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「今世は聖女」 なんて言われても  作者: 野原のこ
第一部 前世は魔女ですが、なにか
12/52

入団初日に新人つぶし?

 数日後、入団手続きを終えたレティーナはいつものようにカイセルと朝食を摂った後アンリと合流し、演習場に赴いた。

 黒い制服を着用し、その上に例のマントをまとっている。自分で言うのもなんだけど、なかなか似合っていると思う。ちなみに城内の移動中はフードをかぶって髪を隠すことにした。これならただの女魔術師だ。


 討伐団に入るならなおのこと、カイセルの宮から出て寮に移動したほうがと言ったレティーナを、全員が止めた。カイセルにはここにいればいいと言われ、アンリからは護衛の少ないカイセルのそばにいてほしいと頼まれ、マーサにはその必要はありませんよと聞き流されたが、一心にルルを見つめるトウリから寮の出入りは意外と目立つと言われたのが決め手となり、結局同じ部屋で生活を続けている。

 だからそのままカイセルと朝食を共にするのが日課になってしまっているし、気づけば王宮に馴染みすぎている自分が怖い。


 討伐団の詰め所に着いたレティーナはまず、団長室で副団長に挨拶することになった。筋肉質な体で頬に傷を持つ副団長は、場数を踏んだベテラン感が漂っている。


「副団長、こちらが先日お話ししたレティーナさんです。凄腕の魔術師ですよ!レティーナさん、こちらが副団長のオズマさん、討伐団一の古株です」

「オズマは強面で口数が少ないから誤解されやすいが、真面目で頼りになる男だ。まあレティは傷のひとつやふたつ、気にするタイプでもないが」

「むしろ勲章だと思っているわ。オズマ副団長、レティーナです。どうぞよろしくお願いします」


 レティーナが笑顔で挨拶をすると、オズマは少しだけ目を見開いたあと、フッと口角を上げた。


「話は聞いている。よろしく頼む」


 そう言って自分の身に着けている黒いマントを優しく撫でた。

 レティーナが付与エンチャントしたことはオズマにのみ真実を伝え、他の団員達には外注したと言って配り終えているそうだ。もれなく全員が感激したと、アンリが嬉しそうに報告してくれた。

 役職としては、副団長と統括官は横並びにしているそうだ。長年現場にいたオズマの勘は鋭く、現場主体がオズマ、カイセルの補佐官でもあるアンリがその他もろもろを統括しているらしい。

 それからも討伐団に関する説明を受けた後、レティーナは三人とともに演習場に向かった。


 演習場に入るとすでに団員達が並んで待っていたが、レティーナを見た瞬間一部から声が上がる。巨大毒蜘蛛ジャイアントタランチュラ討伐に居合わせていた者達なのか、声に弾みがあった。

