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「今世は聖女」 なんて言われても  作者: 野原のこ
第二部 力が漏れ出ていますが、なにか
27/52

誰にだって苦手なものはある

第二部スタートです!

よろしくお願いします!


 深夜の王城内。

 静寂を打ち消すように地面を踏み鳴らす足音が響き渡る。


「おい!いたか?!」

「いや、こっちにはいないようだ!」


 不審者の行方を密かに追っていた衛兵達は焦りに顔を曇らせた。


「くそっ!ウォルフ団長がいないときに限ってこれかよ!」

「どうする?!警戒レベルを上げるか?!」

「……いや、まずは団長に報告をあげよう。俺達の勝手な判断で動くべきじゃない」

「だが……!」


 一人の衛兵が言い募ろうとするのを、他の者達が止めに入る。


「お前も見ただろ?あの不審者の姿を」

「そうだ。今は余計なことはしない方がいい」

「……確かにな」

「それにどのみち俺らの手には負えないぜ」


 あんなマントが相手じゃな。

 独り言のようにぼそりと呟いた声はそれでも全員の耳に届き、沈黙が下りた。





 ◇


斑蛙スポッツフラッグの討伐、ですか……?」


 レティーナの戸惑った声に、討伐団の団長であるメイナードはにこやかに頷いた。


「ギルドから要請があってね。また大量発生してるみたいなんだ。そろそろ一掃しないといけない時期ではあったからね」

「……そうですか」


 フレディとの別れから一週間。

 レティーナはあいかわらず討伐団員達とともに魔物の殲滅に励む日々を送っている。

 山猪マウントボアを切り刻み殺人蟻キラーアント焼き払い、最初の宣言どおり魔物をけちょんけちょんしている毎日だ。 

 もちろんその日も意気揚々と討伐に励んでいたのだが、メイナードから午後の討伐予定を聞いたレティーナは一気に憂鬱になった。


斑蛙スポッツフラッグの討伐なんて、最悪だわ……)


 森の沼地に潜む斑蛙スポッツフラッグは1㎥サイズの箱にぴったりと収まりそうな肥え太った蛙で、特徴といえば弾力のある長い舌と驚異的なジャンプ力だ。さらに繁殖力が異常に高いので、気付けばとんでもない大群になっている魔物である。

 とはいえ動作は鈍く、攻撃といえば舌で巻き取とろうとしてくるぐらいなので、討伐団からすればさほど脅威はない。


 けれどレティーナは前世の幼少期、まだ魔女になる前の話になるが、この斑蛙スポッツフラッグの舌に巻き取れ、口の中に半分入ったことがあるのだ。幸いにもレイナの父がすぐに助けてくれたが、あのネバネバした感触や鼻がもげるほどの悪臭がいまだに忘れられず、なんといっても初めて魔物に襲われた恐怖心というものを植え付けられてしまい、トラウマになってしまった。

 とはいえ低級魔物相手に怖気づいているとはとても言えない。なにせレティーナは皆の講師役でもある。

 ただただテンションを下げていると、事情を知っているカイセルにこそっと話しかけられる。


「レティ、大丈夫か?体調がよくないとでもいって先に戻ったほうがいいんじゃないか?」

「ううん平気よ。いい加減克服しなきゃとも思ってたし、ちょうどいい機会だわ」

「だけどお前、顔が死んでる。やめた方がよくないか?」

「もう、カイったら。これは死んでるんじゃなくて気合を入れてるのよ」


 なんて強がりを言っていたのだが――




「うわっ、めちゃくちゃ増えてるじゃん」

「ゲコゲコうるせーな」


 先頭に立つ騎士達が面倒そうに言い放つ。沼地に辿り着くと斑蛙スポッツフラッグが思った以上に繁殖していた。

 大量の蛙が沼地周辺に集まり、大音量でゲコゲコと喧しく鳴いている。ぬめぬめとした表皮に緑やピンクの斑模様、のそのそ動くぼてっとした体、太い舌で草を絡めとる仕草。恐怖でしかない。


「大きな蛙って気持ち悪いですね、レティ隊長。レティ隊長?どうしたんですか?」


 直属の部下であるソフィアがなにか話しかけてきたが耳に入らない。いつもと違う様子にシリルとライナーも声を掛けてくるがレティーナは固まったまま。

 すると突然一匹の斑蛙スポッツフラッグがぴょーんと大ジャンプをしてレティーナの目の前に降り立った。


「◎△$♪×¥●&%#!!」


 声にならない悲鳴を上げたレティーナは正気を失くした。目の前の斑蛙スポッツフラッグにありったけの魔力をぶち込む。


 ゲコーーッ!!


 レティーナの前から吹っ飛んでいく斑蛙スポッツフラッグは両手足を広げてバンザイのような恰好になっており、腹の白い部分が丸見えだ。それがまた気持ち悪くてレティーナを恐怖に陥れる。


(なにあのぶよぶよ!いやーーーーーー!!)


 その後はもうひたすら術を展開した。雷烈風サンダーゲイルで切り刻み、暴撃風ウィンドストームで吹っ飛ばし、灼熱砲バーニングキャノンで燃やし尽くし、とにかく無我夢中で連発した。

 そうして気づけばあれほど煩かった鳴き声はいつの間にか消え去っている。


「……ハァ……ハァ……ハァ……」


 肩で息をしているレティーナが地面に倒れ込みそうになったとき、カイセルに支えられてようやく正気に戻った。


「ご、ごめんなさい、カイ。私……!」

「いや、いい。俺が見るのは2度目だし、お前がこうなることは予想していた。でもな……」


 カイセルが気まずそうに後ろを振り向く。

 その視線につられて見ると、団員達は皆顎が外れたかのように口をあんぐりと開けていた。

 メイナードはさすがに変顔にはなっていないが、普段は冷静沈着な副団長のオズマと統括官のアンリまでもが目を点にしている。

 それもそのはず、目の前の光景に驚きすぎて声がでないのだ。


 あれほど大量発生していた斑蛙スポッツフラッグが一匹残らず消滅しているだけならまだしも、辺り一帯真っ黒焦げになっており、沼地だった場所は干からびてただの大きな穴に様変わりしている。

 斑蛙スポッツフラッグ含めこの地に生息していた魔物までも全滅させた上、地形まで変えてしまったことに誰もが愕然としていた。

 さらにいえばレティーナのキレっぷりにドン引いていたのもある。


「……沼地って、魔術で吹っ飛ばせるんだ……」


 騎士の一人がぼそりと呟くと、いち早く我に返ったシリルが返す。


「そんなこと普通できません。レティ隊長と一緒にしないでください」


 だよね、と全員頷いた。


 その後レティーナは全員に事情を説明し、トラウマだから我を忘れて術を連発してしまったこと、取り乱してしまったことを謝罪した。

 腰が引けていた団員達もレティーナの説明に納得したようだ。


「レティ隊長にも苦手な魔物がいることに逆に安心しました!だから気にしないでくださいね!」

「そうですよ!それに斑蛙スポッツフラッグの討伐はこれからは俺らに任せてください!」

「僕達だって役に立ちますから、もっと頼ってくださいね!」


 口々に慰めの言葉をかけてくれる。みんななんて優しいのか。

 レティーナが感激していると、肩にいるルルが溜め息をついた。


 ――この子達、レティの力に慣れ過ぎて麻痺してきてるのよ。可哀想に……


 なんで哀れむんだ。


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