第36話 鋼鉄の筍(タケノコ)と、侍流・居合炊き込みご飯
小型飛空艇で海を越えること数日。 眼下に、細長い島国が見えてきた。 東の果て、武士と醤油の国『ジパング』である。
「わぁ……! ピンク色です! あれ、桜ですか?」 「いや、あれは『桃色スライム』の群れが木に張り付いているだけだ」 「えっ……風情がないです……」
ボルグたちは、島国の外れにある深い竹林に飛空艇を着陸させた。 降り立った瞬間、静寂が包み込む。 風に揺れる笹の音。湿り気を帯びた土の匂い。
「いい土だ。ここならアレがいるはずだ」
ボルグが地面を観察していると、突如として足元の地面が隆起した。
ズゴゴゴゴッ!!
土煙と共に、鋭利なドリル状の物体が地中から突き出した。 一本ではない。次々と地面を突き破り、槍のようにボルグたちを襲う。 『鋼鉄筍』。 成長速度が異常に速く、地上の獲物を串刺しにして養分にする肉食植物だ。
「きゃあああっ! 地面から槍が!」 「筍だ。ちょうど春先で柔らかい時期だな」
ボルグは襲い来る筍の穂先を、最小限の動きでかわした。 そして、腰の魔剣に手をかける。 前回のキャラメルは、上空の湿気でベタベタに溶けていたが、それが逆に「鞘走り(滑り)」を良くしていた。
「筍は鮮度が命だ。掘り出して時間が経つと『えぐみ』が出る。だから――」
カチッ。 鯉口を切る音。
「『居合』で、生えた瞬間に調理する」
ズバァッ!!
神速の抜刀。 地面から飛び出した筍が、空中で正確に皮を剥かれ、さらに一口サイズに刻まれて落下してくる。 同時に、ボルグは近くの巨大な成竹を一本切り倒し、その節を利用して「筒」を作った。
「リズ! 米と水だ!」 「は、はいっ! お米は研いであります!」
*
刻まれた筍、研いだ米、水、そして少量の塩と酒。 それらを切り出した竹の筒に入れ、焚き火の上にセットする。 蓋も竹だ。 竹筒の中で炊くことで、若竹の香りが米に移り、蒸気でふっくらと仕上がるのだ。
グツグツ……パチパチ……。
やがて、竹の焼ける香ばしい匂いと、ご飯の甘い香りが漂い始めた。 パチパチという音が「チリチリ」に変わる。おこげが出来た合図だ。
「蒸らし完了。開けるぞ」
パカッ。
白い湯気と共に、黄金色の輝きが現れた。 『鋼鉄筍の竹筒炊き込みご飯』。 出汁など使っていない。筍の甘みと塩気、そして竹の香りだけで勝負した一品だ。
「木の匙で食え」
リズが熱々のご飯をすくう。 所々に見える、醤油色のおこげが食欲をそそる。
「はふっ……んぐっ……!」
シャクッ! 筍の心地よい歯ごたえ。 掘りたて(というか飛び出したて)の筍は、えぐみが全くなく、トウモロコシのように甘い。 その甘みが染み込んだご飯は、噛むほどに味わい深い。
「やさしい……! 今までのガッツリ系と違って、心が落ち着く味ですぅ……!」 「これが和食だ。素材の味を極限まで引き算する」
ボルグも竹筒から直接かき込む。 派手さはないが、毎日でも食べられる味だ。
その時。 笹をかき分ける音と共に、一人の男が現れた。 ボロボロの着流しに、腰には二本の刀。 浪人風の男だが、その眼光は鋭い。
「……いい匂いだ。それに、見事な太刀筋だった」
男はボルグの手元ではなく、腰の魔剣グラムをじっと見つめていた。
「拙者、腹が減っておる。……その飯、一食の恩義にあずかりたい」 「タダ飯は食わせん主義だが……その腰のモノを見せてくれるなら考えてもいい」
ボルグの視線は、浪人の腰にある古びた刀に向けられていた。 鞘から微かに漂う匂い。それは血の匂いではなく――。
「……『味噌』の匂いがするな」 「!!」
浪人が目を見開く。
「鼻が利く男だ。……いかにも。拙者の刀は『妖刀・赤味噌丸』。斬った肉を瞬時に味噌漬けにする呪いの刀でござる」
『……おい。仲間か? 我の同類か? こいつも調理器具扱いされてるのか?』 グラムが親近感と哀れみの混じった声を出す。
新たなライバル(?)、味噌の侍との出会い。 和の国での旅は、波乱の幕開けとなった。




