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突然の再会

ああ、どうしよう……また嘘をついてしまった。

いや、リヴィングストン伯爵を気に入ったというのは本当だ。

ただ、伯爵本人をというよりも、彼の条件に惹かれたのだ。


爵位も実家に劣らないし、領地持ちの後継ぎ持ち。ご令息はしっかりしていて手がかからないというし、甘えん坊の5歳のご令嬢はきっと可愛いに決まってる。

……まあ、会ってみないと分からないけれど。



リヴィングストン伯爵の仕事の都合で、次に会えるのは1か月後となった。

約束の日が近づいたある日、ノースモア家に突然の訪問者があった。


「リマー子爵家のロバート樣という方が、クラーラ様にお会いしたいとお見えですが……」


「リマー子爵?」


ちょうどクラーラとおやつを食べていた夫人が眉をしかめた。


「って、ああ、あの娘のところの?」


「え、ええ。イーヴィーのお兄様よ。ご実家へお邪魔させていただいたときにお世話なった」


そのロバートがなぜ急にやって来たのか、クラーラはひどく驚いたが、驚きのあまり平静を装って答えた。


「いったい何かしら?」


「まあ何でもいいわ、追い返すわけにはいかないし。通して頂戴」



クラーラがロバートに会うのは2ヶ月ぶりくらいだった。

再会した瞬間、早くも懐かしさを覚えた。

清涼なハーブの香りをふわっとまとったような、爽やかなロバートに。


帽子を手に抱え挨拶のポーズを取ったとき、サラッと栗色の髪が流れた。

イーヴィーの家で会ったときと違い、かちっとした服装をしているせいか、硬質な雰囲気がする。


「連絡もせずに突然の訪問、申し訳ございません。都の叔父に用事があり、こちらへ出てきたもので……」


「いーーえ、お会いできて光栄ですわ。先日は娘が大変お世話になりまして。お礼の品を贈るよう手配したはずですけど、もう届きましたかしら?」


「えっ、それはすみません。確認しておりませんが、わざわざお気遣いありがとうございます。お礼をすべきはこちらですのに……。クラーラさんには、うちの不出来な妹がいつもお世話になっております。そのお礼の品を贈らせていただきたいと、言いっ放しになっておりましたので、直接お渡ししたいと本日持って参りました」


クラーラは驚きっぱなしだった。

ロバートが突然家にやって来たこと。

そしてクラーラの方はすっかり忘れていた約束を覚えていて、この場で有言実行しようとしていることに。


ロバートはおもむろにポケットから小箱を取り出した。

リボンがかかった綺麗な空色のジュエリーボックスだ。

あ、ブローチだわとクラーラは思い出した。

イーヴィーが、クラーラのドレスの色が地味だからと着けてくれたカラフルな花束のブローチ。それがクラーラに似合わなかったため、「もっとクラーラさんに似合うものを贈る」とロバートが言ったのだ。


「お待ちになって、ロバートさん。そういう物はもっとロマンチックな場所で贈られたいものよ、女は。ねえクラーラ、2人でお庭の薔薇でも見ていらっしゃいな」


夫人が提案し、クラーラににこやかな笑顔を送った。


「2人きりのほうが話しやすいでしょうし。ねえ、ロバートさん」


「ええ。重ね重ね、お気遣い恐れ入ります。クラーラさん、お庭をご案内いただけますか?」


2人に促され、クラーラはカチコチに緊張したまま前に立ちロバートを先導した。


「お、お久しぶりです……わ、わざわざ、ありがとうございます」


少し歩き出してから、ようやくそれだけ口にできた。


「ごめんね、急に来て。叔父に用事があったってのはほぼ口実で、クラーラさんに会いに来たんだ。クラーラさんに会いたくて、無理やり野暮用を作った感じ」


2人になるとロバートは口調を砕けさせ、声の感じも柔らかくなった。

田舎で一緒に過ごしたときのようだ。


それにホッとしたのも束の間、ロバートの発した言葉に大いに動揺した。


なにそれなにこれ、思わせぶりな……いや、これはもう好きだと告白しているようではないか。

いや違う、会いたい=好きじゃない。

文句が言いたくて会いたい場合もあるだろうし、それにもし、ロバートさんが思わせぶりな言動をしたとしても、それは全部、イーヴィーのためだ。

私は知ってるのよ、とクラーラは思った。


そうすると不思議とドキドキは収まって、冷静になれた。

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