第34話 氷砂糖の巨人と、銀河のシェイブアイス
クリスタルの洞窟。 内部は七色に輝く鍾乳石で埋め尽くされ、幻想的な光を放っていた。
「綺麗ですねぇ……。宝石みたいです」
リズがうっとりと壁に手を触れ、何を思ったかペロリと舐めた。
「あまっ!? これ、甘いです! 壁が飴でできてます!」 「ほう。……なるほど、ここは『糖脈』か」
ボルグが壁を削って舐める。 ただの砂糖ではない。魔力を帯びて結晶化した、純度100%の「氷砂糖」だ。 皇帝ネロが震える。
「天然の砂糖の洞窟だと……? この壁を削り出すだけで、国が一つ買えるぞ……」
その時、洞窟の奥から重い足音が響いた。 ズシン、ズシン……。 現れたのは、全身が透明なクリスタルで構成された、身長5メートルの巨人。 『ダイヤモンド・シュガー・ゴーレム』。 この甘い洞窟を守る、最も硬く、最も甘い守護者だ。
「グオオオオオオッ!!」
ゴーレムが拳を振り下ろす。 地面の砂糖の結晶が砕け散り、甘い粉塵が舞う。
「硬そうだな。だが、所詮は砂糖だ」
ボルグは魔剣グラムを抜いた。
「砕くんじゃない。削ぐぞ」 『おい、まさか。またか? また変な使い方をする気か?』 「かき氷を作るには、繊細な刃の角度が必要なんだ」
ボルグはゴーレムの懐に飛び込んだ。 ゴーレムの拳を紙一重でかわし、その腕に魔剣の刃を当てて――滑らせた。
シャリリリリリリッ……!
涼やかな音が洞窟に響く。 斬撃ではない。カンナのように表面を薄く、均一に削り取っているのだ。 ダイヤモンドのように硬いはずのボディが、ボルグの神業と魔剣の切れ味によって、雪のような微細な粉末となって舞い散る。
「美しい……! まるでダイヤモンドダストだ!」
ネロが見惚れる中、ボルグはリズに指示を飛ばした。
「リズ、器だ! 削った氷砂糖を受け止めろ!」 「は、はいっ! 大きなボウルで行きます!」
ボルグがゴーレムの攻撃をかわすたびに、シャリッ、シャリッという音と共に、極上の砂糖雪が降り積もる。 ゴーレムは攻撃しているつもりなのに、どんどん体が痩せ細っていく。 最後は、小石サイズになるまで削り尽くされ、ポロリと崩れ落ちた。
*
ボウル山盛りに溜まったのは、空気のように軽い氷砂糖の「かき氷」。 いや、氷ではない。砂糖そのものだ。だが、口に含むと冷やりとして、スッと溶ける。
「これにシロップをかける。……そこの泉の水だ」
ボルグが指差したのは、洞窟の奥に湧き出る、青白く発光する泉。 『スターライト・ネクター(星屑の蜜)』。 植物の蜜が地下で濾過され、発酵した天然のシロップだ。 これをたっぷりと回しかける。
シュワァァァ……。 白い砂糖の山が、青と紫のグラデーションに染まり、キラキラと星のように輝き出した。
「『銀河のシェイブアイス・クリスタル』だ」
スプーンを入れると、サクッという感触の後、何の抵抗もなく沈む。 ネロが一口食べる。
「……!!」
冷たい。甘い。 だが、その甘さは暴力的ではない。 極限まで薄く削られた氷砂糖は、舌に乗せた瞬間に気化し、純粋な「幸福感」となって脳を揺さぶる。 ネクターのフルーティーな酸味と香りが、甘さを引き締め、まるで宇宙を旅しているような浮遊感を与える。
「これは……デザートの最終形だ! 素材は砂糖と蜜だけなのに、どんなケーキよりも複雑で奥深い!」 「頭がキーンとしない。純度が高い証拠だ」
リズも目を輝かせて頬張る。 「お口の中がキラキラしますぅ! 疲れが一気に吹き飛びます!」
糖分補給完了。 脳が活性化した一行の前に、ついに「神の厨房」への扉が現れた。 巨大な黄金の扉。 そこには古代文字でこう刻まれていた。
『汝、空腹なれば入るべし。満腹なれば去るべし』
「……どうやら、俺たちは資格十分のようだな」
ボルグは、まだかき氷を食べ足りない腹をさすりながら扉に手をかけた。
『……おい』 グラムがベタベタの体で抗議する。
『我、糖分でコーティングされて、鞘の中でガチガチに固まってるんだが。抜けない。マジで抜けないぞ』 「保存食代わりになるな」 『非常食扱いするな! お湯で洗ってくれぇぇ!』
いよいよ最終エリア。 神の厨房でボルグたちを待つ「究極の食材」とは。 そして、皇帝ネロの真の目的とは。




