第一夜 暗転の島
亡くなった父と、久しぶりに家族旅行に出かけた。行き先は古びた島。旧正月のような日で、慰安を名目に各地から人々が集まっていた。初日、かつての友人たちも偶然この島に来ていたことを知る。彼らの家族も一緒で、その一人の父親は考古学の研究で島を訪れていた。古い詩を集めているという。島にはそんな記憶の断片が、石のように転がっているらしい。
翌日、祭りが行われる予定だった。曇天の空、小雨が降り始めた。人々は舞台のある広場に集まっていた。祭りの始まりを告げる鐘の音が響く——その瞬間、舞台が暗転した。
気づけば、また初日だった。 家族は消えていた。友人たちはまだいた。
再び過ごす一日。そしてまた暗転。
また、初日。
また、最初。
また、始まり。
友人の数も減っていく。気づけば誰もいない。
また、空白。
また、沈黙。
また、孤独。
残されたのは、仲間の数人と、どこか不思議な少女だけだった。彼女は感情の薄い目でこちらを見ていた。
ある繰り返しの中で、友人の一人がこう言った。「父はノートを残した。暗転した先に、それが落ちているはずだ。集めてほしい、と。」
次の暗転のあと、その友人も消えた。ノートだけが足元に落ちていた。
集める。 繰り返す。 また集める。
また、ページ。
また、紙片。
また、言葉の骸。
少女はまだいた。抜け殻のようにそこにいた。 話しかけると、返事は返ってくる。ただし、どれも遠い誰かの言葉のようだった。
また、遠く。
また、知らぬ声。
また、意味のない優しさ。
そしてまた暗転。
そしてまた暗転。
そしてまた暗転。
私は今もノートを集めている。 いつか祭りが始まると信じて。 誰もいない広場で、雨の匂いを嗅ぎながら。