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戦鬼の厨房(キッチン) ~伝説の魔剣は、老兵の包丁になりたいようです~  作者: 九条 蓮夜


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第14話 絶対零度の鎧と、神速の解体ショー

キィィィィィンッ!


 金属と氷が衝突する、硬質な高音が山頂に響き渡る。  フェンリルの爪撃と、魔剣グラムが激突した音だ。  その衝撃波だけで、周囲の岩が粉々に砕け散る。


『速いな! 人間にしてはやる!』


 フェンリルが空中で身を翻し、追撃の氷弾アイス・バレットを無数に放つ。  一つ一つが、城壁すら貫く威力を持つ魔法の氷塊だ。


「……邪魔だ」


 ボルグは足を止めず、最小限の動きで首を傾け、あるいは剣の腹で氷弾を弾いた。  弾かれた氷塊は、狙いすましたかのように煮込み中の寸胴鍋の近くへ落ち、雪となって溶ける。


「リズ! 火力が強い! その氷を使って温度調整しろ!」 「ひぃぃっ! こ、こっちにタマを飛ばさないでくださいぃぃ!」


 リズは鍋を守りながら悲鳴を上げる。  戦闘中だというのに、ボルグの意識の半分は鍋に向いていた。


『我を前にして余所見とは……舐められたものよ!』


 フェンリルの毛並みが逆立った。  瞬間、大気中の水分が凍結し、狼の巨体が分厚い氷の鎧に覆われる。  『氷河のグレイシャル・アーマー』。  物理攻撃を完全に無効化し、触れたものを凍てつかせる絶対防御だ。


『この鎧は砕けぬ。そして貴様の剣も、触れれば凍りつき粉々になろう!』 「……なるほど」


 ボルグは冷静に、氷の塊と化した狼を観察した。


「鮮度を保つための『氷漬け(パッキング)』か。気が利くな」 『違うわ!』


 フェンリルが弾丸のように突っ込んでくる。  凄まじい質量と速度の体当たり。  だが、ボルグは真正面から迎え撃った。


『グラム、魔力を使え』 『おお! ついに暗黒波動ダーク・ウェイブか!? 消し飛ばしてやる!』 『違う。「振動」させろ。超高周波だ』 『……は?』


 フェンリルが衝突する直前、魔剣グラムが微細に、しかし猛烈な勢いで振動した。  ブォォォォォン……!  蜂の羽音のような重低音。


「硬い氷は、叩き割ると中身が傷つく。だが、振動する刃なら――」


 ズヌッ。


 奇妙な音がした。  ボルグの剣が、絶対硬度を誇る氷の鎧に、まるで熱したナイフがバターに入り込むように「沈んだ」のだ。  摩擦熱だ。  超高速振動による摩擦が、接触面の氷を一瞬で融解させたのである。


「『解凍かいとう斬り』」


 ボルグが手首を返す。  パァァァァァンッ!  氷の鎧が、内側から弾け飛んだ。  粉雪となって舞い散る氷晶の中で、無防備になったフェンリルの本体が露わになる。


『な、に……ッ!? 我が鎧を、溶かしただと!?』 「鎧だけじゃない。無駄毛も処理しておいた」


 フェンリルが着地し、自身の体を見て愕然とする。  自慢の銀色の毛並みが、わき腹のあたりだけ綺麗に剃られ、ツルツルのピンク色の肌が露出していた。


「そこだ。そこが一番脂が乗っている『大トロ(ハラミ)』の部分だ」


 ボルグの目が、完全に料理人の目(狂気)になっていた。  フェンリルは初めて、背筋に悪寒が走るのを感じた。こいつは戦士ではない。捕食者ですらない。  ただの、異常な「職人」だ。


『く、来るな! 我は神だぞ! 食材ではない!』 「美味そうな匂いをさせたお前が悪い」


 ボルグが地面を蹴る。  今度は、フェンリルの反応速度を超えていた。


「いただいた」


 閃光一閃。  魔剣が、露出したハラミの部分を正確に切り裂いた。  だが、それは致命傷を与える斬撃ではなかった。  巨大なブロック肉だけを綺麗に切り取り、血管と神経を一瞬で結紮けっさつして止血する、神業の「摘出」だった。


『ギャアアアアアッ!? 痛っ! いや、痛くない!? でも肉が減ったぁぁぁ!』


 ドサリ。  肉を奪われたショック(主に精神的なもの)と、魔力を使い果たした脱力感で、フェンリルはその場に崩れ落ちた。  ボルグの手には、美しくサシの入った、キロ単位の巨大な「神狼肉」が握られている。


「……見事な肉だ。体温が低いせいか、脂が結晶化して光って見える」 『……き、貴様……殺さ、ないのか……?』


 息も絶え絶えに問うフェンリルに、ボルグは平然と言った。


「全部殺したら、次が食えないだろう。また脂が乗った頃に来るから、しっかり食べて寝ておけ」 『……悪魔か、貴様は』


 こうして、伝説の神獣討伐戦(?)は幕を閉じた。  勝者、ボルグ。  戦利品、フェンリルのハラミ肉。


「おーい、リズ! ポトフはできてるか?」 「は、はいっ! お野菜とろとろです!」 「よし。メインディッシュの『しゃぶしゃぶ』を始めるぞ」


 敗北したフェンリルが涙目でうずくまる横で、勝利のランチが始まろうとしていた。

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