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戦鬼の厨房(キッチン) ~伝説の魔剣は、老兵の包丁になりたいようです~  作者: 九条 蓮夜


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第31話 暴食の皇帝と、金剛蟹の粉砕ビスク

その招待状は、漆黒のプレートに金文字で刻まれていた。  差出人は『美食皇帝ネロ』。  この巨大都市ガストロノミアの頂点に君臨し、世界の食材の半分を独占すると言われる男だ。


「断る。面倒だ」 「ええっ!? 皇帝ですよ!? 断ったら処刑されちゃいますよ!」


 リズが慌てふためく中、迎えに来た黒服の男たちが無言で道を空けた。  その先には、雲を突き抜けるほどの高さを誇る『天空の塔』がそびえ立っていた。


「皇帝陛下は、貴公の『暴力的な調理』に興味を持たれた。拒否権はない」


          *


 最上階のレストラン。  そこには、都市を一望できるガラス張りの空間と、たった一つのテーブルがあった。  座っているのは、ワイングラスを傾ける痩せぎすの男。皇帝ネロだ。  「魔王」と呼ばれる割に、その姿は神経質な指揮者コンダクターのようだった。


「ようこそ、戦鬼ボルグ。貴様が貴族どもに食わせた『餌』、なかなか面白かったぞ」


 ネロの声は冷徹だが、その瞳には狂気的な食への渇望が渦巻いている。


「単刀直入に言おう。余を満足させろ。もし失敗すれば、その生意気な剣を溶かしてフォークに作り変える」 『ヒィッ! やめろ! フォークだと!? 魔剣の威厳を捨てて、一生皿の上でカチャカチャ鳴らされるだけの食器になれと言うのかぁぁッ!』


 グラムが悲鳴を上げる中、運ばれてきたのは巨大な水槽だった。  中に鎮座しているのは、全身がクリスタルのように透明で、ダイヤモンドの輝きを放つ巨大な蟹。  『アダマン・クラブ(金剛蟹)』。  その甲羅はオリハルコン並みの硬度を誇り、大砲の弾すら弾き返す「生ける要塞」だ。


「この蟹は美味だが、誰も殻を割ることができん。魔法も物理も通じない。さあ、どう調理する?」


 ネロが意地悪く笑う。  だが、ボルグはニヤリと笑い返した。


「硬いなら、砕くまでだ」


 ボルグは魔剣グラムを鞘に納めたまま、腰から外した。  そして、鞘ごと蟹の前に構えた。


『おい。なぜ抜かない? まさか』 「抜いたら刃こぼれする。こういう時は『鈍器』に限る」 『鞘ごと殴る気か!? 中の我はどうなるんだ! 脳震盪のうしんとうを起こすぞ!』


 ボルグは無視して、全身のバネを溜めた。  狙うは甲羅の「継ぎ目」。結晶構造のわずかな歪み一点。


「『戦鬼流・兜割り』!!」


 ガゴォォォォンッ!!


 凄まじい衝撃音が響き、フロア全体が揺れた。  鞘に入った魔剣の一撃が、蟹の急所を的確に打ち抜いたのだ。  ピキッ……パリーンッ!!  ダイヤモンドをも凌ぐ甲羅が、粉々に砕け散った。


「な、なんだと……!? あのアダマン・クラブを一撃で!?」  ネロがグラスを取り落とす。


「いい出汁が出そうな殻だ」


 ボルグは砕け散った殻を拾い集め、身を取り出した。  身は宝石のように美しく、ずっしりと重い。


          *


 調理開始だ。  まずは、粉々になった殻をオリーブオイルで炒める。  香ばしい海老や蟹特有の香りが立ち上る。  そこにトマトペースト、香味野菜、そして白ワインを加えて煮込み、ミキサー(もちろん魔剣回転)ですり潰してす。


「濃厚な『アメリケーヌ・ソース』だ。これがスープのベースになる」


 そこに生クリームとバターを加え、最後にソテーした蟹の身をたっぷりと浮かべる。  黄金色に輝く濃厚スープ。


「『金剛蟹の粉砕ビスク』だ」


 ネロの前に皿が置かれる。  漂う香りは、海そのものを凝縮したように濃厚で、甘美だ。  ネロがスプーンを口に運ぶ。


「……ッ!!」


 爆発。  口の中で、蟹の旨味が爆発した。  硬い殻の中に閉じ込められていた数百年分の旨味が、砕かれたことで一気に解放されている。  そして身の食感。  筋肉質でプリプリとした弾力がありながら、噛みしめるとホロリとほどけ、甘いジュースが溢れ出す。


「美味い……! 暴力的なまでに美味い! 殻を砕く衝撃すらも、味の一部に変えたというのか!」


 ネロは夢中でスプーンを動かし、最後は皿まで舐める勢いで完食した。  そして、ナプキンで口を拭うと、興奮した面持ちでボルグを見た。


「合格だ、ボルグ。貴様になら話せる。……この世界の果てにある『神の厨房』の話を」 「神の厨房?」


「そうだ。そこには、食べた者を不老不死にし、神の力を与える『究極の食材』があるという。余はそれを手に入れるため、世界中の料理人を集めていたのだ」


 ネロは立ち上がり、窓の外、遥か彼方の空を指差した。


「次なる目的地は『天空の浮島』。そこに神の厨房への鍵がある。……どうだ、余の専属料理人として共に行くか?」


 ボルグは鼻で笑った。


「断る。俺は俺の好きなものを食う。だが、その浮島の食材には興味があるな」


 交渉決裂。しかし、利害は一致した。  ボルグたちはネロの用意した飛空艇(もちろん、ネロも同行する気満々だ)で、空の彼方を目指すことになった。


『……おい』  鞘の中でグラムが呻く。 『衝撃で……鞘の内側が変形して……抜けない。我、抜けないぞ。一生このままだ……』 「大丈夫だ。叩けば直る」


 新たな舞台は「空」。  未開の天空食材を求めて、キッチンカー(飛空艇搭載型)が飛び立つ。


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