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【第14章】世界でたった一つの
――アルダスは、宝飾職人の店先に立ち尽くしていました。ショーケースの向こうに並ぶ指輪は、どれも目がくらむほどの輝きを放っています。その値札は、自分の持ち金とは桁が違っていました。
──届かない。この手では、決して。
アルダスは、懐の中にある小さな革袋をそっと握ります。けれども、そこにはミレイユとエリックの食い扶持しか入っていませんでした。これから先、アルダスが守るべきは未来であって、贈り物ではありません。
それでも、アルダスは目が離せませんでした。
ガラス越しの金の輪に、想いのかけらを映し出すように。
やがてアルダスは、掌を見つめました。何もない、すっからかんの自分の手を。
「……せめて、この手で、指輪が作れたなら」
けれども、錬金術の知恵をもってしても、その術は思い浮かびませんでした。
風がひとすじ吹き抜けます。その冷たさが、アルダスの胸の奥に、じんと染みました。
『アルダスとダブラー:二人の錬金術師』第12章より




