がっているよね」

 少年も空と海を見つめる。

「同じ空と海は、見れないけどな」

「海斗くんは、ロマンチストじゃないね」

「悪かったな」

「わたし、海斗くんのこと待っているね」

「おれが行くまで、ここにいろよ。み、美空(みそら)

 少女は少年に名前を呼ばれ、笑った。

「うん。約束だよ」

「ああ。約束」


 

 十年後。

 港町に一人の青年がやって来た。

 とある民家に訪れる。

 青年は深呼吸をしてから、民家の呼び鈴を押す。

「どなたか、いらっしゃいますか?」

「はーい。あら、どなたかしら?」

 出て来た女性は、美空の母親だ。

「美空さんと同じクラスだった海斗です」

「ああ、海斗くん。久しぶりね。こんなに大きくなって。元気だった?」

「はい。父と母も元気です。その節は、大変お世話になりました」

「いいのよ。こちらこそ海斗くんのお父さんとお母さんにお世話になったもの」

 海斗は緊張した表情を浮かべる。

「あの……美空さんいますか?」


 美空は、空と海が見える場所にいた。

 見上げるほど大きい雲が浮かぶ空。

 穏やかな波を繰り返す海。

 潮の匂いを運んでくる風。

 世界の果てまで続いているような青い地平線。

「なにしてんだ?」

 声をかけられ、美空は振り返る。

 美空の頭一つ分、背の高い青年がいた。

「えっと、海斗くん?」

「ああ」

「久しぶりだね」

「そうだな」

「会いに、来てくれたんだ」

 海斗は美空から顔を背ける。

「おう」

 美空は顔を両手で隠した。

 海斗は美空の様子を伺う。

「どうした?」

「だって……」

「連絡しないで来たからな。悪い」

 海斗と美空は、十年前から連絡を取り合っていた。

 美空は首を横に振る。

「そうじゃないの」

「なんだよ?」

 美空は両手を退かした。

「私より背が低かった海斗くんが、こんなに大きくなるなんて聞いてない!」

「再会して言うことが、それかよ!」

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