02.いつもの光景
「どうしてお前はいつもいつもいつもいい加減なんだ!!!!」
ドン!!
ガバリと跳ね起きると、気づけばいつもの家のベッドに戻っていた。
――無事に帰ってこられたのか。
背中に残る雪山の寒さが体にゾクゾクとよみがえってくる。
シーツの間に逃げ込むように、布団を抱きしめる。
その声で目を覚ました時、俺は家のベッドにいた。
全身の力が抜けて、しばらくベッドの上でポカンと固まる。
背中に残る雪山の凍える寒さが、呼吸のたびにゾクゾクとよみがえってくる。
慌てて布団を抱き締める。
「すー…」
薄暗い部屋の隅、ミーナがくしゅっと丸まって眠っている。
寝癖まじりの長い黒髪が揺れて、子供らしい無邪気さを感じさせる。
−良かった、生きていてくれて。
ほっと胸をなでおろす。
隣の部屋では母さんとフラム師匠が喧嘩をしている。
また言い合っているな。とは言ってもいつものようにフラム師匠が一方的に母さんを叱っているだけだが。
俺はベッドの上で体を確認する。
手足の感覚は完全に戻っていた。多分母さんが回復魔法を使ってくれたんだろう。
「んー」
手足を伸ばす。
…うん、体にも異常はないようだ。
俺は布団からそっと抜け出て、隣の部屋の母さん達のところへ向かう。
「おはよー」
「そもそもワシがいない時に強行しよって!!しかも雪山に置いていくとは――」
そこでフラム師匠が俺が起きたことに気付いた。
ぴたりと止まる怒鳴り声。母さんの子猫目線が見えた。
「ノア!よくぞ起きてきた!体の異変はないか?」
一転、師匠は駆け寄ってきて抱きつく。
その腕にふわりと巻き込まれ俺は思わず笑ってしまった。
「フラム師匠、静かに。ミーナが起きちゃう」
俺はミーナが起きないように小さな声で喋ってくれるようにお願いする。
それと体に異常がないことを師匠に伝える。
「体に異常はないよ。ミーナも多分大丈夫だと思う」
ミーナも無事そうだと伝えるとフラム師匠は心底安心したような笑顔になる。
「そうか、よかった…」
その言葉以上に伝わる安心感に、俺は自然と背筋が伸びる。
そんな平和な光景をぶち壊す一言が母さんのほうから聞こえてきた。
「2人が無事だったらいい」
ぽつりと呟くように言い放つ母さん。
その一言を聞いた師匠の顔が真っ赤に染まるのはお約束だ。
「お前は!!無事だったらいいで済む話か!!もう少しで死んでいてもおかしくはない状況だったんだ!!」
フラム師匠の叱責は、俺たちへの愛情の裏返し。――母さんがどれだけ無茶をしたかを知っているからこその声だ。
「えー…」
このやり取りはいつもの光景だ。母さんが無茶をし、俺たちが危険な目に会い、フラム師匠が母さんを叱る。
俺には日常が感じられる、安心を感じる光景だ。
「わしが2人を連れ帰り、聖命水を使わなければどうなっていたか・・・」
聖命水!? あの伝説の存在と言われる完全回復薬を!?
聖命水は上級ポーションとは比べるべくもない、超高級回復薬だ。
自分の命を助けた薬が、まさか伝説級の薬だとは思わなかった。
後遺症がないのもそのおかげか。
「聖命水なんて割とよくある薬。そんなに珍しい薬でもない」
俺の驚きの顔を見て、母さんが胸を張ってドヤ顔で答える。
そりゃ超高難易度ダンジョンを10分で攻略するようなSランク冒険者なら珍しくないかもしれないけどさ。
「なわけあるか!そういう感覚がずれておると何度も言っておるのだ!」
「…」
母さんの顔が深刻な顔になった。だがあれは反省している時の顔ではない。別のことを考えている時の表情だ。
「とにかくだ!今後はワシの相談なく雪山訓練には行かないように!分かったか!ミレーネ!」
「じゃあ次は火山訓練ね」
思わずツッコミたくなる母さんの返しに、フラム師匠は絶句していた。
――そんな、いつもの朝。
俺は胸にぽたりと温かいものが落ちた気がした。
どんなに無茶をしても、結局最後は母さんが無茶なことを言いフラム師匠が絶句する。
そんな、いつもの朝。
それが俺にとっては何気ない家族の風景なのだ。
フラム師匠 40歳くらい (人族) −髭が長いおじさん。子供達2人を溺愛している。
母さん=ミレーネ 32歳 (黒穂族) − スパルタ母さん(無自覚)
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