第39話 爆裂エビと、音速の空中天ぷら
都の中央に設けられた巨大な闘技場。 『天下一味道会』の会場は、観客の熱気で蒸し風呂のようだった。 正面の貴賓席には、この国の支配者『食通将軍』が鎮座している。
「予選第一組! テーマは『天ぷら』! 制限時間は10分!」
銅鑼の音が鳴り響く。 ボルグの対戦相手は、黒装束に身を包んだ怪しい男だった。 『忍料理人・サスケ』。 背中に巨大な手裏剣を背負い、両手には苦無型の包丁を持っている。
「フッ……屋台屋風情が。俺の『忍法・調理術』の前にひれ伏すがいい」 「御託はいい。さっさと揚げろ」
二人の間に運ばれてきたのは、水槽で泳ぐ真っ赤な海老。 ただの海老ではない。尻尾の先に火種のような光が灯っている。 『ボンバー・シュリンプ(爆導海老)』。 外敵に襲われると体内で火薬を生成し、自爆する特攻海老だ。少しでも手荒に扱えば、厨房ごと木っ端微塵になる。
「調理開始!」
サスケが動いた。 「忍法・影分身!」 ドロン! という煙と共にサスケが三人になる。 一人が海老を優しく掬い、一人が殻を剥き、一人が揚げる。 完璧な連携(一人だが)により、爆発させずに次々と天ぷらを揚げていく。
「速い! さすがは忍だ!」 観客が沸く中、ボルグはまだ動かない。 水槽の海老をじっと見つめている。
「……海老が怯えているな。ストレスを感じると味が落ちる」 『おい、早くしないと時間切れだぞ。あと爆発したら我もタダじゃ済まない』
ボルグは魔剣グラムを逆手に持った。 そして、水槽の真下に蹴りを入れた。
ドンッ!! 衝撃で水槽の水が柱のように跳ね上がり、数十匹の海老が空中に打ち上げられた。
「なっ!? 馬鹿な! 衝撃を与えたら爆発するぞ!」 サスケが叫ぶ。 空中で海老たちが赤く発光し、今にも自爆しようとした――その刹那。
「遅い」
ヒュンッ!!
ボルグの姿が掻き消えた。 音速を超えた抜刀。 空中で、海老の「神経」だけを正確に切断したのだ。 海老たちは自分が死んだことにも、爆発する指令が脳から届かなかったことにも気づかず、バラバラと落下してくる。 同時に、殻と背ワタも衝撃波で綺麗に弾け飛んでいた。
「リズ! 衣だ!」 「はいっ! 『炭酸水』で溶いた特製衣です!」
リズがバケツに入った衣液を空中にぶちまける。 落下する海老たちが空中で衣のシャワーを浴び、そのまま下の鍋(煮えたぎる油)へとダイブしていく。
ジュワアアアアアアッ!!!
着水と同時に、炭酸ガスの効果で衣が爆発的に膨らみ、花が咲くように広がった。 爆裂海老が、爆裂する前に「華」になった瞬間だ。
*
「完成だ。『爆導海老の空中乱舞・天ぷら』」
審査員の前に出されたのは、芸術的なまでに衣が立った海老天。 将軍が箸を伸ばす。
サクッ……。
咀嚼音が会場のマイクを通して響く。 将軍の目がカッと見開かれた。
「――軽やかッ!!」
衣が軽い。あまりにも軽い。 空中で衣をまとい、そのまま油に入ったため、余分な粉が一切ついていない。 そして、瞬殺された海老の甘み。 爆発寸前まで高まっていた海老のエネルギーが、すべて「旨味」に変換されて閉じ込められている。
「熱い! だが止まらん! 身が半生で、とろけるようだ!」 「海老は加熱しすぎると硬くなる。油の中をくぐらせた時間は5秒だ」
サスケの天ぷらも美味かったが、ボルグの「素材のポテンシャルを極限まで引き出した味」には及ばなかった。
「勝者、ボルグ!!」
ワアアアアアッ! と歓声が上がる。 客席で見ていた十兵衛が、腕組みをして頷いた。
「見事だ。……だが、あの剣、油汚れが凄まじいな」
その通りだった。 グラムは全身ギトギトの天ぷら油まみれになっていた。
『……おい。ヌルヌルする。熱いし、臭い』 「油は魔剣の錆止めになる。感謝しろ」 『酸化した油は剣に悪いわ! あと、さっき衣をつける時、間違えて我の柄にも衣がついたぞ! 手が滑る!』
見ると、グラムの柄の部分がカラッと揚がっていた。
「ああ、それはリズのオヤツだ」 「わーい! 魔剣の唐揚げですね!」 『かじるな! 歯が折れるぞ!』
予選を圧倒的な実力(と暴力)で突破したボルグ。 しかし、準決勝ではさらなる強敵と、和の国ならではの「ネバネバ食材」が待ち受けていた。




