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エピローグ
――ダブラーは、宝飾職人の店の前でふと足を止めました。ショーケースの中では、金や銀の指輪が静かに光をたたえています。安い銅の指輪に目が留まった時、なぜだか胸の奥がちくりとしました。
「どうしたのですか? ダブラー様」
クォークが不思議そうに声をかけます。
「指輪って……どうしてだろうな。見るたびに少しだけ切なくなる」
そう言ったあと、自分でもなぜそう思ったのか分からず、ダブラーは眉をひそめました。けれども、それは忘れてしまった夢のような、誰かのぬくもりのような……。胸の奥にだけ、何かが残っている気がしました。
「やめてくださいよ。ダブラー様らしくないです」
そう言ってクォークはくるりと踵を返します。
「おい、待てって。急ぐなよ」
ダブラーは肩をすくめ、クォークの後ろ姿を追って歩き出しました。何も変わらないイストリバの日常。でも、確かに何かが――もう戻らない何かが――ダブラーの中で、静かに息づいていました。




