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戦鬼の厨房(キッチン) ~伝説の魔剣は、老兵の包丁になりたいようです~  作者: 九条 蓮夜


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第33話 天空の守護者と、極地(きょくち)の唐揚げ

『天空の浮島』。  そこは、重力が地上の半分ほどしかない、不思議な空間だった。  巨木が浮遊し、滝が空へと逆流している。


「体が軽いです! 私、飛べそうです!」


 リズがぴょんぴょんと数メートルのジャンプを繰り返す。  だが、皇帝ネロは油断なく周囲を警戒していた。


「浮かれるな。ここは『神の厨房』の入り口。番人がいるはずだ」


 その言葉通り、突風と共に巨大な影が舞い降りた。  翼開長20メートル。鋼鉄の羽根と、鋭い鉤爪かぎづめを持つ怪鳥――『ガルーダ(聖天鳥)』だ。  四本の腕を持ち、それぞれに剣や槍を持っている。


「キシャアアアアッ!!」


 ガルーダが翼を振るうと、カマイタチのような真空波が発生し、周囲の浮遊岩を切り刻んだ。


「ほう、いい筋肉だ」


 ボルグは岩陰に隠れるどころか、一歩前へ出た。  その視線は、ガルーダの「手羽先」に釘付けだった。


「常に強風の中で羽ばたいているだけあって、翼の筋肉が発達している。あれは美味いぞ」 『おい、相手は神獣だぞ! しかも武器を持ってる! 我とキャラが被ってる!』


 ガルーダが四本の腕で一斉に斬りかかってくる。  ボルグは魔剣グラムでそれを受け流し、火花を散らした。


「四刀流か。だが、料理人の包丁捌きには勝てん」


 ガキンッ!  ボルグはガルーダの剣を弾き飛ばすと、その懐に飛び込み、翼の付け根――肩甲骨周りの筋肉(手羽元から手羽先にかけて)を一瞬で切り離した。


「頂いた」


 翼の制御を失ったガルーダは、バランスを崩して雲海の下へと墜落……はせず、残った翼でヨロヨロと退散していった(主要な筋肉を削がれたので、しばらくは飛べないだろう)。


          *


 手に入れたのは、巨大なガルーダの手羽先と手羽元。  ボルグは早速、飛空艇の厨房から油を持ってこさせ、岩場に即席の揚げ物場を作った。


「高地は気圧が低い。水は低い温度で沸騰するが、油の温度は上げられる。これがどういうことかわかるか?」 「えっ? どういうことですか?」


 リズが首を傾げる。


「衣の中の水分が、地上よりも爆発的に蒸発するんだ。つまり――『超・カリカリ』になる」


 ボルグは肉に醤油、ニンニク、ショウガ、そして酒を揉み込み、片栗粉をまぶす。  そして、高温の油へ投入!


 ジュワアアアアアッ!!


 激しい音と共に、肉の表面が一瞬で硬化する。  低気圧効果で衣の水分が一気に抜け、軽い食感の衣が形成されていく。  揚がった直後に、甘辛いタレ(醤油、砂糖、みりん、黒胡椒)にドボンとくぐらせ、白ゴマを振る。


「『聖天鳥ガルーダ極地きょくち唐揚げ』だ」


 山盛りの手羽先タワー。  甘辛いタレの香りと、スパイシーな黒胡椒の刺激が鼻をくすぐる。  ネロがフォークとナイフを取り出すが、ボルグが止めた。


「手羽先は手で食え。骨までしゃぶるのが礼儀だ」 「む……。皇帝である余に、手掴みで食えと?」


 渋々、ネロは指で摘み、ガブリとやった。


 パリッ!!!


 小気味よい音。  クリスピーな衣を突破すると、弾力のある筋肉が歯を押し返し、次の瞬間に肉汁がジュワッと溢れ出す。


「――ッ!!」


 ネロの目が輝いた。  甘辛いタレの濃厚な味付けが、淡白だが力強い鳥の旨味を引き立てている。  何より、この衣の軽さ。サクサクといくらでも食べられる。


「美味い! なんだこの中毒性は! 指についたタレまで美味いぞ!」 「ビールだ! ビールを持ってこい!」


 皇帝の威厳はどこへやら。ネロは夢中で骨付き肉にかぶりつき、指を舐めた。  リズも負けじと頬張る。


「ん〜っ! 皮がパリパリですぅ! 中はジューシー! これ、無限にいけます!」 「ガルーダは空の王者だ。その筋肉は裏切らない」


 骨の山が築かれていく。   『……おい』  グラムが油の跳ねた刀身を気にしながら呟く。


『さっき揚げ物してる時、菜箸さいばしが見つからないからって、我で肉をひっくり返したよな?』 「長さがちょうどよかったんだ」 『熱かった! あと衣がついた! 我を天ぷらにする気か!』


 満腹になった一行の前には、浮島の奥へと続く「クリスタルの洞窟」が口を開けていた。  そこから、甘く、魅惑的な香りが漂ってくる。


「この香り……。間違いない、神の食材だ」


 ネロが震える声で言う。  いよいよ、神の厨房の核心部へ。  そこでボルグたちを待つのは、食材か、それとも――?

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