開戦
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「まさか…こんな短期間で…」
「兵力は?」
「ざっと3万かと…」
「3万!?一体どこでそんな兵を集めた?」
アストラマスの挙兵は宮廷に侵入後、わずか3日後の出来事であった
「トロイ教の信者は多く見積もっても1万…残りの2万は一体…」
「どの国にも属さない反国家勢力はトロイ教以外にもたくさん有ります」
国王陛下に知らせを伝えにきたアルカティアが口を開く
「トロイ教と距離が近かった組織は華蝶連合、兵力の大半はおそらくそこで間違いないでしょう」
華蝶連合は反国家勢力の「黒薔薇」と秘密結社「黒鳳」が手を組み作られた組織で、信者は全世界を見ると50万人を超えると言われる巨大勢力である
他の国でもその存在を危険視し警戒を怠らずにその動向を監視していた
その勢力がついに動き始めたのだ
「アストラマスは今どこにいる?」
「北東の国境付近、プテールの平原に陣取っています!」
「北東…確かにあそこは守りが薄い…」
「国王陛下!ご命令を!」
「うむ、今すぐ戦いの準備を!!」
「「「「「は!」」」」」
出撃の準備のため全員、会議場を後にした
「アルカティア、少しいい?」
「どうしましたか?陛下」
「オルタを第一部隊の将軍として連れて行ってほしい」
「え!?そんな…まだオルタは…」
「記憶も魔力もないのはわかっているが、やはり象徴として働いてもらうためにはオルタの存在が必要であると考えた。以前のようにはならないのはわかっている。だからこそアルカティアにはオルタを助けてあげてほしいのだ」
「陛下…わかりました。オルタを連れて行ってまいります!」
「うむ、頼んだぞ!」
アルカティアはすぐに病棟へ向かいオルタを呼び出した
「オルタ様!どうか戦線にお立ちください!」
「そう言われても…」
やはりオルタは出陣を拒む
「我が国の危機なのです…!オルタ様の力が必要なのです!」
「でも…」
「アルカティアさんの言うとおり…オルタ、あなたはこの国の象徴…このために古代魔法習得した…だからお願い…」
アイナも必死に懇願する
「…分かった。でも僕は昔のことは覚えてないしどんなことしてたのかもわからない。だからアルカティア、僕を支えて欲しい…」
「当たり前でございますオルタ様!私は言われずともオルタ様をお助けいたします!」
「アルカティア…!」
オルタはアルカティアと抱擁を交わした
こうしてオルタは出陣の決意を固めた
記憶を失って以来着ていなかった軍服を着て、ついにオルタは病棟から外へ出た
「うわ…眩しい…!でもどこか懐かしい…」
「オルタ様、宮廷広場に国軍が集まっております。まずはそちらへ行きましょう!」
「よし!行くぞ!」
以前のクールで落ち着いた雰囲気のオルタではないが、その目にはあらゆる決意と覚悟が宿っていた
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宮廷広場には国軍全ての部隊が集まり出陣前の指示を待っていた
総指揮官である「ヨハン・ローレンソン」防衛大臣が先頭に立っている
「アストラマス・シュタルヒンの挙兵は我が国を脅かす出来事である。これにより国民に不安が募っており、これを解消できるのは我々国軍がこの反乱を鎮圧することただ一つである。やつらの兵力は3万、こちらの兵力は2万、少し劣勢といったところ。しかし戦いは数ではない。必ず勝利しなければならない戦いなのだ!!」
「「「「「ウオオオオオオオオ」」」」」」
大臣の演説に全員が感心する
「最後に、第一部隊を率いる第一等将軍に演説をしてもらう」
「え!?」
何も聞かされていないオルタは驚いた
(何も準備してないよ…)
不安を感じながらオルタは登壇した
そんなオルタを見て兵たちは少しざわついた
「あれって記憶なくしてた人だよな…」
「記憶も魔力もないのにどう戦うんだ?」
「あんなやつに任せて大丈夫なんだろうか…」
