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【第9章】祝福の香
――イストリバの王宮では、選ばれし二人の錬金術師、アルダスとダブラーが「祝福の香」を納める日を迎えていました。
まず焚かれたのは、ダブラーの香。
蜜を溶かしたような甘さと、熟成された樽の深みが混ざり合った匂い──
まるで古の誓いを思い起こさせるような、温かくも神聖な匂いでした。
「……これは素晴らしい」
王も従者たちも、静かに目を閉じ、うっとりと香に身を委ねます。
その香の礎にクォークの工夫があったことを、知る者はいませんでした。
続いて焚かれたのは、アルダスの香です。
けれども、材料の一部を再現できず、煙はどこか尖り、香りも淡く、王女の記憶とは遠いものでした。
「……ダブラーよ。そなたを我が国の御用達としよう」
国王の言葉に、静まり返っていた空気が揺れました。
ダブラーは隣のクォークに目をやり、がしっと肩を抱き寄せます。
「やったな、俺たち!」
歓喜の中、アルダスはひとり、香から立ちのぼる白煙を見つめていました。
『アルダスとダブラー:二人の錬金術師』第9章より




