表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/50

27.慰霊奉武祭の開幕

「じゃあノア、急いで準備して」


母さんが急かしてくる。

俺だけが部屋着のまま王女様の対応をしていたので準備ができていなかった。

俺は急いでいつもの冒険者の防具を着る。使い慣れた衣装の上から革製の簡単な鎧を着る。

この防具も俺が成長してきたから若干着るのがキツくなってきた。そろそろ新調かな。

最後にマントを着たら完成だ。


俺と母さんの防具は、見た目こそ軽装だが、動きやすさを追求しつつ、黒穂族特有の持久力を活かせるよう工夫された特注品だ。

俺の装備しているものと違って母さんのは超高級防具だ。その辺の冒険者が装備しているような代物とは訳が違う。

俺の防具もそこそこの物を母さんが用意してくれたが、成長に従って買い換えなければならないため、そこそこのものを用意してもらっている。お金ももったいないしね。


ミーナは黒いローブだ。ミーナのローブは結構いいものを使っている。ローブであれば多少は裾の長さを変えれば長く着れるからだ。

でもそのローブはミーナの黒の髪に合いすぎて、全体的に地味な印象になっている。

今度ミーナに合うローブを兄ちゃんが探してあげよう。


「じゃあノア、ミーナ。行こう」

母さんは鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌で、案内してくれるメイドさんの後ろを軽い足取りでついていく。今日の戦いがよほど楽しみなのだろう。


案内された先は、王城の広大な訓練場だった。

一万の兵士が一度に模擬戦を行えそうなほど、途方もなく広大だ。

訓練場の外は観客席だろう。中央には豪華な衣装を着た人々がいるので、あそこが王族や貴族の席なのだろう。

他の席には王城の外で見かけた人々がチラチラいる。商人といった非戦闘の人たちだろう。


訓練場は魔法の線で区切られ、淡い光を放っている。

そして何より目を引くのが、訓練場の中央に鎮座する巨大な聖火台だ。まだ火は灯されていないが、フラム師匠の話によれば、儀式が始まり熱い戦いが繰り広げられると、その魂の輝きに共鳴して炎が色や形を変えるのだという。

実際に目にするのは初めてなので、少し緊張する。


聖火台の周りにはすでに参加者が並んでいる。俺たち家族は騎士の人に連れられて指定の場所まで向かった。俺たち家族はなぜか最前列に並ぶことになった。

後ろからはヒソヒソ声が聞こえてくる。


「…なあ、あの子供たちも参加するのか?」「まさか、俺の子供と同じくらいの歳だぞ」「馬鹿言うな、英雄ミレーネ様の子供たちだぞ、普通の子供とは違うのさ」


なんて言葉が聞こえてくる。

…やめてくれ!母さんがすごいだけで俺たちはそんなに強いわけじゃないんだ!

確かに普通の子供よりは経験はあるし、ダンジョンに潜ったことはあるし、死にかけたことも割とあるし…あれ?これは普通の子供ではないな。


自分の存在に疑問を持っていたら、いつの間にか開催の準備ができていたのだろう。

騎士、冒険者代表と思われる男と巫女たちが聖火台の前で静かに膝を折っている。


会場全体に響き渡るような透き通る王女様の声が紡がれる。


「皆の者、この聖なる場へよくぞ参集した。本日ここに執り行う『慰霊奉武祭(いれいほうぶさい)』は、先の大戦にて、我らが王国と民草を護り散った英雄たちの魂を鎮め、その比類なき武勇を永遠(とわ)に語り継ぐための神聖なる儀式である。


今、この場に集いし勇士たちよ!汝らが磨き上げた技、鍛え上げた魂の輝きを、天上の英霊たちへと捧げよ!


その一太刀、一撃が、彼らの魂に安らぎをもたらし、我らがセレストリア王国の永劫の平和を祈る、力強き祈りとならんことを!これより、慰霊奉武祭(いれいほうぶさい)の開会を宣言する!」


王女様の厳かな宣言が終わると、純白の衣をまとった巫女たちが、聖火台へと静かに火を灯した。立ち昇った炎はどこか青白く、まるで魂そのものの色を見ているようで、俺は思わず息を呑んだ。


続いて、参加者を代表して、騎士団長らしき壮年の騎士と、歴戦の風格を漂わせる冒険者が聖火台に進み出て、英霊たちへの誓いの言葉を朗々と述べ始めた。


「聖なる焔の御前に、そして天上の英霊たちの御霊に、本日この場に集いし全ての参加者を代表し、謹んで誓いの言葉を申し上げる。


先の大戦にて、その尊き命を捧げ、我らが王国と民草を護り抜かれた英雄たちの武勇は、今なお我らの胸に深く刻まれ、揺るぎなき指標(みちしるべ)として輝き続けている。


我らはその大いなる犠牲への感謝と敬意を胸に、鍛え上げし技と、曇りなき魂をもってこの『慰霊奉武祭』に臨む。我らが振るう剣、放つ魔法の一条が、英雄たちの御霊への手向けとなり、王国の未来永劫の平和を願う、力強き祈りとなることを信じて。


