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「今世は聖女」 なんて言われても  作者: 野原のこ
第一部 前世は魔女ですが、なにか
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え?冒険者になれないの?

「うーん、ないわねぇ」


 レティーナは豹姿に戻ったルルの背中に乗って、上空からギルドがありそうな街を探していた。

 魔物は瘴気の濃い森に潜んでいて、周辺の街にはギルドがある。300年前にあった街に転移(テレポート)で飛んでみたのだが、荒れた草地にかわってしまっていたので空から探すことにしたのだ。

 ちなみに空を見上げられても隠密(ステルス)をかけているので問題ない。


「あ、あったわ。ルル、あの街で降りてくれる?」

『わかったわ』


 森に沿った大きな街、あそこならギルドもあるだろう。

 建物の陰に隠れて地面に降り立ったレティーナは髪が隠れるようにフードを目深に被り、子猫になったルルが肩にのる。腕のよい魔術師は使い魔をつれていることが多いので冒険者登録するのにもちょうどいい。ただ人語を話す使い魔はいないので、ルルは人前では喋らないようにしている。

 街の中をしばらく歩くとギルドの看板が見えたので、開けっ放しになっていた扉の中に入っていく。


(この感じ、懐かしいわね)


 入口付近に依頼書が貼ってある掲示板があり、奥には食事ができるようになっている。昔のギルドとそれほど作りは変わっておらず、けれど思ったよりも閑散としている。

 それを視界に入れながら、レティーナは受付カウンターにいる女性の前に立った。


「冒険者登録をお願いしたいのですが」

「登録ですね。ではまず魔道銃をみせていただけますか?」

「魔道銃、ですか?」

「はい」


 当たり前のように言われたが、魔道銃なんて初めて聞いた。

 これが閉じ込められていた弊害かと思っていると、女性が何かに気づいたように「ああ」と言った。


「もしかして他国の方ですか?」

「いえ、あの、魔道銃というものがよくわからなくて」

「そうでしたか。魔道銃というのは魔道具で作られた武器のことです。それがないとギルドに登録ができません」

「え?冒険者になれないのですか?」

「はい」


 いきなり出鼻を挫かれてしまった。

 困っていると少し離れた場所にいた冒険者らしきおじさん二人が近づいてくる。


「ねえちゃん、魔道銃を見たことないのか?」

「ええ」

「見せてやるよ。これだ」


 腰に巻き付けていた皮の袋から、両手の平サイズのL字型の塊みたいなものを出してきた。


「これに魔力を込めながら引き金を引くと弾がでて、獲物を殺せる。だがこいつは魔物討伐じゃ役に立たねぇ」

「どういうことですか?」

「威力が弱いんだ。そりゃ貴族のぼっちゃんが兎狩りなんかを楽しむ分にはいいけどよ。俺らみたいな本職には意味ねえ代物だ」

「なぜそんなものを?」

「国の政策とやらさ。半年ほど前になるか。安全性を考慮したとか言って、バカ高いくせに実用性のないコレを持つことが規定になったんだ。稼げる冒険者ならいいが、そうでないならまず先に借金を背負う羽目になる」


 触らせてもらうと、たいして魔力を込めることができないのがわかった。これじゃ魔物討伐は難しい。

 呆れ顔をしていると、もうひとりのおじさん冒険者が口を開いた。


「な?ちゃちいだろ?だから俺らは意味のねえこいつを腰にぶら下げながら、今までどおりの戦法で戦ってるのさ。だが抜き打ちでこいつを使ってるのか調べられる。弾だって買わなくちゃいけねえってのによ。大半の冒険者は嫌気がさして他国に流れちまった」

「冒険者がいなくなれば魔物が溢れてしまいますよね」

「そのとおりだ。代わりに国の討伐団が必死で戦ってくれてはいるがな」

「俺らはその手助けがしたくてここにしがみついちゃいるが、厳しい状況だぜ」


 受付カウンターの女性を見ると黙ったままレティーナを見返している。否定しないので事実なのだろう。

 国の政策のせいで冒険者が減ってしまった、それを国の討伐団が尻ぬぐいをしている。おかしな話だ。

 とはいえ魔道銃保持がギルドの規定というのならどうしようもない。


「魔道銃は大通り沿いの青い屋根の建物で売ってるぞ。見にいってみるといい」

「そうしてみます」

「勧めはしないが、俺らとしちゃねえちゃんみたいなのが冒険者になってくれたら心強い。なあ?」

「ああ。使い魔まで連れてるし、場慣れしていて妙な貫禄がある。実力がある証拠だぜ」


 若い娘に貫禄があるなんて失礼な話だが、否定できないのが地味につらい。

 レティーナは二人にお礼を言ってギルドから出た。


 大通りを進むと教えてもらった店はすぐにわかった。入ってみるとショーケースの中にずらりと魔道銃が並んでいるが、聞いたとおりびっくりするほど値段が高い。


(一番安いので500万ジェニーなんて!しかも弾は別売り?!嘘でしょう?!)


