第25話 虹色の弾丸と、豪快!ヤシ殻焼きタタキ
バシャァァァンッ!
海面が爆発したかのような水柱が上がる。 リズが指差した先で、七色の光をまとった魚影が、弾丸のような速度で宙を舞っていた。 『レインボー・カツオ(虹色鰹)』。 その速度は音速に迫り、鱗は光を屈折させて姿を消す「海の幻影」だ。
「は、速いです! 目で追えません!」 「問題ない。奴の動きは直線的だ」
ボルグは波打ち際に立ち、足元の海水に魔剣グラムの切っ先を浸した。
『おい、塩水に浸けるな。錆びるぞ。あと電気分解して塩素ガスとか出たらどうする』 「黙ってろ。刀身で**『水の振動』を読むんだ**」
ボルグは海中の微細な揺れを、魔剣を通じてセンサーのように感じ取っていた。魚の筋肉の収縮、水の抵抗、進行方向。すべてが手に取るようにわかる。
「――そこだ」
ズバァッ!
ボルグは海面に向かって、剣を一閃させた。 だが、魚を斬ったのではない。 剣圧によって「真空の壁」を作り出し、カツオの進行方向を塞いだのだ。
ドンッ! 見えない壁に激突したカツオが、脳震盪を起こしてプカ~と浮かんできた。
「傷ひとつつけずに確保した。完璧だ」 『……地味な技だな』
*
浜に引き上げられたレインボー・カツオは、丸々と太っていた。 七色に輝く皮の下には、脂の乗った赤身が詰まっているはずだ。
「よし、タタキにするぞ」 「タタキって、お魚を叩くんですか?」 「いや、表面を炙るんだ。カツオは皮と身の間に一番旨味がある。だが、皮は硬くて生じゃ食えない。だから――」
ボルグは周囲に落ちていた乾燥したヤシの葉と、ココナッツの殻を大量に集め、カツオの周りに積み上げた。 本来は「藁」で焼くのが定石だが、ここは南国。代用品を使う。 ヤシの葉は油分を含んでおり、一瞬で超高温の炎が上がるのだ。
「リズ、離れてろ。キャンプファイヤーだ」
ボッ!!
ボルグが種火を投げ込むと、爆発的に炎が燃え上がった。 高さ3メートルにもなる紅蓮の火柱。 その炎の中へ、三枚におろしたカツオの柵を、金串に刺して突っ込む。
チリチリチリ……!
皮が焼ける音。脂が滴り落ち、炎がさらに勢いを増す。 勝負は数十秒。 表面だけをカリッと焼き、中は冷たいレアの状態を保つ。 ボルグは炎の勢いを見極め、絶妙なタイミングで引き上げた。
「今だ!」
引き上げたカツオを、氷水(魔剣の冷却機能で作った)にドボンと浸けて熱を止める。 水分を拭き取り、厚めにスライス。 断面は、外側が香ばしい焼き色、中心は鮮やかなルビー色という美しいグラデーションを描いていた。
皿に並べ、たっぷりのスライスニンニク、刻みネギ、ショウガを乗せ、最後に柑橘と醤油を合わせた特製ポン酢をぶっかける。
「『レインボー・カツオのヤシ殻焼きタタキ』だ」
香ばしい煙の匂い(スモーキーフレーバー)が、食欲を暴力的に刺激する。 リズは箸を伸ばし、薬味ごと肉厚な一切れを口いっぱいに頬張った。
ガブリ。
「……んんん〜ッ!!」
リズが身悶えする。 まずは、ヤシの葉の野性味あふれる香ばしさ。 カリッと焼けた皮目の歯ごたえ。 そして、中からトロリと溶け出す、濃厚な脂の甘み。 ポン酢の酸味とニンニクのパンチが、脂っこさを完全に中和し、次の一切れを誘う。
「香りがすごいです! 燻製みたい! お魚なのに、お肉のステーキみたいに濃厚! でも後味はさっぱり!」 「このカツオは、食べる部位によって味が変わる。腹側はトロ、背側は赤身だ」
ボルグも豪快に食らう。 南国の夕日を見ながら、浜辺で食うカツオのタタキ。 これ以上の贅沢はない。
「はぁ……幸せですぅ……」 「そうだな。……だが、のんびりもしていられんぞ」
ボルグは水平線を睨んだ。 夕日に照らされた海の向こうから、何やら巨大な「船団」が近づいてきていたからだ。 海賊旗を掲げた、黒いガレオン船の群れ。
『おい、あれは……『暴食の海賊団』じゃないか?』 グラムが面倒くさそうに言う。
「料理中の邪魔はさせん。……リズ、デザートの前に一仕事だ」
平和なバーベキューはここまで。 次なる客(敵)は、海の荒くれ者たちだ。