御霊よ、安らかにあれ。そして、我らの戦いを見守りたまえ!」


力強い宣誓が終わると、それまで静かに揺らめいていた聖火台の炎が、まるで英霊たちの魂が応えたかのように、ひときわ勢いを増しより一層力強い光を放ち始めた。

その神々しいまでの光と、代表たちの誓いの言葉の重みが、俺の胸の奥深くまで染み入ってくるようだった。


(…もしかしたら父さんも見ててくれるのかな。父さんに恥ずかしくない戦いを見せないとな)


ノアがそんなことを考えていると、聖火台の炎が少し揺れた気がした。


その後は中央の一番広いエリアでは、冒険者たちの勝ち抜き戦が行われることになった。

一番数の多い参加者のため、そのように一人ずつ対戦し強者を競うということらしい。


俺たち家族は特別枠ということで、訓練場の端に移動した。割り当てられた範囲は広い。

これなら俺の足技を生かした戦いができるかもしれない。


観覧席にいる王女様の姿も、ここからなら斜め方向によく見える。それほど離れてはいないようだ。

真後ろの観客は騎士が多い。やはり騎士にとって母さんの強さを知りたいのだろう。


「ノア、手に馴染みそうな木刀を選んで」

「母さんはもう選んだんだね」

「うん。これが一番紅狼剣の重さに近そうだったから」


今回は自分の真剣や得物は使わない。万が一死者が出ても困るからね。

王城で用意された武器を選んで使用するのだ。


武器は魔法で強化されているようで、ちょっとやそっとじゃ壊れない代物となっている。

俺はいくつか木刀を見比べ、以前王都で母さんに買ってもらった短刀の重さに近そうなものと、愛用の黒曜刀に近い感覚の一本を選んで腰に差した。


「うん、これでいいだろう」


母さんは紅狼剣と模擬刀の二本を指しているが、母さんが相手に間違えて紅狼剣で斬っちゃった、なんてことは起こらないだろう。多分…。


ミーナはまだ模擬戦用の杖を決めかねているようで、「むむむ……」と唸りながら、並べられた何本もの杖と真剣に睨めっこを続けている。


魔術師の杖は自分の魔力の引き出し量と魔力伝導率でその良さの大半が決まる。

この前王都で購入したようないい杖なんて模擬戦会場には置いていないのだろう。

するとミーナが杖を二本取り出して俺の目の前に持ってきた。


「にーに。どっちがいい?」


俺は内心困惑する。正直、俺に杖の良し悪しなど分かりっこない。

せめて母さんに意見を求めるべきだろうに、それを分かっているはずのミーナが俺に尋ねてくるということは何か別の意図があるに違いないと感じた。


「ミーナはどっちがいいと思うんだい?」

「こっち」と右側で握っている杖を指した。

「右の方が性能が高い。でも左の方がより精霊の匂いを感じる」


妹には時折、そういった理屈ではない鋭い直感が働くことがある。こういう場合に論理的な正解などないのかもしれない。

母さんなら強い方を選びなさい、で終わるだろうし。


「今回は英霊様が見ているということだし、精霊の匂いを感じるという杖にしないか?ダンジョンの中のように危険が迫っているわけじゃないんだ。精霊もお祭りを楽しんでくれるかもしれない」


ミーナは顔を赤らめ、「うん、にーにならそう言ってくれると思った」と言った。ミーナ自身も精霊の匂いを感じる杖を使いたかったようだが、最後の踏ん切りがつかなかったみたいだ。


さて、中央ではすでに模擬戦が始まっていることだし、そろそろお相手が来てもおかしくはなさそうだ。


母さんは先ほど選んだ木刀を手に取り、軽く素振りを始めた。いつもの準備運動なのだろうが、その動きには既に闘気が満ちているように見える。


「さあ、最初はだれだろう?」

「母さん、言っておくけど紅狼剣は使っちゃダメだからね」


俺は母さんの暴走を少しでも食い止めるべく、一応釘を刺しておくことにした。

母さんは「ノアは心配性なんだから」と口を尖らせたが、いやいや、母さんがいつもやり過ぎるから、これくらい言っておかないと不安なんだよ!と、俺は心の中で力強く反論するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