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18.いざ王都へ

母さんのリハビリと称するしごきを受けつつ、俺とミーナ、母さんの3人は王都への出発準備を始めた。


今回お呼ばれしたのは、魔王を討伐した祖国戦勝記念祭と呼ばれる、この国で最も盛大な式典の一つに参加してほしい、とのことだった。


かつてこの国は、魔王の暴威が吹き荒れ、国土は荒廃し王国も危機を迎えたそうだ。

その時に活躍したのが母さんと王女様だった。


王女様は魔王の軍を追い詰め、母さんは魔王を討伐した。

平和が訪れたその日を国の記念日とし、王都では毎年盛大なお祭りをするのだそうだ。


戦勝記念日は俺も知っている。田舎のグラッツェルでも少ないながら屋台が出てお祭りをするからだ。


俺とミーナはフラム師匠から王宮作法を必死になって学んでいる。

フラム師匠による、その名も「これであなたも突然王族に会っても困らない!フラム流王宮対策短期講座」だそうだ。


「そういえば、なんでフラム師匠は王宮作法なんて知っているの?」


綺麗なお辞儀をするのに苦戦していたミーナが、ふとした疑問を口にする。

俺も疑問に思っていたんだよな。


フラム師匠は、長い髭を蓄え、どっしりとした体格で、どこか威厳のようなものはある。仕立ての良い服でも着れば、貴族と言われても信じてしまうかもしれない。


だが、師匠が貴族出身なんて話は聞いたことがないし、どちらかと言えば、その辺の冒険者ギルドのカウンターで若い冒険者に説教していそうな、ベテラン冒険者という印象だ。


実際にめちゃくちゃ強いし。俺もミーナもフラム師匠相手の模擬戦では、いまだに一本も取れたことがない。


「ふむ。儂は若い頃には、少しばかり外大陸へ足を伸ばしたこともあるでの。異国では儂のようなレグニア大陸の者は珍しがられてな。思いがけず貴族や王族に謁見する機会も何度もあった。その都度恥をかかぬよう身につけたものよ」


おお! 外大陸! この世界には七つの大陸があって、それぞれ違う文化や種族がいるってフラム師匠の本棚にあった本で読んだことがある。

師匠は実際に行ったことがあるのか!


「フラム師匠、その話もっと聞きたいな!」

「うむ、いつでも話してやろう。だが今は王女殿下に失礼のないよう、作法を身につけるのが優先じゃ」


確かにフラム師匠のいう通りだ。俺もミーナも、何となく形にはなってきたと思うが、まだ動きがぎこちないし、本物の王女様の前でちゃんとできるかは、正直、全く自信がない。


そんな俺たちの不安をよそに、母さんがこの作法講座に一切の興味を示さないのは不安でしかないが。

まあ、王女様と戦友だったっていうくらいだし? きっと母さんだって昔は作法を知っていたはずだ。

…知ってるよな、母さん?


「ノア、ミーナよ。王都の貴族どもが声をかけてきても、お主たちは笑顔で頷きつつ全てミレーネに話を振るのじゃ。『母に聞いてみます』とな。面倒ごとは全て、あやつに押し付けてしまうがよい」


「フラム師匠、それって八つ当たり?」

ミーナは師匠が王都行きの一件をまだ根に持っていると思っているようだ。


「そう…、と言いたいところじゃが、そうではない! 王都の貴族の中には、子供と見て言葉巧みに言質を取り、後々面倒な要求をしてくる輩もおる。それを防ぐための、これは処世術じゃ」


確かに。田舎育ちの俺たちに、腹の内が読めない貴族の相手なんて無理そうだ。

よし、何かあったら母さんを盾にしよう。鉄壁の面倒くさがりとSランクの威圧で、きっと全ての厄介事を吹き飛ばしてくれるに違いない。


「それに、多少なりともミレーネも儂の苦労を知るがよいわ!」


やっぱり根に持ってるんじゃないか、師匠!

俺は呆れると共に、なんだかんだ言って母さんとフラム師匠は本当に仲が良いんだなと、少しだけ嬉しくなった。


その後、俺とミーナは何とかフラム師匠から、「ふむ、これなら王女の前に出ても恥ずかしくないであろう」という合格点をもらう程度には作法が上達した。


一方、母さんは手紙の返信に大層苦労していた。

流石の母さんも「行きます」という一言の手紙を書くのは躊躇ったようだ。


フラム師匠に確認をしては何度も書き直しを言われ、「字が汚すぎる!」「心がこもっておらん!」「そもそもこれは手紙ではない、ただの殴り書きじゃ!」と散々に言われていた。


