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「今世は聖女」 なんて言われても  作者: 野原のこ
第二部 力が漏れ出ていますが、なにか
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大蛇をタコ殴りにするよ

 今回の討伐計画は双頭大蛇ツインズサーペントに黒水晶を飲ませて、酩酊状態にさせることが第一目標だ。

 そうやって力が弱まったところを地面に抑え込み、騎士達が斬りつける。

 あれだけの太首を落とすことは容易ではないが、剣に闘気をまとうことのできるメイナード、カイセル、ギュンターがいればなんとかなるだろう。


 そのためにまずは魔術師達が総出で蛇頭にガンガン攻撃を食らわせて弱らせ、隙を狙って黒水晶を口の中に放り込む作業が最初の試練となる。

 題して“タコ殴り作戦”。

 レティーナの命名に魔術師達は「ええ……」と不満げだったが、カイセルが笑って「それぐらい馬鹿げた作戦名の方がリラックスできるだろ」と後押しして決定したのだった。


「そ、そうだ!タコ殴り作戦だった!《氷固撃アイスショック》」

「作戦名がダサすぎて気が抜けるんだけど、タコ殴りにしなくちゃ!《風裂弾ウィンドパレット》」

「そうだ!蛇をタコ殴りにするんだ!《熱砲弾ファイアーショット》」


 あれこれ言いながらも次々に魔術をぶつける魔術師達。彼らの顔色が戻ったことを見ればやはり作戦名は間違っていなかった。

 巨体のくせに俊敏な大蛇には避けられることも多いが、それでもレティーナの訓練を受けていた討伐団の魔術師達は攻撃力が格段に上がっている。負けてはいられないと自衛軍の魔術師達も必死に食らいついてきている。

 大蛇の方も攻撃しようと大口を開けて向かってくるが、その度にレティーナが特大の魔力を叩き込んでカウンターを食らわせた。


「次!第二班前へ!一班は後方へ回りポーション補給を!」

「「「はいっ!」」」


 交代で魔力ポーションを飲みながら、少しの隙も与えるものかとボコスカに魔術をぶつける。数打ちゃ当たるとばかりにしばらく続けていると、ようやく大蛇の動きが鈍くなってきた。


「シリル!」

「やります!行って!エティティ!」


 シリルの使い魔である鷹のエティティが黒水晶を掴んだまま上空に舞い上がる。

 それなりに重量のある黒水晶を難なく持ち上げたエティティは素早い動きで蛇の視界を錯乱しつつ、片方の口の中に黒水晶を放り込むことに成功する。


「おお!やったぞ!」


 同じように自衛軍の魔術師が使い魔の梟を飛ばし、もう一方の口の中に黒水晶を落とし込む。

 そのおかげで先ほどまではブンブン振っていた二つの頭が気の抜けたように垂れ下がり、目もトロンとしている。これなら地面に縫い付けることも可能だ。


「補助班!前へ出て準備を!いくわよ!《雷鋭檻サンダージェイル》」


 レティーナは変形型の雷檻をそれぞれの首に絡みつけて、地面に抑え込むように強く圧をかける。その勢いのまま大蛇の頭が地面に叩きつけられ、ドゴンッという凄まじい音とともに辺りに砂埃が舞った。


「補助班!」

「はいっ!《強化エンハンス》」

「いきます!《保護プロテクション》」


 ソフィア含む補助班達によってレティーナの放った雷鋭檻サンダージェイルが強化されていき、大蛇の首ががっちりと地面に固定された。


「魔術師チーム、よくやってくれたね!次は私達の出番だよ!」

「「「おーっ!」」」


 メイナードの掛け声とともに騎士達が次々と横をすり抜けていく。

 頭部と根本のちょうど中間ぐらいの場所に、まずはメイナードが切り込みを入れるように剣を突き刺した。大蛇は逃れようと暴れシャーシャーと威嚇音を発するが、レティーナ達が負けじと圧をかけ続ける。

 当初は怖気づいていた騎士達も、がっちり固定されていることに安心できたのか太い丸太を切断するかのように作業が進められていった。


「おい!そっちはどうだ?!」

「順調ですが、もう少し時間がかかりそうです!」


 大事なのは頭部二つともほぼ同時に切り落とさなければならないこと。

 メイナードを筆頭にした討伐団とギュンター率いる自衛軍、それぞれ互いの進捗を確認しながら切り込みを深くしていく。


 とはいえ作業は難航を極めた。

 あまりに固い表皮に悪戦苦闘が続き、抑え込んでいる魔術師達も限界を迎え始めたころ、ようやく二つの首がほぼ同時に切り落とされた。


「やった!やったぞ!」

「俺達は双頭大蛇ツインズサーペントを倒したんだ!」


 そこかしこで歓声が上がる。

 騎士も魔術師もヘトヘトではあったものの、強敵相手にこれほどスムーズに討伐できたことに喜びもひとしおだ。遠目ではあるがカイセルとも笑顔を向け合い、レティーナも術を解いた。


「やりましたね!レティ隊長!」

「ええ。皆が力を出し切ってくれたおかげだわ」

「でもやっぱりレティ隊長の一発目!あの効果は抜群でしたよ!」

「そうそう!あれで一気に心強くなりましたから!」


 そんな会話をしていると、ズルズルとなにかを引きずったような音が聞こえ始めた。

 なんの音かと皆が訝しんでいると、騎士の一人が大声で叫んだ。


「お、おい!双頭大蛇ツインズサーペントが動いているぞ!」


 そんな馬鹿な。

 誰もがそう思ったそのとき――


 ブシャァアアアーーーッ!!!


