第44話 弾力の白き悪魔と、雪見クリーム大福
吹雪の向こうから漂う、甘く、粉っぽい香り。 ボルグたちが警戒して進むと、雪原にポツンと「白い雪だるま」のようなものが鎮座していた。 だが、近づくとそれは雪ではなかった。 プルンプルンと震え、艶やかな光沢を放つ白い球体。
「……なんだあれ? お餅ですか?」 「いや、あれは『マシュマロ・スライム』……いや、『求肥スライム』だ」
その瞬間、白い球体が恐ろしい速度で跳ねた。 ドンッ!! 体当たりを食らったリズが、雪の中に吹っ飛ぶ。 見た目は可愛いが、その質量は鉄球並み。しかも――。
「斬る!」
ボルグが魔剣グラムを一閃させる。 だが、刃がスライムに食い込んだ瞬間、スライムの体がゴムのようにビヨーンと伸び、刃を受け流した。 斬れない。 圧倒的な弾力と柔軟性が、あらゆる物理攻撃を吸収してしまうのだ。 これこそが、冒険者たちが「白き悪魔」と恐れる所以。
「なるほど。斬撃が効かないなら、物理で固めるしかないな」
ボルグは魔剣の腹(側面)をスライムに向けた。 そして、足元の岩盤を「臼」に見立て、スライムを投げ飛ばした。
「リズ! 水を打て!」 「は、はいっ! 雪解け水です!」
リズが水をかけると同時に、ボルグが魔剣を振り下ろす。 刃ではない。平らな面で、全力で叩く!
ペッタンッ!!
豪快な音が響く。 スライムが衝撃で平たく潰れるが、すぐに元に戻ろうとする。 その戻る力を利用して、ボルグはさらに高速で叩き続ける。
「『戦鬼流・高速餅つき』!!」
ペッタン! ペッタン! ペッタン! 目にも止まらぬ連打。 魔剣グラムは、もはや剣ではなく「杵」と化していた。
『おい! 痛い! 目が回る! あとベタベタして離れない! 我を餅つき機にするな!』 「黙ってろ! 餅は搗けば搗くほどコシが出る!」
呼吸を合わせるようにリズが合いの手の水を入れる。 数百回の連打の末、スライムは完全に降参し、抵抗をやめて「極上の柔らかい餅シート」となって伸びていた。
*
ボルグは伸び切った求肥スライムを適当な大きさにちぎり、手のひらに広げた。 そこへ、周囲のパウダースノー(清潔な新雪)と、練乳、そして甘酸っぱい野イチゴを混ぜて作った「即席アイス」を乗せる。 キュッ、と包み込めば完成だ。
「『極寒の雪見クリーム大福』だ」
真っ白でスベスベの肌触り。 リズが両手で持ち、ガブッとかぶりつく。
ビヨ〜〜〜ン……。
餅がどこまでも伸びる。 その薄皮の中から、冷たいミルクアイスと野イチゴの酸味が溢れ出す。
「んん〜っ!! もちもちですぅ! 赤ちゃんのほっぺみたいに柔らかい! 中のアイスがシャリシャリで、お餅と溶け合います!」
求肥スライムの弾力は、通常の大福とは比較にならない。 噛むのが楽しいほどのコシがありながら、口の中で体温でとろけていく。
「餅とアイス、冬のこたつで食うのが最高だが……吹雪の中で食うのもオツだな」
ボルグも大福を頬張る。 カロリーと糖分が、冷えた体に染み渡る。
雪原に、ペッタンペッタンという幻聴と、甘い香りが残された。 そして、ベタベタになった魔剣グラムの悲痛な叫びも。
『……なぁ。さっき餅をちぎる時、我の刃についた餅を……こう、指でこそぎ落として食べたよな?』 「一番美味いところだ」 『指を舐めるついでに刃を舐めるな! 変な感触がしてゾワゾワしたわ!』 「ちゃんと洗ってやる。雪で」 『冷たいっ!』
デザートも堪能し、氷河エリアを抜けようとしたその時。 地平線の向こうから、地響きと共に巨大な「壁」が迫ってきた。 雪崩? いや、違う。 それは、全てを飲み込む生きた災害――『暴食の白鯨』の大群だった。
氷河編クライマックス。 陸を泳ぐ鯨との全面対決が迫る。




