09.ダンジョンの発見
ザール村の依頼を終え、俺たちのパーティーはリンデルの冒険者ギルドへ顛末を報告しに向かった。
受付のお姉さんは「前大戦の遺物でしたか…これから気をつけます」と、少し驚いた顔で言っていた。
母さんだけが別件でギルドマスターの呼び出しがあると言われ、俺たちは先に帰るよう言い残してギルドの奥へ消えた。
帰宅後、俺はルピナ用に肉メインの特製ペットフードを用意した。少し長旅だったご褒美だ。
ルピナは口を汚しながら勢いよく食べていた。
ほどなくして、珍しく母さんとフラム師匠が一緒に帰ってきた。
「母さん、フラム師匠と帰ってきたんだ」
母さんとフラム師匠がお互い難しい顔をしている。また喧嘩でもしたのか?
「…リンデルの近くでダンジョンが見つかった」
「もっと正確に言わんか! リンデルの近くで小規模なダンジョンが突如生まれたんじゃ」
母さんは続けた。
「ダンジョンの発見者が冒険者でなかった」
あー。それでか。
この大陸の決まりでは、ダンジョンは「最初の発見者がどこの所属か」で管理先が変わる。
冒険者が発見すれば冒険者ギルドが、住民が発見すればその地域の行政、規模が大きければ国が管理する。
ダンジョンは規模が大きいほど、そこから得られる価値のあるものが増える。
自然発生する宝箱、倒した魔物の素材、鉱物資源…莫大な富を生む場所だ。
その反面、その地域の住民にとっては、魔物が外に出るなどの脅威をともなう。
だからこそ、ダンジョンをきちんと管理できる者が必要になる。問題は誰が担うかだ。
当然、国も冒険者ギルドも管理したい。そのせいでしばしば争いが起きる。
そこでこの大陸では、先にダンジョンを発見した者の所属に管理権が与えられる。
今回のリンデル近郊のダンジョンは住民の発見なので、管理はリンデルの行政が担当する。
「儂は頭が痛いぞ。リンデルに対応する余裕はない」
俺は疑問を口にした。
「リンデルで対応できない? それほど規模が大きいの?」
フラム師匠は少し慌てて否定した。
「正直に言えばリンデルでも対応できる。ただ、面倒が増えるし、それ以外の要件に力を割きたいからな」
なるほど。そういうことか。それにしてもフラム師匠はリンデルの行政に詳しいな。なんでだろう?
「儂はリンデルで領主の代官補佐をしておるからな。そういった事情には詳しくなるのだ」
「えっ!代官の補佐をしているの?それってかなりすごいことじゃ…」
母さんがくすくす笑いながら言う。
「この人は代官を脅してリンデルに君臨している」
「ば、馬鹿なことを言うではない!儂は代官を手伝っておるだけじゃ!」
おおー。母さんの冗談は久しぶりに聞いたな。
「そんなことよりだ。ひとまずダンジョンの制圧をせねばならん。儂はそれを冒険者ギルドに依頼したのだ」
フラム師匠の話を整理すると──
今回のダンジョンは近隣住民が発見し、管理者はリンデルとなった。
しかしリンデルには調査・制圧できる人材が不足している。
そこで冒険者ギルドに調査と制圧を丸投げした、というわけだ。
「ダンジョンはリンデルの物じゃないの?」
ミーナが疑問を口にする。
「表向きの管理者はリンデルになる。だが管理を委託するのは冒険者ギルドじゃ」
直接管理しないぶんリンデルの収入は減るが、冒険者ギルドが管理代理を請け負うことで手数料を得られる。
リンデルは人手を割かずに済む、冒険者ギルドは収入を得る。双方にメリットがある取り決めだ。
「それで母さんに調査を依頼すると?」
「そういうことだ。ミレーネに頼めば格安で請け負ってくれるからな、ワッハッハ!」
「値切られた…」
フラム師匠は嬉しそうに笑い、母さんは悔しそうな顔をする。
「そう言うな、地元に貢献できるではないか。それにダンジョンに行くのも久しぶりであろう?」
母さんはダンジョンに複雑な思いがあるようだ。だが俺とミーナは何度も連れて行かれたし、新しいダンジョンは純粋にワクワクする。
「今回は儂も行くぞ。値切った分、儂も働かねばならん」
そういうフラム師匠は、俺たちとダンジョン探検できるのが楽しみらしい。
「準備は今日中に行い、明日出発するぞ。何、リンデルからは近所だ。移動にはそれほど掛からん」
俺は新しいダンジョンを心待ちにしながら、準備を手伝うのだった。