表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢刻 夢を忘れる前に  作者: 緋色
5/6

第五夜 講習と、食事のあとで

講習の日だった。会社の人間と、見知らぬ人々が並び合っていた。だがそれは会議室ではなく、どこか学校のような部屋だった。


静かに朗読が始まった。誰かが語り、また誰かが続きを読む。 教科書のような言葉。けれど内容は思い出せない。


外はもう暗かった。知らぬ間に夜になっていた。


「今日は終わり」 誰かがそう言った。皆、夕食を買いに散っていった。


私はチェーン店のバーガーを頼んだ。 しかし渡されたのはバケットケースだった。


中にはポテトとコーラが三人分。 中央に焦げたたこ焼きが並び、小さなたこ焼き器が冷たく横たわっていた。 その隙間にはSuicaと、おにぎりの形をしたギターピック。


車に戻り、それらをひとりで食べた。 たこ焼きは少し焦げていたが、どこか懐かしい味がした。 コーラは妙に甘かった。


そのとき、ドアが音を立てて開いた。


上司だった。


現実で、私を潰した人間。 その顔が現れた瞬間、胃の奥がきしむような音を立てた。 車内の空気が、瞬間、真空になった。


彼は気まずそうだった。こんな空気が嫌いなのを、私は知っていた。 だが、沈黙に耐えきれず、彼は言葉を吐いた。


「皆、辞めるんじゃないかって気にしてる。 ……早く元気になって戻ってきてほしい」


声は、やけに遠くから聞こえた。


私は何も言えなかった。 たこ焼き器が、じっと黙っていた。 ピックの角が、光を失くしていた。


車内の灯りが、どこか青白く感じられた。 コーラの炭酸だけが、しゅわしゅわと空気の代わりに返事をしていた。


外はまだ夜で、街灯は瞬かず、ただ立っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