第四話 断線
バンドのリハーサルだった。
重要なステージ前。私はギタリストとして、今日の音を鳴らすはずだった。
しかし、エフェクターケースを開けた瞬間、違和感が走った。
シールドがない。
あるはずのそれが、忽然と消えていた。替えもない。スタジオの隅を探しても、誰に聞いても、そこにはない。指先がざらつく。湿った空気が皮膚に絡まる。
仕方なく、アンプ直で繋ぐ。
だがそれでも距離が足りない。シールドは途中でぶら下がったまま、床にすら届かない。私は無音のまま立ち尽くす。
メンバーたちは元気だった。こちらの焦りなど気にも留めず、明るい声が空間を満たしていた。私だけが、鳴らない。
ギターを取り出そうとギグバッグを開ける。
すると、いつのまにか別のアンプが用意されていた。 新品のような艶。そこに、知らない誰かが座っていた。メンバーでもない。名前も知らない。けれど、彼は楽しそうにギターを弾いていた。
それは、私のギターだった。
スタジオの蛍光灯が不自然に明るい。音は鳴っているのに、誰の耳にも届いていないような空虚なリフ。
私は口を開こうとした。だが、声が出なかった。
ふと足元を見ると、シールドが伸びていた。 しかし、それはすでに誰かの足元を通り、別の誰かの手に握られていた。
私はアンプの電源を探した。 しかし、どのスイッチを押しても、何も起こらなかった。
リハーサルは進んでいた。 誰のための音楽なのか、わからないまま。 私はただ、そこに立ち尽くしていた。