 生々しい音があたり一帯に響き渡り、大蛇の断面から突然首が生えてきた。その勢いは凄まじく、近くにいた騎士達を駒のようになぎ倒し、そうやって伸びた頭は二つとも再生されて再び上空でゆらゆらと蠢きはじめた。


 巻き込まれた騎士達は吹き飛ばされ、地面に倒れ伏している。手足があらぬ方向に向いている者や体がズタズタに切り裂かれた者、辺りは血が散乱し呻き声がそこかしこで聞こえ、一瞬にして地獄絵図と化した。


「ど、どういうことだ?!な、なぜ再生したのだ……?」


 血に染まった肩を押さえながらふらふらと立ち上がったギュンターの呟きは全員の思いと合致しており、誰もが愕然としている。

 そんな中レティーナはとある疑念が頭を過った。


(まさか!)


 間髪入れずにシリルに向かって叫ぶ。


「シリル!エティティと視界を共有させて!そのまま双頭大蛇ツインズサーペントの尾を見てきてちょうだい!」

「は、はい!」


 わけがわからないながらもシリルはレティーナに言われるがままエティティと視界を共有させ、森の奥へと飛ばした。いち早く状況を飲み込んだカイセルが声を張り上げる。


「自衛軍第二隊!大砲を撃て!ヤツに攻撃する隙を作らせるな!その他動ける者は怪我人を後方へ移動させろ!救護班、ポーションを早く!」


 カイセルの命令で全員が我に返り動き始める。カイセルも頭に傷を負っているがそれに構わず、血だらけになって倒れていたメイナードを肩で支えて起こした。レティーナはすぐさま駆けつける。


「メイナード団長!すぐに治癒します!」


 レティーナが印を組もうとするとメイナードが首を横に振った。


「それは、駄目……魔術が、使えなくなる、でしょ。今は戦力を……失うわけに、いかない」


 メイナードの言うことは最もだ。けれどその横をタンカに乗せられたアンリとオズマが運ばれていく。

 見送ることしかできずレティーナが唇を噛んだとき、後方からシリルの震えた声が聞こえた。


「そ、そんな、ありえない。まさか……だって……!」

「シリル!見たまま報告して!早く!!」


 シリルはレティーナを見つめてゴクンと唾を飲み込んだ。


「ほ、報告します!レティ隊長のご指示通りに尾を確認したところ、信じられないことにそこには頭がありました!この双頭大蛇ツインズサーペントには頭が3つあります……!」

(やっぱり!)


 ぐらりと体が揺れた気がした。なぜ、どうして。そんな言葉がレティーナの頭の中を木霊する。

 シリルの報告に誰もが衝撃を受けていると、ギュンターが切羽詰まったように叫んだ。


「どういうことだ?!儂は尾を確認するよう指示したはず!お前達、説明しろ!」

「わ、私達は第三隊にきちんと確認するよう命じました!」

「そうです!マリオ!マリオはどこだ!前に来い! 」


 第三隊隊長のマリオは、全員の前に連れて来られたときには真っ青になって狼狽えていた。


「わ、私は……」

「マリオ!正直に答えろ!確認したときは尾だったのだろう?!」

「い、いえ。その……私は、確認したわけでは……」

「どういうことだ!はっきり言え!」


 上席から詰め寄られたマリオは震える声で呟くように言った。


「わ、私は見たわけではありません……その、危険を冒してまで行く必要はないと、言われましたので……」

「馬鹿な!そんなことを誰に言われた?!」

「……その、若様に、です」


 その瞬間、全員の視線がオーウェンに集まる。彼はぎくりと肩を揺らしたが、すでにマリオ以上に顔を青ざめさせていた。


「まさか、まさかこんなことになるとは……!私はただ、赤髪の魔女の言うことを信用してなるものかと……グハッ!」


 言い終わる前にギュンターが力いっぱいオーウェンの頬を殴り、オーウェンは地面に叩きつけられた。肩に怪我を負っているギュンターは一瞬顔を顰めるも、倒れ伏したオーウェンの襟首を掴んで睨みつける。


「お前の真面目さ、その潔癖なところは長所だと思っておった!だが違ったようだ!お前は偏見に満ちた視野の狭いただのクズだ!!」

「も、申し訳ありません……」

「今さらそんな謝罪になんの意味があろうか!全員の命を危険に晒したお前の言葉になど!」


 吐き捨てるように言ったギュンターはオーウェンを突き飛ばした。顔を歪め、噛みしめた唇から赤い血がぽたりと落ちる。


「愚息の過ちは儂の咎、如何様な罰も受ける所存です!ですがまずは復活したあやつをどうするか!現状、我らにはもう対峙する力が……!」


 黒水晶は二つとも使ってしまった。ポーションの在庫も危うく、怪我人だらけで戦力も減退。なにより倒したと思った強敵ともう一度戦わなければならないという精神的ダメージが大きく、皆の顔が絶望に満ちている。


「こうなった以上撤退するしか道はありませぬ!儂らがしんがりを務めて時間を稼ぎます!メイナード団長、ご決断を!」

「……そう、だ、ね。これ以上、は」

「いや、方法はある」


 そう言ったカイセルはレティーナを見た。


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