やはり、オルタの参戦に少し不安を感じている様子だ
「…あーゴホン。僕はオルターニャ・ガルナドーラ。この軍の第一等将軍を務めている。だけど今は記憶を無くしてそんなこと覚えてなかった。みんなに言われてようやく自覚できた」
そんな言葉を聞き、兵たちの不安はさらに募っていく
「だから、昔の僕みたいにみんなを導けるような働きはできないかもしれない…昔の僕みたいに頭の切れることを言えないかもしれない…だけどこれは必ず約束する。この戦いに必ず勝利すること!!昔の僕じゃなくても、昔は昔、今は今!今の僕は新しく生まれ変わったんだ!!」
オルタの力強い演説に、全員心打たれた
「記憶を無くしてもあんな素晴らしいことを言えるのか!」
「やはりオルタ様は記憶がなくてもオルタ様だ!」
オルタの言葉で軍の全員の士気が高まっていく
「よく言ってくれた。やはり我が国にはそなたの存在が欠かせないとよく分かった」
隣に立っていたアズアが話しかける
「そうなのかな…昔の僕ってどんな人だったの?」
「皆を導けるまさに英雄だ。そしてそれは今も変わらない」
「そっか。よし!頑張るぞ!!」
そう言うとオルタは気合を入れ直した
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帝国軍の本陣を宮廷に構え、第一部隊,第二部隊が北東のラモスタイン城へ入城した
「ここは元々ここ一体を支配していたグスタフ氏が使っていた城だ。山の頂上にあるからここからならやつらのいるプテールの平原がよく見える」
「にしてもなかなか動かないですね。普通ならこっちが動けば奴らも動いてくるはずなんですが…」
「何か狙いがあるのか…そもそも奴らはなぜ守りの薄い北東に布陣しておきながら攻めてこないのだ?」
「僕らをここに誘き寄せるため…とか?」
「何のためにそんなことを…」
「まぁここなら奴らが動けばすぐに分かる。その時に我らも動き応戦して…」
「伝令!伝令!!」
「どうした?」
「プワープの砦が陥落いたしました!」
「なに!?」
プワープの砦は帝国の東にある砦でこの国の防衛ラインの一角を担う、まさに帝国守護の要であった
「どうしてだ!奴らは動いてないだろ?」
「えぇ…ここからよく見えますが…」
状況が飲み込めず軍は混乱していた
確かにずっと見張っていたが、反乱軍に動きはなかった
にもかかわらずここから離れたプワープの砦が陥落したのである
「プワープの砦にはタチバナ殿が…」
「状況を報告せよ!」
その時、信じられない事実が告げられた
「ショウ・タチバナ率いる第四部隊が寝返りました!」
「なんだと!?」
「そんなバカな…あの忠実なタチバナ殿が…ありえない!」
さらに状況を飲み込めないまま混乱が増すばかりである
「アズア様、まずは落ち着きましょう」
アルカティアが話を持ちかける
「お…おう。そうだな…悪い悪い…」
「敵軍が動いてないのに陥落したプワープの砦。ショウ・タチバナ殿の寝返り。これは普通では起こりえません。考えられるのはただ一つ」
「アストラマスの精神操作魔法、そして奴の特殊魔法です」
「そうか!奴の強力な精神操作魔法と自由自在に変身できる特殊魔法があればこんなことは容易いこと…」
「アズア様、ここは二手に分かれた方が良いかと」
「確かにそうだ。アルカティア殿、タチバナ殿の食い止め頼めるか?」
「かしこまりました」
アルカティアは第一部隊を率いて、プワープの砦へ向かった
「アストラマスの精神操作魔法ってどんな魔法?」
「脳の信号を操り、相手の思考、行動を操ることができる魔法です。簡易的なものはある程度の人は使えますが、奴の魔法はかなり強力です。細かな動きや思考、さらには一度に多くの人を操ることができる、過去に類を見ない強力な精神操作魔法です」
「そんなに強い…それ使われたらどうしようもないじゃん…」
「魔法には必ず弱点があります。精神操作魔法は相手を細かく動かそうと思えばさらに多くの魔力量が必要になります。また相手の魔力量が多ければ、こちらも多くの魔力量が必要になります。つまり必然的に自分より魔力量が多い人間にはあまり効果がないと言えます」
