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「今世は聖女」 なんて言われても  作者: 野原のこ
第二部 力が漏れ出ていますが、なにか
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ようやくいなくなってくれました

 妙な距離感にレティーナが首を傾げると、メイナードが苦笑する。


「君がすごいことはわかってたつもりなんだけど。まさかあの短時間で、しかも5つ同時にやってのけるとは思わなくてね」


 メイナードがそう言ったのを皮切りに、静まり返っていた広場から再び騒めきが起こった。


「い、今のはなんだ?!なにが起こったんだ?!」

「ほ、本当に転移石が修復できてるぞ!信じられん!」


 それは親衛隊も同じで、むしろ動揺を隠しきれず大声で騒ぎ立てる。


「5つ同時に処置しただと?!まさか魔女の色を持つ分際でこんなこと!あり得ないだろう!」

「どういうことだ!なぜお前にそんなことができる?!」


 焦りのあまりレティーナに詰め寄ろうとしたとき、人垣から声が上がった。


「なぜって、レティ隊長が凄腕の魔術師だからに決まってんだろ」

「そのとおりですわ」

「っ!な、なぜお二人がここに……!」


 人垣から割って出てきたのは得意満面な笑みを浮かべる騎士団長ウォルフと薬草園管理者のコーデリアだった。その後ろには苦笑するカイセルとアンリもいる。

 前者の二人はレティーナが力を見せつけたことへの満足感、後者の二人はとうとうやっちゃったのね感が滲みでいていた。


「レティ、よかったのか?」

「ええ。力を出し惜しみしている場合じゃないわ」

「……そうなんだが、もう少し加減を……いや、なんでもない。さすがレティだな、助かったぞ」


 カイセルと会話している横でウォルフがワハハと楽しそうに笑った。


「さすがレティ隊長だぜ!修復するだけじゃなく、攻撃倍反射ダブルリフレクションまでかけるとは恐れ入った!」

「それほど凄いんですの?」

「もちろんだ!もしまた誰かが転移石板を壊そうとしたら、それがそいつに跳ね返ってくる。しかも倍返し!確実に相手を仕留めるえげつない術だぜ!」

「あら素敵。目には目を、では生温いですものね」


 二人は楽しそうに会話をした後、冷たい表情を親衛隊に向けた。


「いいかお前ら、レティ隊長は討伐団にはもちろん、騎士団にとってもなくてはならない存在だ。レティ隊長に文句があるなら俺を通してからにしてもらおうか」

「医薬研究所にとっても大切なお方ですわ。レティ隊長への不満があるのならわたくしがお聞きしましょう」


 立ち塞がる二人に親衛隊は困惑顔だ。城内でも重要人物とされる二人がなぜレティーナの肩を持つのかさっぱりなのだろう。


「い、いえ、別に文句とかではなくて……」

「ならなんだ。そもそも昨夜、お前ら親衛隊がうちの見回り兵にいちゃもんつけて足止めしなけりゃ、転移石が知らん間に壊されるなんてことはなかったんだよ」

「そ、それは……」

「なのに黙って聞いてりゃ偉そうな口を叩きやがって。これ以上絡むなら公務執行妨害で牢にぶち込んでやってもいいんだぜ」

「ヒィッ!わ、我々は失礼します!」


 ウォルフに睨みつけられた親衛隊は蜘蛛の子を散らす勢いで去っていく。ミランダは去り際レティーナを悔しそうに睨んでいたが、それには目を合わさなかった。正直今は相手をしている暇はない。

 見物人達もつられるように引いていき、ようやくひと段落ついた形となった。


「ありがとうございました、ウォルフ団長、コーデリア様。助かりました」

「この緊急事態に絡んでくるなんて本当に面倒な奴らだな。とはいえあいつらはひとまず放っておくとして。ナード、俺の部下達も連れていってくれ。後方支援ならお手の物だ」

「わたくしからは治癒ポーションをお持ちしましたわ。こちらは緊急対策用のものですので存分にお使いください」


 二人の後ろには大量のポーションを積んだ荷車を引く騎士団員達が揃っている。その中には先日薬草園でレティーナの聖魔術を目の当たりにしたメンバーもおり、彼らは目を輝かせてレティーナに会釈をした。


「二人とも、助かるよ」

「こんなときこそ連携が必要だからな。こっちのことは任せてくれ」

「頼んだよ」


 メイナードは笑顔でそう告げた後、表情を引き締めて討伐団の面々をぐるりと見渡す。


「余計な時間をくってしまった分急ぐよ。皆、準備はいいね?」

「「「はい!」」」


 いよいよ辺境地への突入だ。

 ウォルフとコーデリアが見守る中、レティーナ達は転移石を足早にくぐり抜けていった。

 




 ギュンター辺境伯の領地に辿り着いた団員達は、オーウェンによって辺境伯家直属の自衛軍の本拠地となっている砦に案内された。

 ちょうど入り口から出てきた数名の騎士がオーウェンに気づいて駆け寄ってくる。


「若様!」

「マリオ!皆も!無事だったか!」

「若様こそ!昨夜はお戻りになられず、転移石まで使えなくなってしまったので心配していたのです!」

「それに関しては後で説明する。状況はどうだ?!」


 するとマリオはぎゅっと唇を噛みしめた。


「最前線にいた第一・第二隊のうち第一隊がほぼ全滅となり、我が第三隊が出陣するところです。他は怪我人の救護や避難誘導にあたっています」


 全滅。

 その言葉に討伐団員達は息を飲み、オーウェンは苦しそうに目を閉じた。


「……そうか。父上は?」

「お館様は本部で若様のお帰りをお待ちです」

「わかった。メイナード団長」


 振り向いたオーウェンにメイナードは頷いた。


「状況はわかったよ。まずはギュンターと合流して作戦会議だね。他の皆は救護の支援をしてあげて」

「「「はい!」」」

「レティーナ君は会議に参加してほしい」

「わかりました」


 するとオーウェンが一瞬眉を寄せるも、レティーナと目が合うとスッと逸らされた。


 ――なによあの男、感じ悪いわね

 ――なにも言われていないんだからいいじゃない

 ――転移石のお礼も言われてないわよ

 ――それは別にいいのよ


 オーウェンはレティーナの髪を見てから態度がおかしい。ルルはそれも気に入らないようでぶつぶつ言っているが、大人な対応をしているオーウェンに特に思うことはない。


「では案内します。悪いがマリオ、皆を救護施設に案内してやってくれ」

「わかりました。皆様、こちらへどうぞ」


 そうして団員達とは別れ、メイナード、カイセル、アンリ、そしてレティーナの四人がオーウェンの後に続き砦内部の上階に足を進めた。

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