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戦鬼の厨房(キッチン) ~伝説の魔剣は、老兵の包丁になりたいようです~  作者: 九条 蓮夜


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第26話 砲弾の雨と、クラーケンの丸焼き

ドォォォォンッ!


 海賊船の砲門が火を噴いた。  黒い鉄の塊が、唸りを上げて浜辺のキッチンカーへと飛来する。


「きゃあああっ! 砲弾です! お店が壊れちゃいます!」 「騒ぐな。ただの鉄球だ」


 ボルグは微動だにせず、飛んできた砲弾の正面に立った。  魔剣を抜く。


 キンッ!


 金属音が響き、砲弾が真っ二つに切断されて左右の砂浜に落ちた。  切り口は鏡のように滑らかだ。


「……いい鉄を使ってるな。鍋の材料になりそうだ」 『斬るなよ! 硬いんだよ! 刃こぼれしたらどうするんだ!』


 ボルグが呆れる海賊船の甲板に、巨大な帽子を被った髭面の男が現れた。  『暴食の海賊団』船長、ガストロ・バーグだ。


「野郎ども! あの店を制圧しろ! さっきの虹色カツオの匂い、たまらねえ! 俺の胃袋に収めるんだ!」


 海賊たちが雄叫びを上げて上陸用ボートを下ろそうとした――その時だった。


 ズズズズズ……!


 海賊船の周囲の海面が黒く染まり、巨大な「足」が海中から伸び上がった。  一本ではない。八本、いや十本。  船のマストよりも太い触手が、海賊船をメリメリと締め上げる。


「な、なんだぁ!? 船が動かねえ!」 「お頭! 『深海の悪魔クラーケン』です! カツオの匂いに釣られて浮上してきやがった!」


 巨大なイカの化け物、クラーケンだ。  船員たちがパニックに陥る中、浜辺のボルグだけは目を輝かせていた。


「……デカい」 「ひぃぃっ! あんなの勝てませんよぉ!」 「いや、素晴らしいサイズだ。あの足一本で、千人分のイカ焼きができる」


 ボルグは足元の海面を蹴り、驚異的な跳躍力で海賊船の甲板へと飛び移った。


「邪魔するぞ」 「て、手前ェ! 何しに来やがった!」 「商売だ。……あのイカをさばいてやるから、場所代として『甲板』と『燃料』を貸せ」


 ボルグは返事も聞かずに魔剣を振るった。


 ザシュッ! ザシュッ!


 船を締め上げていた触手が、瞬く間に輪切りにされていく。  切断された巨大なイカリングが、甲板の上にドサドサと降り注ぐ。


『おい! イカは滑るんだよ! 吸盤が張り付いて気持ち悪い!』 「文句を言うな。吸盤はコリコリして美味いんだ」


 クラーケン本体が怒り狂い、残りの触手でボルグを叩き潰そうとする。  だが、ボルグはそれすらも「食材の提供」としか見ていなかった。  襲いかかる触手を次々とスライスし、ついに本体の眉間(目と目の間)に魔剣を突き立てて絶命させた。


          *


 静まり返った甲板。  そこには、山のようなイカの切り身が積み上がっていた。


「さて、調理だ」


 ボルグは海賊たちに指示を飛ばした。


「お前ら、大砲の準備だ」 「は、はい? 撃つんですか?」 「いや、砲身を焼け。カンカンに熱するんだ」


 意味もわからず海賊たちが大砲を空撃ちし、砲身が赤熱する。  ボルグはその熱々の砲身を「丸い鉄板」代わりにした。


 ジュワアアアアアッ……!!


 クラーケンの切り身を砲身に押し付ける。  猛烈な蒸気と共に、イカの焼ける香ばしい匂いが海上に充満する。


「味付けはこれだ」


 醤油をハケで塗り、仕上げにあの『マグマ・ペッパー』をパラリと振る。  醤油の焦げた匂いと、唐辛子の刺激臭。  暴力的なまでの「屋台の匂い」だ。


「『クラーケンの砲身キャノン焼き』だ。食え」


 呆然としていた船長ガストロが、恐る恐る熱々のイカを口にした。


「……ッ!!」


 柔らかい。  巨大なイカは大味で硬いのが相場だが、ボルグの隠し包丁と、砲身による超高温・短時間調理が、身をプリプリに仕上げている。  噛むたびに溢れる濃厚なイカの汁。醤油の香ばしさ。  そして後から追いかけてくる、マグマ・ペッパーの激辛の衝撃。


「う、美味ぇぇぇぇ! ビールだ! 誰かラム酒を持ってこい!」


 海賊たちが歓声を上げてイカに群がる。  いつの間にか、船上は巨大な宴会場と化していた。


「おい店主! 金はねえが、宝ならある! もっと焼いてくれ!」 「交渉成立だ。……リズ、手伝え。マヨネーズを持ってこい」 「は、はいっ! ただいま!」


 浜辺からリズも合流し、海賊船の上で臨時の「海上レストラン戦鬼」が開店した。  クラーケン一匹を丸ごと食い尽くす、長い夜が始まった。


『……なぁ』  グラムが油まみれの体で呟く。


『我、さっきイカ墨を浴びて真っ黒なんだが』 「墨には防腐作用がある。よかったな」 『だからポジティブすぎるだろ! あとでちゃんと磨けよ!』


 こうして海賊たちと打ち解けたボルグたちは、彼らから「西の大陸にある美食の都の情報」と、お礼の「高級ラム酒」を手に入れることになる。

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