実際にアストラマスの精神操作魔法はマルティンには効いていなかった
「なるほど…」
「ですが今のオルタ様は回復してきているとはいえ魔力はまだまだ常人より足りません。そうなってはいとも容易く奴の餌食になってしまうでしょう」
「そっか…アルカティア…守ってくれるか?」
「当然ですとも。マルティン様亡き後、オルタ様を助けられるのは私だけです」
「マルティン…僕の叔父だった人…アストラマスに…」
改めてそれを実感したオルタはますます怒りが込み上げた
「アルカティア…この戦いなんとしても勝とう!」
「もちろんです!」
こうしてオルタは少数の護衛を率いてプワープの砦へ向かった
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「国軍に動きがありました。奴らはプワープの砦へと向かったようです」
「そうか、にしても第四部隊があそこまでちょろい奴らだとは思わなかったぜ。いとも簡単に精神をいじれてあっという間に砦を陥落させちゃうんだもんな」
「アストラマス様には脱帽です。特殊魔法の効果で敵陣へ近づき精神を操作する。まさに相手の意表を突きましたな」
「だろ?あいつらは俺らがここにしかいないと思ってる単純な奴らなんだ。こんな国なんてすぐに奪えるさ」
プテール平原に陣取るアストラマスは余裕の表情を見せていた
「あとはこれを他の部隊にもやるだけ、あとは勝手に自滅してくれる。そうすれば…」
「なかなか斬新だが、こんなことならここまで兵力はいらないのではないのか」
反国家勢力黒薔薇の総長、「ガノン・ハルトマン」が質問する
「あ…?相手を威嚇したり出来るだろ?」
「その生意気な態度が気に食わねえんだよ。いいか?俺らはこのバナコスタという国が気に食わねえからお前らに協力してやってんだ。そのことを忘れんじゃねぇぞ?」
「わかってるって。その気持ちは俺たちも一緒だ。だからこそこの戦争は落としたくねえんだ。そのためにはあんたらの力が必要なんだ」
「ふん。こんな不快な気持ちになったのは黒鳳の奴らと手を組んだ時以来だ」
「あんたはほんと誰かと手を組むのが嫌いなんだな」
「お前に俺のことを言われる筋合いはねえぞ。立場を弁えろこのガキ」
「ふっ…まぁいいさ。もうすでに砦は落ちている。それだけでも相手にはかなりの痛手だ。勝ったも同然だろう」
アストラマスは余裕の表情を見せた
「早くこんなやつらぶっ殺して大将の血を啜ってやりたいもんだ」
「血を啜るって…人間の俺にはわからんな、その感覚。血って美味えのかよ?」
アストラマスが聞いた
ガノン・ハルトマンは吸血鬼と人間のハーフであり血を飲むことで、普段の食事とは比べ間にならないほどの栄養を摂取している
「美味い不味いじゃねえ栄養なんだ。回復に必要な栄養が詰まってるんだ。これを飲まねえとまともに魔力も増えやしねえよ」
「ふーん…まぁいいや。そろそろあいつらが砦に着く頃だ」
「お前の言いたいことはわかってる。この俺をこき使うのは気に食わねえが、あいつらをぶっ殺すとなると話は別だ」
「サンキューな〜。さぁて目にもの見せてやろうか!」
アストラマスは出撃の準備を進めた
しかし兵たちは動こうとしない
代わりにガノンが何か準備をしている
この反乱軍が怪しい動きが意味することは帝国国軍の誰も知る由がなかった
「まだか?」
「黙れ。俺に指図するな」
「固えこと言うなって」
「ちっ…まぁいい。もうすぐだ」
ガノンは作業を止め力を込めた
するとみるみるうちに空間が歪んだ
「……ポータル」
ついに反乱軍の侵攻が始まる
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続く
ししゃもっこです
なんだかんだで5話まで来ました
まだ自分なりの作柄がわからず試行錯誤しております
そんな中でも続けられています
これからもよろしくお願いします