 団員達に対峙する形で、オズマ、カイセル、レティーナ、アンリの順に並んだ。


「紹介します。本日付けで新しく入団したレティーナさんです」

「レティーナと申します。よろしくお願いします」

「彼女は力のある魔術師だ。お前達同様、我が団を支える柱となってくれるだろう」


 カイセルがそう続けると一部の団員達から喜びの声が上がった。「やったぜ!」とか「すげぇ!」とかそんな声だ。

 しかしあの日、オズマとともに別働隊にいた者達からは不審な目で見られる。


「おい、あの髪」

「ああ。赤い髪なんて初めてみるな」


 ヒソヒソ声が耳に届く。やはり髪色が気になるメンバーもいるようだ。

 様々な視線に気づかないふりをして、レティーナは演習場を見渡した。ここは前世、レイナが当時の騎士団と苦楽を共にした場所でもある。


 ――懐かしいわね

 ――そうね。レイナが騎士達を容赦なく吹っ飛ばしてたのを思い出すわ

 ――なんか人聞き悪いわね


 ルルと懐かしんでいると、アンリが団員の名前を呼んだ。


「シリル、ソフィア、ライナー、三人にはレティーナさんとチームを組んでもらいます」


 これは事前にアンリから頼まれていたことだ。それだけの実力があるのならせめて小チームをお願いできないかと。必死なアンリにレティーナは断ることができなかった。

 名前を呼ばれた三人が前に出てくる。

 軽い足取りでレティーナの前に進み出たのは彼の瞳と同じ藍色の鷹を連れている少年、シリルだ。

 アンリからもらった事前情報によれば、シリルは13歳でありながらすでに魔術学園を飛び級しており、実力は十分とのこと。


「レティーナさん、僕はシリルです!よろしくお願いします!この子は使い魔のエティティです!」

「よろしくね、シリル。私のことはレティでいいわ。この子はルルよ。エティティっていうと、旧世紀神話に出てくる、勝利を導いた鷹の名前ね」

「うわぁ!エティティの由来をご存じなのですね!さすがです、レティさん!同じチームになれて光栄です!」


 シリルが手を差し伸べるので笑顔で握手を交わした。前回の討伐時に居合わせているのでかなり好意的だ。

 数少ない女性団員のソフィアは、明るい茶髪を後頭部でひとつに結んだ活発そうな女性で、カイセルと同じ20歳。あの日は糸に宙釣りにされた上に子蜘蛛の毒にやられて、意識が朦朧としており記憶が曖昧だとか。


「ソフィアです。よろしくお願いします、レティーナさん」

「レティでいいですよ。こちらこそよろしくお願いしますね」


 ソフィアはレティーナを興味深そうに見ながらも、なぜかカイセルにもちらちらと視線を向けている。この意味は計りかねるけれど、口元が緩んでいるので友好的ではありそうだ。

 そして最後の一人、吊り上がり気味の目をした23歳のライナーは不貞腐れた顔をしている。それなりの実力があるため我が強いらしく、あの日はオズマとともに別動隊にいた。

 三人を前にざっと力量を計る。


(シリルはオールマイティ型ね。この年でこれだけの力があるなんて素晴らしいわ。ソフィアは後方で補助タイプ、悪くないわね。ライナーは戦闘型ごり押し系。もう少し繊細さが身に着くとよさそうだわ)


