46. 学校へいこう
体調不良で投稿が遅れました。皆様、熱中症にはお気をつけください。
王女様の陰謀とフラム師匠の悪だくみを聞き終え、俺たちは宿屋の一室で王都での出来事を改めて話し合っていた。
俺は王宮がいかに豪華で広かったか、そして記念祭の式典がグラッツェル村のものとは比較にならないほど大規模だったことを興奮気味に語った。
ミーナは王都の書店には見たこともない魔導書がたくさんあってとても気に入ったこと、そして何より、慰霊奉武祭の模擬戦で王宮魔導士相手に全勝できたことを頬を上気させながら自慢げに話していた。
母さんはといえば、王宮の食事がどれほど美味しかったか、特にシルヴァドラゴンのステーキの味について目を輝かせながら無邪気に語っている。
母さんは王女様と真剣で斬り合ったことについては都合よく忘れたのか、隠しているようだったが──。
「ミレーネよ。王女殿下と模擬戦を行ったことの報告がまだ儂の耳には入っておらんようだがのう…」
フラム師匠がお茶をすすり、髭を撫でながら静かにそう言うと、母さんは「うっ」という顔をしてバツが悪そうにそっぽを向いた。
フラム師匠はドラン様と常に連絡を取り合っていたようだし、バレていない方がおかしいだろう。
そんな王都での報告会が一息ついたところで、フラム師匠はふと真剣な面持ちで話題を変えてきた。
「ノア、ミーナ。突然ではあるが、お前たちにはこれから学校|へ通ってもらおうと思う。グラッツェルへ帰ったらさっそく通ってくれ」
「「学校?」」
俺とミーナの声が重なった。
学校という言葉は知っている。だがそれは俺たちの生活とはあまりにも縁遠いものだった。一体どんなところなのだろうか?
「学校というものはな…」
フラム師匠は、俺たちの困惑した表情を見てゆっくりと説明を始めた。
なんでも、これはフラム師匠がスアルツァーラ州の統治代行として長年準備してきた一大事業であり、目玉政策なのだそうだ。
その場所はリンデルから西にある場所で、俺たちの村からは北にある、海の側に用意したという。
スアルツァーラ州の、特にまだ教育の機会が少ない地域の16歳未満の子供たちを集め、文字の読み書きや計算、歴史といった基礎教養から、いざという時のための護身術、生活に役立つ魔法の基礎までを教えるという、費用が無料の教育施設だという。
俺たちに関わることだと聞いたからか、それまで退屈そうにしていた母さんがむくりと起き上がってフラム師匠の方を向いた
「…ノアたちに学校なんて必要なの?」
「む?」
「そんなもの一体何になるの?強さは本を読んだり、座って学んだりするものではないし。厳しい鍛錬を乗り越える経験こそが最高の教育だと思うけど」
強さが何より大事な母さんは、この学校での学びを「無意味なもの」だと一蹴する。
それに対し、フラム師匠はやれやれと肩をすくめ静かに反論した。
「ノアやミーナには学校での学びは必須の学びとなる。貴族として生きていくつもりなら尚更だろう。お前はこの国の歴史や地理、主な産業についてこの子たちにきちんと教えられるのか?」
「…できる」
「そうか? 確かお前さんに読み書きを教えたのは、この儂だったと思うが?」
「…できません」
母さんは簡単に白旗を上げた。
「それに、教える大人も一流どころを揃えた。魔法を教える教師は、この国の王宮魔導士と比べても何ら引けは取らぬぞ。それに何より同じ年頃の友人もできようぞ」
母さんのやる気のない反応とは対照的に、ミーナの目はキラキラと輝き始めていた。「王宮魔導士と同じくらいの先生」という言葉が妹の心に強く響いたのだろう。
ミーナは俺の袖をくいっと引き、「にーに、行きたい!」と目で必死に訴えかけてくる。
俺は少し考える。
学校か。母さんのいつ死ぬか分からないような無茶な訓練から、一時的にでも解放されるのは正直ありがたい。
でも他の子供たちと上手くやっていけるだろうか…?
それに、今回の王都での一件で俺は思い知らされた。家族の中で一番弱いのは、間違いなく俺だ。
母さんの訓練は確かにつらいし、いつ死んでもおかしくない気がする。
だがこのままでいいとも到底思えない。
学校になど行かず、今まで通り母さんの厳しい訓練を受けることこそが、いつかミーナを守る上で本当に必要なことなのではないだろうか。
妹の期待に満ちた顔と、自分の実力への不安との間で、俺の心は激しく揺れ動いていた。
俺が思い悩んでいると、フラム師匠が俺の心を見透かしたように優しく問いかけてくる。
「この学校は儂が長年温めてきた、この州の未来のための礎だ。金も労力も相当つぎ込んでおる。そしてその最初の生徒として、領主スアルツァーラ侯の子であるお前たちが通うことには、大きな意味があるのだ。お前たちが手本となることで、他の親たちも安心して子供を学校に預けられるようになる」
真剣なフラム師匠の眼差しと、隣で目を輝かせているミーナの顔を見て、俺は決心した。
…師匠が、俺たちや自分たちの土地の未来のためにここまでしてくれているんだ。
それに、俺がミーナのこの期待を裏切るわけにはいかない。
「分かった。俺たち、学校に行くよ」
俺ははっきりとそう返事をした。
その言葉にフラム師匠は心の底から安堵したような笑みを浮かべ、ミーナは飛び上がらんばかりに喜ぶ。
そして、母さんだけがどこか不満そうな顔をしている。
「おお、よく決断してくれた! 儂は嬉しいぞ!」
「…でも、わたしの修行にも、ちゃんと付き合ってもらうからね」
母さんが釘を刺すように言った。
「うむ。学校の授業に影響がない範囲で、そして常識的な範囲でなら良いのではないか」
その言葉を聞いて、ミーナがガクッとうなだれた。
「儂はしばらく王都から戻れんからな。学校の様子は手紙で随時教えてくれ。あと改善点といった意見もあれば、ぜひ聞かせてほしい」
フラム師匠は本当に嬉しそうに言葉を続けた。
「なにせ、この政策には儂の溜め込んだ金も、州の予算もぎりぎりまで、それはもうとんでもなく金がかかっておるからのう!ぜひともノアとミーナには行ってもらわんと割に合わんわ!」
ワッハッハ、と師匠は豪快に笑っているが…。
フラム師匠、俺たちのために権力を使いすぎてやしませんか?
俺は不安を覚えながらも、これから始まる新しい生活に少しだけ胸を躍らせるのだった。
王都編、これにて終了です。
次からは故郷グラッツェルでの学校編が始まります。
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