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「今世は聖女」 なんて言われても  作者: 野原のこ
第二部 力が漏れ出ていますが、なにか
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作戦会議に参加します

「ここです」


 ノックをしたオーウェンが扉を開けると、そこにいた騎士達が「若様!」と声を上げた。

 その声につられて貫禄のある男性が厳めしい顔を向ける。その鋭い目元がオーウェンとよく似ていると思った。


「オーウェン、遅かったな。なにかあったのかと心配しておったぞ」

「申し訳ありません、父上。皆も心配させてすまない。討伐団の方々をお連れしました」

「おお、メイナード団長、よくぞいらっしゃってくださった。それにカイセル殿下とアンリ殿まで」

「久しぶりだな、ギュンター」

「お久しゅうございます、カイセル殿下。殿下にもお越しいただけるとは心強い。感謝いたしますぞ」

「ギュンター、今回は頼もしい魔術師もいるよ。レティーナ君、いいかな。彼女は最近入団したばかりだけど凄腕の持ち主でね。うちにとってはすでに無くてはならない存在だよ」


 男性陣の後方にいたレティーナが前に進み出る。城を出たときのままなので赤髪は隠しておらず、その姿に全員が目を見開いた。

 何人かが口を開きかけたがギュンターが視線で押し留め、レティーナをじっと見つめた。


「儂はギュンター辺境伯の当主を務めているロバートと申す」

「レティーナと申します。よろしくお願いします」

「うむ、よい目をしていらっしゃるな。戦い慣れた強い意志を持つ者の目だ。此度の討伐、よろしく頼むぞ」


 レティーナを強者と悟ったギュンターが認める発言をしたことで、他の騎士達からの視線が少し和らいだ。思うところがないわけではないが、今はそれどころじゃないというのが本音だろう。


 それぞれ騎士達からも挨拶を受けた後、オーウェンが城での出来事を簡潔に話した。ジュリアスの所業には皆憤りを覚えるも、最優先事項は双頭大蛇ツインズサーペント討伐だ。

 机の上に広げられた地図を全員で囲みながらギュンターの説明を聞く。


「ヤツがいるのはこの森の中央。戦況はかなり厳しい状況ですが、なんとか足止めには成功しております」

「住民に被害が及んでなくてよかったよ」

「ですがまもなく大砲が底を尽きてしまいます。そもそもあの巨体とどう戦えばよいのか……」


 そのときノックが聞こえ、案内役の騎士とともにオズマとメイナードの侍従長が入室してきた。

 二人は錠前のついた大きな箱を抱えている。


「団長、例の品を持ってきました」

「二人ともありがとう。机の上に置いてくれるかな」


 二人は机に広げられている地図の横に箱を丁寧に並べた。メイナードが侍従長から受けとった鍵で錠前を外し、蓋をゆっくりと開ける。その中身を見た瞬間、辺境伯家の面々は目を丸くした。


「メイナード団長、そ、それはもしや黒水晶では?!」

「そのとおりだよ、ギュンター。今回の討伐に必要みたいだから用意させたんだ。だよね?レティーナ君」


 話を振られたレティーナに全員の視線が集まる。

 黒水晶は魔石の上位互換となるもので、国の防衛などに使用している特別な動力源だ。この大きさなら国家予算一年分に匹敵するほどの高価な代物なので、一般人であれば生涯目にする機会もないだろう。


 そんなものがなぜここに、と訝しげになる彼らにレティーナは説明する。


「実は黒水晶に含まれる鉱石は魔物にも有効なのです」

「魔物にも?そのような話は聞いたことがないが」

「それは黒水晶が高価すぎて市場に出回っていないからでしょう」


 正確にいえば300年前の魔女狩り当時、希少で高価な黒水晶を魔物に使うことを渋った権力者達が “魔物に効くというのは魔女の戯言”として価値を狭めた。だから知る人ぞ知る、みたいになっているだけのこと。

 半信半疑のギュンターが眉間に皺をよせる。


「それでいったい、どのような効果があるというのだ?」

「黒水晶を魔物に飲みこませると、その魔物は酩酊状態になります」

「酩酊状態だと?!」

「はい。双頭大蛇ツインズサーペントは巨大すぎるので効果は薄れてしまいますが、それでも注意力が低下し動きが緩慢になります。その隙を狙って地面に抑え込むことができれば」

「首が落としやすくなるというわけだな!」

「それが本当ならヤツを仕留めることができますね!」


 活路を見いだせた自衛軍の重鎮達から喜びの声が上がった。

 メイナードが2つも用意してくれたので、それぞれの頭にひとつずつ飲ませることができる。そうなればずいぶん戦いやすくなるはずだ。けれど――


(これは伝えるべきなのかしら。でも確証もないことなのに……)


 レティーナの表情が曇ったことにカイセルが気づく。


「どうした?レティ。心配事でもあるのか?」

「……そう、ね」

「なら些細なことでも皆に伝えておいた方がいい。不確かだろうと情報は共有しておけと習っただろ?」


 そのとおりだ。レティーナはすべてを叩き込んでくれた前世の師匠、クシュナの姿を思い出した。


 前世の修業中、他国を回っていた際に出食わした双頭大蛇ツインズサーペントにレイナは恐怖し、足が竦んで一歩も動けなかった。

 けれどクシュナは違った。巨大な蛇相手に一歩もひるまず、というか笑いながら魔術をぶつけていた。あのときほど自分の師がかっこよくて怖いと思ったことはない。

 そのときに双頭大蛇ツインズサーペントの特徴も聞いた。あの誇り高い大魔女クシュナが出まかせを伝えるなんてあるはずがない。


 意を決したレティーナは全員に目を向ける。


「実はひとつ、気掛かりなことがあるのですが」

「気掛かりなこと?いいよ、言ってみて」


 メイナードが促してくれたので、レティーナは地図に目を落として指で差し示す。


「ここが発覚地点で、現在地はこの場所。足止めに成功していたとしても、あまりに進みが遅すぎるのではないでしょうか」


 魔物が人間を襲うのは本能だ。ランクが上がるほどにその欲求は強くなる。

 Sランクの双頭大蛇ツインズサーペントともなれば大勢の人間がいる場所を嗅覚で探り当てるのも容易く、この砦や街に向かって爆走してきてもおかしくない。


「確かに、言われてみれば……」

「ですのでもしかしたら、今回の双頭大蛇ツインズサーペントは変異種なのではないかと」

「変異種?」

「はい。尾にも頭がある変異種です」

「っ!なんだとっ!」


 全員が驚愕の表情を浮かべた。頭が3つある双頭大蛇ツインズサーペントなんて聞いたことがないのだから当然だろう。

 けれどそれなら納得できるのだ。

 尾にある頭が逆側に、即ち森の向こうを隔てた他国に向かおうとしているのであれば、引っ張り合ってなかなか進めずにいるというだけだから。


「そんなことがあり得るのか?俄かには信じられんぞ」

「そもそも変異種なんて滅多に出現しないのに、尾まで頭になってるなんて考えられないというか……」

「おっしゃりたいことはよく分かります。ですのでまずは尾の先を確認して」

「いい加減にしてくれ!」


 それまでずっと黙っていたオーウェンが突然声を張り上げ、レティーナを睨みつけた。



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