第8章第4節
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湊はアルダスの店の扉をゆっくりと開ける。慣れているはずなのに、いつもより重く感じた。カウンターの中にはアルダスとミレイユがいて、湊が入ってくるなり驚いた顔をした。そして、その後ろにダブラーがいるのに気づいて嫌そうな顔をする。
「あぁ、クォーク。もう大丈夫なのか?」
「はい。ご心配をおかけして申し訳ございません」
気まずい沈黙が流れる。それを切り裂くようにダブラーのぬめりのあるドスの効いた声が店中に響いた。
「クォークは俺が貰っていくぜ。おめぇさんたちは二人で仲良くやっていけばいいだろう」
余計なことを……と湊はダブラーを睨む。アルダスは俯きながら聞いていたが、顔を上げると
「それは困る……」
と言った。湊はハッとしてアルダスに目を向ける。
「クォークがいなくなって、初めて自分の無力さを思い知ったよ。客が言うのだ。クォークの作った薬が欲しいってね」
ああ、誰かには届いていたんだ。苦労が報われて、湊は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「クォーク。私は意固地になっていたようだ。これからは調合を手伝って欲しい。だから、私の店にいてくれないか?」
湊の目から涙があふれてくる。断る理由などない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
といつもの癖で深々と頭を下げていた。
「あーあ、つまんねぇな」
ダブラーが面白くなさそうな声を上げる。グイッと湊を自分の方に向かせると
「だが、診療代は返してもらうぜ」
と舐めるような目つきで睨みつけた。湊の背筋に冷たいものが走る。
「でも、お金は……」
湊にそんな余裕はない。もちろん、アルダスもミレイユにも無かった。
「何も金で払えって言ってるんじゃねぇよ」




