5.はじめの一歩はでっかく
前回までのあらすじ
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明後日に控えたお笑いイベントの為に、ネタを書こうとする赤羽太一。
一方、山田二郎は、赤羽太一に"覚えてもらう条件"をみにつけるように言われ...
「ん〜」
今日、俺"山田二郎"は、相方の赤羽太一から、客に覚えてもらう条件を身につけろ、という風に言われた。
彼が言う話によると、喋り方や、見た目を印象に残りやすくすればいいらしい。
そう言われてもどうすればいいのか、よく分からない...
喋り方...なんて変えられる気もしない。
やっぱり変えるなら見た目?
いっそ丸刈りにしてみるか?いや...そんなやつらは大量にいるだろう...
ん〜どうすればいいのやら
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「ん〜」
あのオッサン"山田二郎"が、応募してきたイベントであるアマチュア漫才パレードのネタを考えるべく、俺"赤羽太一"は悩んでいた。
どのような内容にすればいいのだろうか?
あのオッサンとの年齢の差をネタにはしたくない...
やるなら他の奴らと公平な条件でやりたい。
あのオッサンもそれでなければ認めない気がする。
では、この一日でガチガチな漫才を考えられるのか?と言われたら僕は首を横に振るだろう。
アマチュアであることを使った漫才?無職であることを使うのか?
どれも上手くいく気がしない...
ん〜どうすればいいのやら
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翌日ー
「あ、山田さん、おはようございます」
「よう!昨日はよく眠れたか?」
「...」
「はっはっはっ!よく眠れたってツラじゃねぇな!すまねぇな、俺はネタを作れなくて」
「いえ、大丈夫です」
「あの...ずっと前から気になってたんだけどさ、敬語、やめねぇか?」
「あ、あぁ、すいません、無意識で。じゃあ敬語は辞めます」
「今も敬語使ってるな!はっはっはっ!」
「ごめんなさい」
「今もじゃねぇか!俺のことは二郎とでも呼んでくれ」
「じゃあ...二郎...」
頬を赤らめながら、赤羽太一は小さな声でそう言った。
「おう!”太一”!」
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「それで、ネタはできたのか?」
「一応...」
そう言いながら、A4サイズのコピー用紙を取りだして、太一は二郎に見せた。
「ふぅん、なるほどね、面白いじゃねぇか!」
「あ、ありがとう...」
太一は続けた。
「それで、覚えてもらうための練習はしてきた?」
「あぁ!」
「何をしてきたんだ?」
「それはー」
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1日後
本番の日だ。
本当にできるかは分からないけど、出来る限りのことはした。
ネタは完璧に覚えたし、何度も合わせた。
おっさん...、いや二郎だって練習をしてきた。そして彼もネタを覚えた。
正直記憶能力が無さそうだと思っていたがそれは的をはずれていた。彼の記憶センスは、ずばぬけていた。
ものの十数分で全てのセリフを覚え、動きまで完璧にした。
俺はなんで彼に惹かれ、彼なら芸人が出来ると思ったのか、少しわかった気がする。
話は変わって、僕は集合時刻の15分前に集合場所についていた。集合時刻に着くように出たつもりだったのだが、ポーカーフェイスを気取っている俺も、実は心の底で緊張しているのだろうか。でも大丈夫だ。彼なら何とかしてくれるだろう。
早めに来すぎたので、俺は会場を軽く見て回ることにした。すでにプロの芸人たちがネタを終えて、今はアマチュア漫才パレードまでの休憩時間となっていた。
プロの芸人が来ていることは知らなかった。あの時、よくイベントのチラシを読んでおくんだった。
それは置いておいて、観客席は空白が増えていっていた。プロの芸人を見て満足して、客たちは帰っていっていたのだ。残っているのは、アマチュアの家族や、イベントのスタッフ、コアなファン、そして一部の一般人だけであった。
想定していた"お笑いファンが少ない状況"とは真逆の状況が作られていたが、大丈夫だ。俺らならやれる。
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「よぉ!待ったか?」
「いや、早く来て会場を見て回っていたよ」
「そうか!それなら良かった!」
会場の状況について、二郎に言うのはやめておこう。
彼の場合、無駄に意識してしまうかもしれない。
「俺らの出番は3時24分からだ。15分前にはテントに来とけってことだから、あと小一時間余裕があるって感じだな」
時計を確認しながら二郎はそう言った。
「どこかで、練習でもしなおそうか?」
「そうだな」
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15分前となった。
僕たちは、テントに行った。
そこには数組のコンビがネタに向けて練習をしていた。俺はその中の1組に目がいった。
あれは、TFC...The Funniest Combiの準決勝まで去年、進出した、サファイアナッツだ。
たしかに彼らは事務所に所属していない...
アマチュアと言えばアマチュアだ。
彼らは僕らの1つ前のネタ順だった。
これは厳しい戦いになりそうだ。だがここで挫折しているようじゃあダメだ。
その後僕たちはイベントスタッフから説明を受けた。
そしてコンビ名の登録、というものをさせられることになった。
コンビ名か...考えてもいなかった。
「俺、いい案あるぜ」
ドヤ顔で、二郎はそう言った。
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本番。
ステージ上にあがった。観客はまばらとはいえ、一定数いる。ここが俺らのはじめの一歩なんだ。
司会が大きな声で言った。
「エントリーナンバー8!コンビ名はー」
次回『般若と龍』