 500万ジェニーといえば平民家族が数年は暮らせる金額。魔物討伐の役に立たないのにこんな大金つぎ込むなんて馬鹿げている。

 そこに揉み手をしながら男性店員がやってきた。


「魔道銃をお求めで?」

「残念だけど私には高いわ」

「そうでしょう。そうでしょう。ですがなんといっても最新の魔道具ですから、値が張るのは仕方ありません。魔力を込めるだけで遠距離の獲物を一撃で倒せるんですよ!誰もが安全に迅速に、あなたのような非力なお嬢さんでも簡単に使える素晴らしい品物です!ですがお金が足りないということであれば、私が働き口をご紹介しましょう。なぁに、簡単なお仕事ですよ。お酒を飲みながら男性相手にすこーし、あ、ちょっと!お客様ぁ!」


 レティーナはさっさと店から出た。


「500万ジェニーなんて、ぼったくりもいいところだわ。しかもいかがわしい仕事を紹介しようとするなんて」

『レティだったら自分で作れるでしょ?』

「あの構造ならできなくもないけど、勝手に作ったら後々面倒になりそうだわ。冒険者は諦めて、薬師にしようかしら」

『薬草集めて、すり鉢でゴリゴリ?地味ね』

「地味ならちょうどいいじゃない。ギルドに戻って売れるかどうか、まずは聞かなくちゃ。どのみち今日は野宿ね」

『お金がなくて野宿って切ないわ』


 周囲に気づかれないようにぼそぼそと小声で会話しながらギルドに戻ってみると、さっきは閑散としていたのになぜか急に人が溢れている。ざわざわしている声が耳に入ってきた。


「おい、巨大(ジャイアント)毒蜘蛛(タランチュラ)がでたって本当か?!」

「ああ!子蜘蛛をわんさか連れてやがる!今討伐団が対応しているがまずい状況らしい!」

「くそっ!人手が足りなすぎるんだよ!冒険者減らして国はなにがしたいんだ!」

「だから討伐団が頑張ってくれてんだろ!」


 レティーナはすぐに踵を返して路地裏に隠れる。


「ルル!」

『まさかやる気?!まだその体に前世の魔力が馴染んでないじゃない!』

「少しぐらいなら大丈夫よ。放っておけないわ」

『はぁ、まったく。変わってないんだから。絶対無理しないでよ!』


 あきれ顔のルルだったがすぐに豹姿になり、レティーナを背中に乗せて一気に上空に飛んだ。

 巨大(ジャイアント)毒蜘蛛(タランチュラ)は長い足を折り畳んだ状態でも3mを有に超える大型の魔物で、猛毒の針も厄介だが吐き出す糸がなにより脅威だ。頑丈すぎて刃を当ててもなかなか切れないので、絡めとられると身動きがとれなくなってしまう。そうして毒針でブスリ、呆気ない最期を迎えることとなる。子蜘蛛は1mも満たず毒性も糸も弱いため討伐は難しくないが、群れているのが厄介だ。

 空から見下ろしていると戦闘している場所はすぐに見つかった。


(……。やっぱり気持ち悪いわね)


 そんな場合ではないのだけれど、わさわさと動く大量の蜘蛛に背筋がぞぞっとした。

 巨大(ジャイアント)毒蜘蛛(タランチュラ)は通常、瘴気の濃い森の奥をテリトリーにしているが、ずいぶん手前で派手に暴れて回っている。魔物が討伐できていないせいで瘴気が広がり、境界線が崩れてしまったのだろう。

 中に一人、リーダー的存在の男性が目に止まった。一流の剣士のみが持つといわれる闘気(オーラ)を纏っているので相当な腕前のはず。あの男性なら頑丈な糸も斬れそうだ。


「いってくるわ!」


 ルルの背中から飛び降りて、彼の横に降り立った。

 突然空から降ってきたレティーナに青年が目を見張り、視線が交差する。


 青みがかった艶やかな黒髪、意志の強そうな同色の瞳、通った鼻筋、薄い唇。精悍なその顔立ちは――


「まさか」

「お前」


 言葉が重なり、レティーナが目を丸くすると同時に、彼もまた目を見開いた。


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