ジュリアス親衛隊の最下層
「ニックが国外追放?!本当ですか?!」
驚愕するレティーナに、メイナードが不機嫌な顔で頷いた。
今朝はいつもどおりに討伐に向かったのだが、昼前にカイセルとメイナードに急遽呼び出しがかかったため、彼ら不在のまま魔物討伐を続けた。
その後討伐を終えたころにようやく戻ってきた二人に話があると団長室に呼び出され、上記の発言を聞かされたのだ。
一緒に聞いていたアンリも、副団長のオズマも驚きに目を見張っている。
「本当だよ。今日の昼前には刑が執行されたんだって」
「昨日の今日なのに、いくらなんでも早すぎませんか?それに国外追放って重犯罪者の刑罰ですよね」
「王族侮辱罪が適応されたんだ」
「王族侮辱罪?カイへのですか?」
メイナードの隣にいるカイセルに目を向けると、彼は首を横に振った。
「俺じゃない。ジュリアスへのだ」
今朝がた、ニックが目を覚ましたのでウォルフは早速真実の腕輪を使って尋問に取り掛かった。
ニックによればジュリアスの側近である親衛隊には上級側近、下級側近、最下層とランクが分かれていて、ニックが所属する最下層は時に手を汚すこともあるという。
「しかもその扱いは奴隷並みらしいよ」
「奴隷……」
レティーナはふと、従弟の顔を思い出した。
フレディはあのとき言っていなかったか。このままでは奴隷扱いから抜け出せないと。
(もしかしたらフレディは、ニックと同じ最下層だったのかもしれないわね)
だから記憶喪失のふりまでして、ジュリアスから逃げたかったのではないだろうか。
今回の件、元はメイナードと同じくカイセルが魔物にやられて再起不能になることを、ジュリアスサイドが目論んだことが発端らしい。
だからわざわざ制服を新調し付与を適当にしたのに、気付けばとんでもないスキルを持ったマントになっていた。それを取り上げるために今回の騒動を起こしたとのこと。ついでにカイセルの責任が問えれば一石二鳥。
肝心の黒マントはというと、ニックは討伐団の倉庫から盗み出し、事が終わるとご丁寧に倉庫に戻していたため誰にも気づかれなかった。
「それからレティーナ君のことは、新人の魔術師としか認識してなかったみたい」
フードをかぶっているのは恥ずかしがり屋だから、と事前にアンリが広めてくれていたおかげだろう。情報が漏れていないことに一同安心した。
とはいえなぜニックが国外追放にまでなってしまったのか。彼はジュリアスサイドの内情を知る重要参考人のはず。
「それが災いしたんだ。ニックから話が漏れるのを恐れたんだろうね。勝手に罪を犯したのにジュリアスの名前を出した、名誉を棄損したからって王族侮辱罪が適応されちゃったんだよ」
「ニックが捕まったと知ったジュリアスが陛下に進言し、陛下が裁きを下したそうだ。ウォルフが抗議をしている間に、ニックは親衛隊に烙印を押されて国境に連れていかれてしまった」
「烙印まで……!」
烙印は大陸共通だ。つまりどの国に行こうと重犯罪者扱いされ、ニックが野垂れ死ぬのも時間の問題。魔術は封じられただろうし、余計なことを喋らないように喉も潰されたはず。
ニックは確かに罪を犯したが、これでは量刑の方が重すぎる。
当然ながらカイセルもメイナードも納得できず止めようとしたものの時すでに遅く。せめて証拠をとウォルフが家宅捜索しようとも、元部下の所業だからとジュリアスサイドがしゃしゃり出てすべて押収されてしまった。
そしてニックは、こうなることを予想していたようにずっと怯えていたそうで、だからあのとき魔力暴発なんて起こしてしまったようだ。
「これはさすがにやりすぎではありませんか?」
誰もが思っていたアンリの言葉に、カイセルとメイナードも頷く。
「そのとおりだ。まだ尋問も終えていなかったからな」
「手順も無茶苦茶だから、さすがに問題になったんだよね。でも最終的には国王である兄上が裁定しちゃってるから覆すことはできなくて、結局は有耶無耶だよ」
「そんな……」
「ジュリアスは“英雄の再来”だからね。昔から大事に大事にされてるんだ」
そう言ったメイナードは窓の外を鋭く睨みつけ、カイセルは瞳を伏せた。
二人の様子から、今までもこんなことがあったのだろうと予想できた。それにカイセルは先ほど国王を“陛下”と呼んだ。父ではなく、陛下、と。おのずと親子間の距離が察せられた。
ともかくこれで薬草園荒らしの件は集結となったのだが、結果として後味が悪すぎる。露骨な尻尾切りにジュリアスの人物像が透けて見えた。
(フレディがニックのことを知ったら、どうするのかしら)
奴隷扱いされていたなら、フレディもニックのように汚れ仕事をさせられていた可能性が高い。いくら医療施設にいたとしても明日は我が身と戦々恐々になるだろう。
いっそのこと、これまでの罪を証言してもらう代わりに保護を約束する、そんな提案をしてみたらどうだろうか。案外のってくるかもしれない。
(カイと相談してからだけど、フレディの面会に行ってみてもいいかもしれないわね)
そんなふうに考えていると、メイナードが大きな溜め息をついた。
「とにかく今回の件でウォルが荒れちゃってね。今日は食事の約束をしてるけど、間違いなくやけ酒になると思う。それでカイも来るし、皆も一緒にどうかな?よかったらレティーナ君も」
「私もですか?」
「うん。今回協力してくれたお礼もかねて」
そういうことなら、とレティーナは同意した。
アンリとオズマは団員達の様子を確認したあと合流すると言うので、先に三人でメイナードの宮に向かうことにした。
「レティーナ君はお酒強いの?甘党だからあんまりかな?」
「そうですね」
「嘘だ、叔父上。レティはザル、とんでもなく飲むぞ」
「ちょっとカイ、バラさないでよ」
「ハハ、そうなんだ。酒豪のウォルが喜ぶよ」
三人で雑談しながら回廊を歩いていると、正面から青い制服を着た団体が近づいてくるのが目に入る。
(あの集団ってもしかして……!)
こんなところで鉢合わせするとは思いもしなかった。
中心にいるのは誰よりも高貴な服をまとう青髪青目の青年、“英雄の再来”、第二王子ジュリアス。その周囲を取り囲むのが親衛隊の中でも上級側近と呼ばれる者達だろう。
まさかのタイミングだが、せっかくなら顔を拝んでやろうとレティーナは深くかぶっていたフードを少しだけ上げて正面を見据える。
けれどジュリアスを視界に入れた瞬間心臓が凍り付いた。
鮮やかな青い髪に同色の瞳。
違う、あれは彼じゃない。でもあの色は。違う、そうじゃない!!
必死に抑え込むのに勝手に魔力が膨れ上がる。血が沸騰するかのように体中が熱くなる。
あのときの激痛が蘇り、記憶が一気にフラッシュバックする。
――ジュール殿下!
それは前世、レイナを死に至らしめた王太子の名だった。




