二人の雛祭り
父が死んだ。葬式で数年ぶりに会った双子の兄は、まるで時が止まっているかのような若々しい姿をしていた。
昔から、初めて会った人に「そちらは弟さんですか」と間違えられるような、良く言えば優しい、悪く言えば気弱な兄だった。兄妹で似ているのは背格好だけ。我の強い私とは正反対で、小さい頃からずっと反りが合わなかった。
だから、両親が離婚するときも、私は兄を父の元に残し、母の方へ迷わずついて行った。
父は保守的な人だった。妻は家庭で夫を支えるもの、長男は家業を継ぐもの、男は強くたくましく、女は淑やかに慎ましく。
そんな父に、兄は嫌々従っていたのだと思う。ただ、それ以上に環境の変化を恐れてもいた。そして、母や私から煙たがられていた父を一人にしてはおけないという優しさ――それは私から言わせれば甘さだけれど――もあったはずだ。
兄の性格を知っていた母は、そして私も、父の世話を兄に押しつけて逃げた。その事実は否定できない。たとえそれが私と母にとって最善の道であったとしても。
十年間。小さな棘は私の心に引っかかり続けていた。かすかな痛みは、たまに兄と連絡を取り合うことで和らぎ、同時に掘り返させられた。
「一緒に住もう。二人暮らし」
私からの提案だった。きっと兄は断らない。断れないと知っていた。兄からの勿体ぶった返事は、私の予想どおりだった。兄を父の元へ残していった時と変わらない、私は今もずるい女だった。
兄と離れている間、ずっと考えていた。私は兄と反りが合わなかったのではない。私が一方的に兄を嫌っていたのだ。
嫉妬していたのだ。私が望んでも手に入らない、男という立場に。
私たちを縛りつけていた呪いは、もう流れ去った。
部屋を訪れた兄を、私は右前のスーツ姿で出迎える。
「私のお下がりで悪いけど」
されるがままの兄にドレスを着せる。震える手を落ち着かせながら、メイクを施す。人生初とは思えない化粧のりの良さ。こうして見ると、やっぱり双子なのだなと腑に落ちる。頬が緩んだ私の顔は、あれほど疎ましく感じていた兄そっくりだった。
まだ少しぎこちない自撮り写真の中で、私たちの時が動き出した。日付は三月三日。兄妹二人の、二人での誕生日だ。