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戦鬼の厨房(キッチン) ~伝説の魔剣は、老兵の包丁になりたいようです~  作者: 九条 蓮夜


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第35話 楽園の蛇と、禁断のリンゴポワレ

黄金の扉が開かれると、そこには息を呑むような光景が広がっていた。  天井のない、無限に続く青空。  枯れることのない花々。  そして中央には、一本の巨木がそびえ立ち、眩い光を放つ「黄金の果実」がたわわに実っていた。


「あれだ……! あれこそが『神のリンゴ(アンブロシア)』! 一口食えば不老不死を得ると言われる禁断の果実!」


 皇帝ネロが理性を失い、ダッシュで駆け出した。


「待て、罠があるかもしれん」 「黙れ! あれは余のものだ!」


 ネロが木に手を伸ばした瞬間。  枝葉がざわめき、木の幹に巻き付いていた「太いつた」が、鎌首をもたげた。  いや、蔦ではない。  全身がエメラルド色に輝く、巨大な大蛇――『エデン・サーペント』だ。


 シャアアアアッ!!


 蛇の瞳が怪しく光り、ネロを石化させようと睨みつける。  ボルグが割り込み、ネロの襟首を掴んで後ろへ放り投げた。


「邪魔だ。下がっていろ」 「くっ……! あの蛇、ただの魔獣ではない! 魔法を弾く『対魔鱗』を持っているぞ!」


 蛇が音もなく襲いかかる。  ボルグは魔剣グラムの柄に手をかけた。


「……チッ、まだ抜けないか」


 前回の氷砂糖とシロップが鞘の中で固まり、接着剤のように魔剣を固定してしまっていた。  力任せに引いてもびくともしない。


『だから言っただろう! お湯! お湯をかけてくれ! 糖分でガチガチだ!』 「お湯を沸かしている暇はない。……だが、熱があればいいんだろう?」


 ボルグは鞘ごと剣を構えた。  蛇が大きく口を開け、毒の牙で噛み付いてくる。  ボルグはそれを回避しながら、蛇の硬い鱗に、鞘の表面を高速で擦り付けた。


 ギャリギャリギャリッ!!


 猛烈な摩擦音。  ボルグは超高速で移動しながら、鞘と蛇の鱗をヤスリのように擦り合わせ、摩擦熱を発生させたのだ。


「燃えろ」


 ボッ!  鞘の隙間から漏れ出ていた高純度の砂糖が、摩擦熱で発火寸前まで加熱され、茶色く泡立ち始めた。  甘く、香ばしい匂いが漂う。  ――キャラメリゼだ。


「今だ!」


 熱で糖分が溶け、潤滑油となった瞬間、ボルグは一気に魔剣を抜き放った。  刀身はドロドロに溶けた高熱の「焦がしキャラメル」をまとい、炎のように赤熱している。


「『魔剣・キャラメル・ブレード』!!」


 ズバァァァァンッ!!


 一閃。  高熱の刃が、蛇の首をバターのように切断した。  切り口は瞬時にキャラメルの熱で焼かれ、肉汁を閉じ込める。


          *


 主を失った大樹から、黄金のリンゴがポトリと落ちた。  ボルグはそれをキャッチすると、倒した蛇の肉へと向き直った。


「ヘビ肉は鶏肉に似て淡白だが、小骨が多いのが難点だ。だが、今の斬撃で背骨は抜いてある」


 ボルグは蛇の胴体をぶつ切りにし、フライパンでソテーする。  そこに、スライスした「神のリンゴ」を投入。  魔剣に付着していた「焦がしキャラメル」もソースとして加える。  最後にバターと白ワイン(ネロの私物)でフランベ。


 ボワッ!!  リンゴの甘酸っぱい香りと、キャラメルのほろ苦さ、そして肉の焼ける匂いが混ざり合う。


「『楽園の蛇と禁断のリンゴのポワレ、魔剣キャラメルソース』だ」


 皿の上で黄金に輝くリンゴと、艶やかな蛇肉のコントラスト。  ネロは震える手でフォークを刺した。  まずはリンゴと共に、肉を一口。


「……!!」


 サクッ、プリッ。  リンゴの酸味が、蛇肉の脂をさっぱりと中和し、キャラメルソースのほろ苦さが全体を大人の味にまとめ上げている。  そして何より、神のリンゴのパワーだ。  食べた瞬間、全身の細胞が活性化し、若返るような力がみなぎってくる。


「おおお……! 力が……力が湧いてくる! これが神の味か!」 「蛇は執念深い生き物だ。リンゴの生命力と合わせることで、最高のスタミナ料理になる」


 リズも頬張る。   「お肌がツルツルになりますぅ! 私、光ってませんか!?」 「光ってるな。蛍みたいだぞ」


 完食したネロは、満足げにため息をついた。  その顔からは、かつての神経質な険しさが消え、憑き物が落ちたように晴れやかだった。


「……不老不死など、どうでもよくなったな。こんな美味いものが食えるなら、腹を空かせて生きるのも悪くない」


 ネロは笑い、ボルグに右手を差し出した。


「礼を言うぞ、戦鬼。貴様の料理は、余の虚栄心すら満たしてくれた」


          *


 こうして、天空の浮島での冒険は幕を閉じた。  ネロから報酬として「飛空艇の小型版」と「大量の神の食材」を譲り受けたボルグたちは、次なる目的地へと舵を切る。


『……なぁ』  グラムが、キャラメルが冷えてカチカチになった体で呟く。


『これ、さっきより酷くないか? ベタベタ通り越して、飴細工みたいになってるんだが』 『鞘に入らない。マジで入らない』 「舐めとけと言っただろう」 『だから味覚はなァァァいッ!』


 空の旅を終え、一行は再び地上へ。  次なる舞台は、東の果てにあるという「和」の国。  そこでは、醤油と米、そして魚を極めた侍たちが、包丁一本で勝負しているという。


 第4章「サムライ・キュイジーヌ編」、開幕近し。

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