最終的には「ああ、もう良い! 儂が書く!」とフラム師匠が美しい文字で代筆することになった。

最初から代筆すれば、と思ったが、「これもミレーネのためじゃ」と師匠は言っていた。


出発の前日。

「ところでミレーネよ。王都行きの馬車は手配したのだろうな?」

「ん? 走っていけばいい。鍛錬にもなるし」


「この大馬鹿者がぁっ!! 王女殿下からのご招待に走って駆けつける者がどこにおるか!」 「でもノアもミーナも足腰を鍛えるために…」


フラム師匠によるこんこんとした、そして非常に長い説教が始まった。

招待客が汗だくで到着するなど言語道断、王家への侮辱であり子供たちの名誉に関わる、等々。

母さんは心底うんざりした顔でそれ**を**聞き流していたが、さすがに根負けしたのか、ようやく重い腰を上げて村の馬車屋へ行き、村では一番立派な馬車を手配していた。


そして出発の当日。

「王都までは馬車で四日ほどだ。式典は六日後だから余裕はある。早く着いたら宿を取り、王都見物でもしてくるといい。王都はここよりも遥かに発展しておるからな」


フラム師匠が見送りに来てくれた。

ちなみにルピナはフラム師匠とお留守番だ。ルピナともしばらくお別れか。


俺は存分にルピナのふかふかの毛を撫でてやった。

ルピナもクゥンと鼻を鳴らして名残惜しそうな鳴き声をした。


俺、ミーナ、母さんの3人はおそらく村で一番立派な馬車に乗り込み、王都へ旅立った。

母さんに連れられて色々な旅や冒険をしてきたので、旅自体には慣れている。


馬車に揺られるのも快適だ。 だが、王都のような大きな街に行くのは今回が初めてだ。

一体どんなところだろうな。期待と不安が入り混じる。


「大きな街なら、魔導書もいっぱいあるかも!」


ミーナはそれが一番の楽しみらしい。

この辺りには本屋なんてないし、家にあるフラム師匠の魔道書も読み尽くしてしまったからな。新しい知識に飢えているようだ。


道中は特に何事もなく進んだ。

季節はもう春。街道脇にはたんぽぽが咲き、緑が眩しい。暖かな陽気と心地よい揺れに、ついつい眠りに落ちたりもした。

旅は朝に出発し、夕方には街道沿いの町で一泊する、というのんびりしたものだった。


そして、フラム師匠が言っていた通り、四日目に俺たちは王都に到着した。


「それじゃあ、ミレーネ様、ノア坊ちゃん、ミーナ嬢ちゃん。またグラッツェルで」 すっかり顔なじみになった御者のおじさんに手を振り、俺たちは馬車を降りた。


「おおー。ここが王都かぁ!」


目の前に広がる王都は、グラッツェルとは比べ物にならないほど発展していた。

空高くそびえる王城を中心に、広い石畳の大通りが東西南北に伸び、石造りの立派な建物がぎっしりと並んでいる。


三階建て、四階建ては当たり前。人の数も多い。

様々な服装の人々が行き交い、活気のある声と馬車の音が絶え間なく聞こえる。

大通りには既に屋台が並び始め、城下町全体がお祭り気分に浮き立っている。


王都の人々の多くは獣人だが、フラム師匠のような人族もちらほら見かける。ちなみに、俺たちが住むこのレグニア大陸は、今の王家が白霞族という獣人が君臨しているということあってか、俺たち黒穂族みたいな猫耳や尻尾がある種族や、犬耳族とか色々な獣人が多く住んでいる。

もちろん、師匠みたいな普通の人族もいる。


「おかーさん、本屋に行きたい!」

早速ミーナが目を輝かせる。


「はいはい。まずは宿を取ってから」


そうなのだ。まず宿を取らないとな。

記念祭で多くの人が集まっているのもあって、宿が取れないこともあるかもしれない。


そうなったら母さんは平気で野宿しそうだが、それもフラム師匠に「王女殿下にご招待されている身で奇行に走るな!」と止められていた。


俺たちが野宿をしているのを偉い人に見られたら悪目立ちをするだろうから、師匠には本当に感謝しかない。


ひとまず今日は宿をとって休むことになった。

予想していたように、安い宿はすでに満室だった。


結局少し高めの、しかし清潔で立派な宿に泊まることになった。

まあ母さんは今までの冒険者ギルドの依頼で稼いだお金が有り余るほど持っているはずだし、これくらいの出費は何ともないのだろう。


家のベッドよりもふかふかで、上等なベッドに寝転がる。

寝心地はいいが、やっぱり自分の家の方が安心できるな、なんてことを思った。

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