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第三夜 真夜中の遊覧
昔好きだった人と、遊覧船に乗った。
夜だった。月はなく、空も海も、黒い布でつながっていた。船の灯りだけが水面に滲んで、静かに流れていた。
私たちは並んで座っていた。言葉はなかった。けれど、隣にいるということだけで、何か満たされるような時間だった。けれど、それは同時に、ひどく切ない時間でもあった。
もっと一緒にいたかった。
たぶん私は、ちゃんと言うべきだったのだと思う。好きだったと、さようならと、そのどちらでもなくても。何かを伝えなければ、何も変わらなかったまま、ただこの遊覧船のように、夜の中を漂うだけなのだ。
船はどこへ向かっているのかもわからない。けれど、進んでいることだけは確かだった。
ふと、彼女がこちらを見た気がした。 けれど私の視線は、なぜか彼女の方を向かなかった。
そのまま夢は終わった。 目が覚めると、旧家の一角で、寝袋にくるまっていた。
寒かった。 すべてが、もう終わっていた。 それでも、もっと一緒にいたかった。