第五夜 講習と、食事のあとで
講習の日だった。会社の人間と、見知らぬ人々が並び合っていた。だがそれは会議室ではなく、どこか学校のような部屋だった。
静かに朗読が始まった。誰かが語り、また誰かが続きを読む。 教科書のような言葉。けれど内容は思い出せない。
外はもう暗かった。知らぬ間に夜になっていた。
「今日は終わり」 誰かがそう言った。皆、夕食を買いに散っていった。
私はチェーン店のバーガーを頼んだ。 しかし渡されたのはバケットケースだった。
中にはポテトとコーラが三人分。 中央に焦げたたこ焼きが並び、小さなたこ焼き器が冷たく横たわっていた。 その隙間にはSuicaと、おにぎりの形をしたギターピック。
車に戻り、それらをひとりで食べた。 たこ焼きは少し焦げていたが、どこか懐かしい味がした。 コーラは妙に甘かった。
そのとき、ドアが音を立てて開いた。
上司だった。
現実で、私を潰した人間。 その顔が現れた瞬間、胃の奥がきしむような音を立てた。 車内の空気が、瞬間、真空になった。
彼は気まずそうだった。こんな空気が嫌いなのを、私は知っていた。 だが、沈黙に耐えきれず、彼は言葉を吐いた。
「皆、辞めるんじゃないかって気にしてる。 ……早く元気になって戻ってきてほしい」
声は、やけに遠くから聞こえた。
私は何も言えなかった。 たこ焼き器が、じっと黙っていた。 ピックの角が、光を失くしていた。
車内の灯りが、どこか青白く感じられた。 コーラの炭酸だけが、しゅわしゅわと空気の代わりに返事をしていた。
外はまだ夜で、街灯は瞬かず、ただ立っていた。