第8章第1節
-1-
「……ったく、冗談じゃねぇや。誰のおかげだと思ってるんだよ」
ダブラーは自分のことのように怒っている。湊は苦笑しながら聞き流すしかなかった。
冥醒香を作って女性の父親を助けてから、アルダスの評判はますます高まり、今やダブラーと肩を並べるほどになっていた。店は連日のように賑わい、注文が殺到している。その中には冥醒香の注文も含まれていた。
今日も湊は冥醒香の材料であるカグラシダを採取するため、森の中にいた。示し合わせたわけでもないのに、なぜかダブラーもいる。こうして二人でいると、湊は自分が物語の中のクォークを演じているように思えた。
「ダブラー様も弟子を雇えば良いではないですか」
「俺はおまえのような優秀な奴が欲しいんだよ」
ダブラーは何でも一人でこなせる人だ。そこら辺にいる駆け出しの見習いでは満足しないだろう。だからと言って、湊にばかり執着されても困るのだが。
獣の唸り声が聞こえて、ダブラーは爆弾を取り出す。すかさず湊が導火線に火をつけた。爆弾を背後に放り投げると、すぐに爆発音が響いて唸り声は聞こえなくなる。
「やっぱり、俺はおまえがいいな」
そう言って、ダブラーは湊の肩を馴れ馴れしく抱くのだった。




