最終話 星を味わう晩餐と、旅立ちのスープ
「伸びろ、グラム!! 限界を超えて伸びろォォォッ!!」
ボルグが魔力を注ぎ込むと、魔剣グラムが眩い光を放ちながら巨大化した。 全長数キロメートル。もはや剣ではない、天を突く「柱」だ。
『おい! やめろ! ミシミシ言ってる! 私の核が悲鳴を上げているぞ!』 『我は選定の剣だぞ! 神を貫く武器であって、バーベキュー串じゃなァァァいッ!』
「問答無用! 『戦鬼流・惑星串打ち』!!」
ズドォォォォォンッ!!!
巨大化したグラムが、霜降り状態になった暴食神ギャラクシア・ドラゴンの胴体を、豪快に貫いた。 そのままボルグは、数万トンの重量を怪力と魔力で持ち上げ、彼方にある「小型の太陽」へと振りかぶった。
「焼き加減は……レアとミディアムの間だ!!」
ジュウウウウウウウウウッ!!!!!
宇宙空間に、星が爆発したような音が響く。 太陽のコロナに直接炙られたドラゴンの肉が、一瞬で黄金色に焼き上がる。 表面の脂が爆ぜ、その香りは真空を超えて大気圏内にまで降り注ぎ、地上の人々さえも「なんだこのいい匂いは!?」と空を見上げさせた。
「仕上げだ! 『千年醤油』全投入!!」
ボルグは醤油の入った甕を握りつぶし、その液体を魔力で霧状にして肉に吹きかけた。 同時に、先ほど剥がした鱗(旨味結晶)を塩のように散らす。
ジューッ……!! 焦げた醤油と、星の脂が混ざり合い、宇宙最強の「テリヤキ」が完成した。
「完成だ。『銀河龍の恒星直火焼き(ソーラー・テリヤキ)』」
*
ボルグは串を引き戻し、巨大な肉をまな板代わりの岩盤に乗せた。 あまりの熱気と美味そうな香りに、もはやドラゴン自身も敵意を忘れ、ゴクリと喉を鳴らした。
「さあ、食え。お前の体だがな」 「……ぐぬぬ。余を食材扱いした挙句、余に食わせるとは……」
ドラゴンは人間のサイズまで体を縮小させ(エネルギー効率のため)、切り分けられた自らの肉を口にした。
「……!!」
その瞬間、暴食神の目から、大粒の涙が溢れ出した。
美味い。 ただの肉ではない。 彼が長い時をかけて喰らい、吸収してきた数多の星々の歴史、生命の輝き、それら全てが「料理」として調和し、祝福の味となって還ってきたのだ。
「余は……余はずっと空腹だった。どれだけ星を喰らっても満たされなかった……」 「当たり前だ。ただ飲み込むのと、『味わう』のは違う」
ボルグはリズにも肉を渡した。 リズは満面の笑みで頬張る。
「ん〜っ!! 美味しいですぅ! お口の中で星空が弾けてます! 今まで食べた中で一番美味しい!」
「……そうか。これが『満たされる』ということか」
ドラゴンは涙を拭い、穏やかな顔で微笑んだ。 その体から放たれていた禍々しい覇気は消え、代わりに黄金色の光の粒子が立ち上っていく。
「礼を言うぞ、料理人よ。この礼は……これだ」
ドラゴンの涙と、立ち上る光の粒子が、巨大な器の中に集まり、温かいスープとなった。 透き通る黄金色のスープ。具は何もない。だが、とてつもなく優しい香りがする。
「『生命のスープ』だ。世界を再生させる力がある」
ボルグはそのスープを一口すすった。 味付けはいらない。 ただ温かく、どこまでも優しい、母なる大地の味がした。
「……悪くない味だ」
*
神殿が光に包まれ、ボルグたちは地上へと戻された。 場所は、最初に出会った街の広場。 空を見上げると、暗雲は消え去り、澄み渡る青空が広がっていた。
「行っちゃいましたね、神様」 リズが空を見上げて呟く。 「ああ。満腹になって眠りについたんだろう」
ボルグは愛用のキッチンカーの前に立った。 ボロボロだった車体は、ドラゴンの魔力でピカピカに修復されている。 そして、腰の魔剣グラムも。
『……ふぅ』 『終わったか。やっと終わったか』 グラムが疲れ切った声で言う。
『おい、見ろ。刀身が……ドラゴンの脂と醤油でコーティングされて、黒光りしている。伝説の黒刀みたいになってるぞ』 「箔がついたな」 『匂いが取れない! 一生テリヤキの匂いがする聖剣なんて嫌だァァァッ!』
カランカラン。 開店の鐘を鳴らす。 広場には、空から降ってきた「いい匂い」に誘われて、すでにお腹を空かせた人々が集まってきていた。
「さあ、仕事だリズ。腹を空かせた客が待ってる」 「はいっ! 店長!」
戦う料理人ボルグ。 彼の旅は終わらない。 世界にはまだ、未知の食材と、空腹な人々が溢れているのだから。
「いらっしゃい! 今日のオススメは『ドラゴン・テリヤキバーガー』だ! 並べ並べ!」
魔剣とフライパンの音が、今日も高らかに響き渡る。
(おわり)




