第46話 石化のガーゴイルと、遺跡の石窯ピッツァ
空に浮かぶ巨大な遺跡。 『天空の美食神殿』。 キッチンカー戦鬼(飛行モード)は、崩れかけた石造りの広場に着陸した。
「すごい……。誰もいないのに、焼きたてのパンみたいな匂いがします」
リズが鼻をクンクンさせる。 古代の柱が並ぶ参道を歩くと、地面からガゴガゴと音が響き、無数の石像が動き出した。 翼を持った石の悪魔『マグマ・ガーゴイル』。 その口からは高熱の炎が漏れ出ている。
さらに、地面のレンガを突き破り、黄金色に輝く泥人形のようなゴーレムが現れた。 『ウィート・ゴーレム(古代小麦の魔人)』。 神代の品種改良によって生まれた、全身が最高級の小麦粉でできたゴーレムだ。
「侵入者排除……焼却スル……」
ガーゴイルが一斉に炎を吐き、ゴーレムが小麦の拳を振り上げる。
「歓迎会か。気が利いてるな」
ボルグは魔剣グラムを抜いた。
「リズ、水と塩を用意しろ。生地を練るぞ」 「えっ!? この状況でパン作りですか!?」
ボルグは襲いかかるウィート・ゴーレムの腕を、魔剣の腹で受け止めた。 そして、剣を高速で振動させながら押し返す。 ガガガガガッ!!
魔剣が「製粉機」となり、ゴーレムの腕を瞬時に粉砕して、きめ細かい小麦粉に変えていく。 空中に舞う純白の粉。 それをリズが水魔法(水筒の水)でキャッチし、ボルグが凄まじい手際で空中で練り上げる。
「発酵は……こいつの熱で十分だ!」
ボルグは練り上げた生地を、襲いかかるガーゴイルの顔面に叩きつけた。 ジュッ! ガーゴイルの体温は数百度。一瞬で生地が発酵・膨張する。 それを剥がし、手で回して円盤状に広げる。
「具材はこれまでの残り物だ!」
マンモスの肉、龍魚の切り身、クラウド・シープのチーズ(旅の途中で加工しておいた)。 それらを生地の上に散りばめ、最後にトマトソースをぶっかける。
「焼くぞ!」
ボルグはピザ生地を魔剣の平らな面に乗せ、巨大なピザピール(ヘラ)のように構えた。 そして、口を大きく開けて炎を吐こうとしているガーゴイルの口の中へ―― ズボォッ!!
ピザを突っ込んだ。
『グガッ!? グググ……!』
ガーゴイルが苦しむ。 口の中は、遠赤外線効果抜群の天然の石窯だ。 炎の直火ではなく、蓄熱された石の熱で一気に焼き上げる。 数秒後、香ばしい香りとともに、チーズが沸騰する音が聞こえてきた。
「焼き上がりだ!」
ボルグが剣を引き抜くと、そこには完璧な焦げ目のついたピザが湯気を上げていた。 縁はふっくらと膨らみ、具材は熱々にとろけている。
「『遺跡ガーゴイルの石窯ピッツァ・古代小麦仕立て』だ」
*
戦闘中だが、食事タイムだ。 ボルグは魔剣をピザカッターのように転がし、8等分にカットした。
『おい! 熱い! 石窯に出し入れした直後に回転させるな! 目が回る!』
リズが一切れを持ち上げる。 チーズが糸を引き、どこまでも伸びる。
「はふっ、あつっ! ……んん〜っ!!」
サクッ、モチッ。 古代小麦の香りが強烈だ。 今の小麦にはない、野性味とナッツのような香ばしさがある。 それが、ガーゴイルの高温で一気に焼かれたことで、クリスピーかつモチモチの食感を生んでいる。
「生地が美味しいです! 具材も豪華だけど、この小麦粉、甘みがすごいです!」 「ガーゴイルの石窯は温度が500度を超える。ナポリピッツァには最適だ」
ボルグも次々とピザを口に放り込む。 エネルギー充填完了。
口の中にピザを突っ込まれたガーゴイルたちは、あまりの熱さと、口いっぱいに広がったピザの美味しさ(?)に戦意を喪失し、その場に崩れ落ちてただの石像に戻った。 ゴーレムたちも、自らの体が最高の料理になったことに満足したのか、砂となって消えた。
「ごちそうさまでした。……さて、行くぞ」
遺跡の奥へと続く回廊が開く。 そこは、壁も床も天井も、すべてが「食材に擬態した罠」で満たされた迷宮。
『……なぁ』 グラムが焦げたトマトソースまみれの体で呟く。
『さっきピザ切る時、チーズが絡まって……回転が重かったんだが』 『あと、なんかいい匂いがする。我、美味しそうな匂いがするぞ』 「自分を食うなよ」 『食えるか! 早く洗え! オリーブオイルで磨け!』
次なる相手は、冒険者殺しの罠。 しかし、ボルグにとっては「器」の調達に過ぎなかった。




