8.流行とSNS
前回までのあらすじ
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二郎と太一は、怪しい"芸能プロダクションの社長"を名乗る男に、所属しないか、と誘われた。
最初は怪しい男かと思っていたが、TFC決勝経験者ということを知り所属することを決めた。
都内某所。
前と同様、僕たち2人はコンクリート打ちっぱなしのビルに呼び出された。
施錠されてなく、というか鍵穴さえなく、誰でも入れる状態だった。
集合時間は10時。
現在、10時半。
未だに、坂田社長来ず。
「んんんんん!!なんであいつは来ないんだ!」
二郎は、5分ごとに癇癪を起こし、叫ぶ。
これで6回目。
数分後、ドアが、キィ、という音を立てて開いた。
「あっ!ごめんごめーん」
そう言いながら、入ってきたのは、アロハシャツにサングラスをみにつけた男、坂田周平だった。
「おいおいおいおい、そこのmen!なんでそんな俺の事を訝しげに見るんだよーちょっくら遅れただけだろ?」
「ちょっくらとはなんだ!30分以上遅れてるじゃあないか!」
「嘘をつくんじゃあないmen。僕の時計を見たまえ。まだ10時3分じゃあないか」
そういうので、僕たちは彼の時計を見る。
彼はブランド物、かと思ったらブランド物の偽物の時計をつけていた。
これ、明らかにズレている。
まず今年は1603年では無い。
それでいて、今は10時33分だ。
「あのぉ、多分これズレてますよ」
「んん?ズレてるわけないじゃあないか。僕のブランド物 が」
...こんな事務所でほんとに大丈夫だったのだろうか。
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「いやぁ、さっきはごめんねェ。俺の時計ズレてたみたい。あはは〜」
何がアハハだコノヤロー!その時計ぶっ壊してやろーか!
「それでさァ、今日は君たち2人を有名にするために、あるコトをしてもらおうと思ってねェ」
「あること ?」
「君たちは話によると、時間が無いそうじゃあないか。それなら手っ取り早く君たちは話題にならないといけない訳だね。今の時代、昔とは違って、人から見てもらう方法はいくらでもある。たしかに今でもお笑いライブなんかはやられてるが、コアなファンしか来ない。芸人というのは、一部の人に面白いと思って貰えるだけじゃあ話題にはなれない。では、どうするか?それは全ての人に見てもらえる場所にいることだ。ではそれはどこか?テレビ?いやァ、テレビなんかまだ出れない。こんな無名の芸人が。それに今の若者たちはテレビ離れが進んでる。なら、その若者たちがいる場所にいればいい。それは"SNS"だよ」
「SNS...?」
二郎が不思議そうな顔をして言った。
そうか、二郎はSNSを知らないのか。
それを察した僕は「SNSとは、ソーシャルネットワーキングサービスのことだ。YouTubeだとか、Tiktokなどが有名だ。この2つは動画を投稿することが中心のもの。他にも文章や写真を投稿するInstagramやX、Berealなんかがある。まぁ、簡単に言うと、"自分をネットに誰でも発信できる場"。自分たちを知らない人にも見てもらえるんだ」と言った。
「なるほど」
「わかりやすく説明してくれてありがとねェ。太一クン」
「あぁ、それはどうも...」
「それで、話を戻すけど、君たちにはそのSNSで動画を投稿してほしいんだよ。それが君たちがいちばん早く有名になる方法だ」
「でもそれじゃァ、芸人っぽくなくないか?」
二郎が怪訝そうに言った。
「心配はご無用だよォ。別にSNSだけをやれって言う訳じゃァない。お笑いライブもさせてやる。僕のツテがあるライブがあるんだ。知り合いがやっててね。そこが、僕のお願いならと君たちを出させてくれると言ってる。コネのようで、君たちは嫌がるかも知れないが、これが君たちが短期間で有名になるための最短距離なんだ」
「分かりました」
「OKェ!じゃあ早速SNSに投稿する動画を撮ってきて欲しいんだ。次の2つの動画を撮ってきて欲しい。別に編集なんかはしなくていい。僕が指定した動画素材を撮ってきてくれればいい。①ネタ②ダンス動画(下手でもいい。というか下手な方がいい)だ。ダンスはなんの曲でもいいよ」
「ダンス...って。芸人でもなんでもなくないですか?」
俺は少し怒りを露わにして言った。
「有名になるためには外道なこともしなければならない。ただのネタ動画をアップしていても、君たちが有名になるには、5年という月日じゃあ足りないだろう。時間が無いことが最もわかってるのは君たちだろ?そこら辺は...わかってくれると助かる。僕だって本当は君たちを漫才で売りたい...だがダメなんだそれじゃァ」
...これが"有名になる"ってことなのか。
ただの漫才じゃあダメなんだ。
ただの漫才で売れるには僕たちは"遅すぎた"んだ。
もっと若いうちからやっていれば良かった。
でと今更後悔しても遅い。過ぎたことに後悔したり憤怒することは馬鹿馬鹿しい。そんなことはしたくはない...
「分かりました。指定された動画を撮ってきます」
「OKェ!急いで撮る必要はないよ。心の整理がついてからでもいい」
「分かりました」
「これが君たちが有名になるための第1歩さ!」
次回『見えない敵』