第49話 世界を喰らう龍と、神殺しの解体ショー(前編)
神殿の最奥にある扉が開く。 そこは、星空が広がる無限の空間だった。 足元には巨大なまな板のような岩盤が浮き、周囲には惑星サイズの調理器具が漂っている。
「グルルルル……。よくぞ参った、小さき餌たちよ」
空間の中央に、とてつもない質量の存在が鎮座していた。 全長数キロメートル。 その鱗はあらゆる食材の結晶で輝き、たてがみは銀河の星々のように煌めいている。 『暴食神・ギャラクシア・ドラゴン』。 この世界の食の理そのものであり、全てを喰らい尽くす神。
「余は空腹だ。この星は熟した。そろそろ収穫して喰らおうと思っていたところだ」
ドラゴンの声が脳内に直接響く。 圧倒的なプレッシャーに、リズが腰を抜かす。
「あ、あわわ……! か、神様です! 私たち、食べられちゃいます!」
だが、ボルグは一歩前に出た。 その目は、恐怖ではなく、値踏みするように細められていた。
「いい肉付きだ。宇宙のエネルギーを吸って育った『霜降り』が見えるぞ」 「……何? 余を食材と呼んだか?」 「神だろうがなんだろうが、食えるものはすべて食材だ。……それに、世界を食う? スケールの小さい話だな」
ボルグは魔剣グラムを抜いた。 その刀身は、これまでの旅で数々の食材を切り、焼き、叩いてきた経験によって、鈍く、しかし力強く輝いていた。
「俺はこれから、お前を食う。お前が食ってきた世界のすべてを、俺が味わってやる」
『おい、正気か? あれは概念だぞ? 物理攻撃が通じる相手じゃない!』 グラムが震える。 「概念だろうが切れる。お前は『神殺し』の魔剣だろう?」
ボルグが地を蹴った。 ドラゴンが咆哮する。
「不敬な! 消え失せろ! 『スターバースト・ブレス』!!」
ドラゴンの口から、星をも砕く破壊の光線が放たれた。 直撃すれば塵も残らない。 だが、ボルグは笑った。
「火力が強いな。ちょうどいい、『炙り』の手間が省ける」
ボルグは魔剣を構え、ブレスの奔流に突っ込んだ。 キィィィィィン!!
魔剣がブレスを真っ二つに切り裂く。 いや、切り裂きながら、その熱エネルギーを刀身に吸収していく。 グラムが赤熱し、プラズマを纏い始めた。
『ギャアアアッ! 熱い熱い熱い! エネルギー過多だ! オーバーロードする!』 「耐えろ! 今、お前は最強の『ヒート・ナイフ』になっている!」
ボルグはブレスを突破し、ドラゴンの懐に到達した。 狙うは、全身を覆う硬い鱗。 それは「旨味の結晶」が数万年かけて硬化した、絶対防御の鎧だ。
「鱗引き(ウロコひき)の時間だァッ!!」
ズババババババッ!!!
神速の乱舞。 超高熱化した魔剣が、ドラゴンの巨体を駆け巡る。 斬撃ではない。鱗の隙間に刃を滑り込ませ、肉を傷つけずに鎧だけを剥がしていく、極限の解体技術。
「グオオオッ!? な、何をしている!? 痛くはないが……寒い!? スースーするぞ!?」
ドラゴンが困惑の声を上げる。 気づけば、彼の自慢の宝石の鱗はすべて剥がされ、キラキラと宇宙空間に舞い散っていた。 現れたのは、ピンク色に輝く、極上の霜降り肉のボディ。
「な、裸にされただと……!? 神である余が、丸裸に……!」 「いい肌だ。脂の乗りも最高だ」
ボルグは空中に舞う鱗(旨味結晶)を蹴り飛ばし、一箇所に集めた。 これは後で調味料として使う。
「さて、下ごしらえは完了だ。次はいよいよ『調理』だ」
巨大なドラゴン。 これをどう焼くか? 通常の火力では日が暮れる。 ボルグは視線を巡らせ、この空間に浮かぶ「あるもの」に目をつけた。
「リズ! あれを使うぞ!」 「あ、あれって……あの赤い星ですか!?」
ボルグが指差したのは、神殿の彼方に浮かぶ、燃え盛る小型の恒星(太陽)だった。
「あれを熱源にする。……グラム、覚悟はいいか?」 『待て。嫌な予感がする。凄く嫌な予感がする』 『お前、まさか……あの太陽に我を突っ込む気か?』
「串焼きだ」
ボルグはニヤリと笑った。
「このドラゴンを、魔剣に串刺しにして、太陽で直火焼きにする」
スケールが違いすぎるバーベキュー。 最終回、世界を笑顔にする究極の料理が爆誕する。