 そんなことを考えているとライナーがアンリに抗議し出した。


「アンリ統括官!なんで俺がこいつらとチームを組まなくちゃいけないんですか?!俺は嫌です!」

「あなたに拒否する権限はありませんよ、ライナー」

「ですがこの女、今日入ったばかりの新人じゃないですか!なんで俺が面倒みなきゃいけないんです?!せめて使えるようになってからにしてください!」


 ライナーの言葉に団員達もざわめき出した。


「新人といきなりチーム組めって言われてもな」

「ライナーの言うことはもっともだぜ。俺だってごめんだ」

「足引っ張られて危険に晒されるのが目に見えるな」


 そんな会話がレティーナの耳にも届いた。

 わからなくはない。チームを組むということは単体行動もありえるので、失敗したときのリスクも高い。

 逆に巨大毒蜘蛛ジャイアントタランチュラ討伐に参戦していたメンバー達が反論した。


「足を引っ張るのはライナーの方だっつうの!」

「嫌なら俺が変わってやるわ」

「そのとおりだぜ!統括官!ライナーの代わりに俺が立候補します!」

「なにバカなこと言ってんだ!新人なんかと組んで死にたいのか?!」

「お前ら女と組みたいだけだろ!」


 互いの声も次第に大きくなっていく。一部から強い賛同を得られたライナーは今度はオズマに向けて声を張り上げた。


「副団長!さすがにこれはあり得ません!現場が混乱するだけです!」

「アンリが決めたことに口を出すつもりはない」


 オズマににべもなく言われ、ライナーは唇を噛みつつアンリを睨む。


「統括官!俺がチーム隊長になるならメンバーは俺に選ばせてください!いくらなんでも新人はごめんです!」


 するとシリルがおずおずと口を開いた。


「あのぉ、うちのチーム隊長ってレティさんですよね?」


 その言葉にライナーがはぁっ?!とキレた。


「なに言ってやがる!なんで新人がいきなりチーム隊長やるんだ!俺がなるに決まってんだろ!」

「ええ?!ライナーさんが隊長なんですか?それなら僕もチームを組むのはちょっと……」

「どういう意味だ!」

「だってライナーさんってすぐそうやってカッカするし、冷静な判断ができるとは思えないです」


 10歳も年下のシリルに言われて、ライナーはワナワナしながらレティーナを指さした。


「ならお前はこの新人が隊長になってもいいっていうのか?!」

「もちろんですよ。当然じゃないですか」

「ふざけるなシリル!新人が隊長なんて、どう考えてもおかしいだろ?!」

「別におかしくないです。レティさんは強いですし」

「お前バカか?!俺の方が強いに決まってるだろ!」

「その自信はどこからくるんですか?やってみなければわかりませんよ。ね?レティさん」

「はっ!俺とやろうってのか?!バカバカしい」

「逃げるんですか?じゃあレティさんがチーム隊長ってことでお願いしますね」

「アホかっ!そんなに言うならやってやるよ!おい、新人!相手してやるからこい!」


 黙っている間になぜかレティーナVSライナー対決が出来上がっていた。

 シリルはわくわくした目でレティーナを見てくる。絶対確信犯。ライナーちょろいって顔に書いてある。


(でもそうなのよね。ライナーみたいなタイプって最初が肝心なのよね)


 実力差を見せつけて大人しくさせないと、チームワークを乱しかねない。だから鼻をへし折る。レイナ時代、この演習場で何度もやってきた。

 カイセルに目を向けると、彼は面白そうに口角を上げていた。だから返事はわかっているけど、一応確認する。


「カイ、いいのね?」

「ああ、いいぞ。ただしやりすぎるなよ?」

「もちろんよ」

「ライナー、レティはやる気だが、お前もいいんだな?」

「当たり前です、カイセル殿下!生意気な新人を潰してやります!」

「それなら本気を出せ。手加減はなしだ」

「わかりました!任せてください!」


 ライナーの中ではカイセルの同意を得て、新人レティーナつぶしをする話になっている。カイセルがそんなことさせるはずがないと少し考えればわかるだろうに。


「それなら二人とも、マントを脱いでください。それを着ていたら防御がまったく必要ありませんから」


 意外にシビアなアンリに言われ、レティーナは肩にいるルルに話しかける。


「ルル、離れてて」

「ニャーン(いつもいつもこんなんばっかりね)」


 そんな言葉を残して、ルルはぴょーんとカイセルの肩に飛び乗った。


「殿下の肩にかわいい子猫がいる!」

「なぜか妙に馴染んでる!」

「俺の肩にも乗ってほしい!」


 ざわざわしているがカイセルはスルーして、ルルの頭をよしよしした。

 レティーナとライナーが脱いだマントをソフィアに預けると、アンリが声を張り上げた。


「では今から模擬戦を始めます!全員壁際によってください!」


 ざざざっと周囲に人がいなくなり、真ん中にレティーナとライナーふたりだけが残される。


「いいぞライナー!やってやれ!」

「新人にでかい顔させんな!」


 団員達も盛り上がりを見せている。ヤジも飛んでくるが、討伐団なんて荒い連中だからこんなものだ。


「はじめ!」


 号令がかけられたがライナーは両腕を胸の前に組んでふんぞり返り、薄ら笑いを浮かべている。典型的な傲慢ぶりだ。


「おい新人。どっからでもかかってきな」

「そう?なら遠慮なく」


 ライナーとの距離を一瞬にして縮めたレティーナは、その勢いのまま回転し顔面目掛けて蹴りをぶち込む。ライナーが自分に防御をかけていたところでレティーナには関係ない。


 ボカッ!!


 凄まじい回し蹴りをくらったライナーは壁に向かって吹っ飛んでいった。



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