お見合いの結果
お見合いは無事終わった。
というより、クラーラは本当にただ黙って引きつり笑いを浮かべていただけだった。
お相手の子持ちバツイチ伯爵――ライオネル・シオドア・リヴィングストンは、クラーラと話そうと試みたが、クラーラが青白い顔で強ばっていると、
「あら嫌だわ、この子ったら緊張していて、言葉が出ないようですので……」
と伯爵夫人が代わりに何でも答えてしまったのだ。
ちなみに子持ちバツイチ伯爵は、今回は子連れではなかった。
今年8歳になられるご令息と、その下の5歳のご令嬢は、領地にある本宅でお留守番をしているそうだ。
「もしまたお会いする機会をいただけるなら、次はぜひ我が家へいらしてください。子どもたちを紹介します」
とライオネルは言った。
今回連れて来なかったのは、子どもたちの負担を考慮したためか、もしくは一次審査も通らない相手には会わせたくないと思ったのか。
伯爵による一次審査はどうやら通過したようだ。
「でもご令息とご令嬢に会って、やだー、この人きらーいって言われるかも……」
「あらクラーラ、もう次回のことを心配してるってことは、リヴィングストン伯爵のことが気に入ったのね? 意外だわ、良かった」
帰りの馬車の中、夫人は顔つきをぱっと明るくした。
「えっ、いえ、その」
クラーラは慌てたが、子持ちバツイチ伯爵の子どもたちに会う気が起きているのは事実だった。
伯爵は仕事で家を空けることが多く、
「申し訳ないですが、私の妻というよりは子どもたちと快く暮らしてくれる人、というのが正直な理想でして……」
と夫人に話していたからだ。
「お若いクラーラさんに、母親になってほしいとは望んでいません。息子はもうわりとしっかりしていますので、彼のことは放っておいてくれていいんです。娘がまだ甘えたがりで……ああ、もちろん身の回りの世話をするメイドはいますので、雑用はメイドに任せてください」
「ふつつかな娘ですけど、それなら安心ですわ」
オホホホと笑っていた母親が、今は真顔になってクラーラを見ていた。
「で、どうなの? 落ち着いた方だったし、大丈夫そうなのね? 思ったより大きかったけど怖くはない?」
「確かに大きくて……熊、みたいでしたね」
ライオネルは背が高い上にがっちりとした体格で、下がり太眉で、目は小さめ、口元が髭で覆われていた。
髭ともっさりとした感じが、実年齢の30歳よりも上に見えた。
「熊ねえ、それよりも犬っぽいかしら。大きな犬。金茶色の毛先だけくるっとカールした、どっしりしてて大人しい犬、いるわよねえ」
確かに、とクラーラは思った。
ライオネルの髪色と髭色は金茶色で、少し癖がかっていた。
焦げ茶色の目は少し垂れ気味で、優しげな感じ、口は大きくてよく食べそうだ。
大きくていかつい、男性的な男性が嫌いなクラーラにとって、ライオネルは苦手なタイプのはずだったが、ゆったりとした雰囲気のおかげか意外と怖くはなかった。
「ご不在の日が多いと仰っていたから、伯爵との時間は少なさそうだし……」
夫婦というより仲のいい同居人、というスタンスで暮らせるなら願ったりだ。
伯爵が望んでいる条件が、本当に言葉どおり「ただ娘の相手をしてくれる人」なら、男嫌いのクラーラにも適性はある。
その5歳のお嬢様がクラーラを気に入ってくれるか自信はないが、リヴィングストン家の兄妹に会ってみることにした。
そのことをイーヴィーに話すと、大袈裟に驚かれて、改めて兄のロバートを推薦してきた。
「ロバートは若いし、話を聞く限りその伯爵よりずっとイケてるわ。わりとモテるって言ったのも嘘じゃないわ。優しいし、私のお墨つきよ」
「ええ、知ってるわ」とクラーラは苦笑した。
お墨つきどころかお手つき……いや、さすがに肉体的な関係はないだろうが、2人が愛し合う仲であることは知っている。
口づけくらいは交わしているのだろうか、とつい下世話な詮索をしてしまい、嫌悪感を覚えた。
やっぱり無理だ、イーヴィーとのことを知らないふりをしたままロバートと付き合うなんて。
「ロバートさんには、私よりもっといい人がいるはずよ」
「いいえ、私はクラーラとお似合いだと思うわ」
「そんなことないわ」
「ある。ロバートもクラーラがいいって言っているわ。うちは爵位が格下だし田舎だから強く主張できないだけで、本当は喉から手が出るほどクラーラと結婚したいのよ」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃないわ、クラーラったら常にネガティブなんだから。もっと自分に自信を持って」
しつこく食い下がるイーヴィーに、クラーラは
「正直に言うわ」と言った。
あなたとお兄さんとのこと、知っているのよ。
そう言ってしまいそうそうになって、ぐっと呑みこんだ。
「気に入ったの、リヴィングストン伯爵を。年齢の近い男性よりも包容力があって、安心して導いてもらえる感じで。あのくらい年上の方が良いみたい。自分でも意外だったけれど。とにかくとても素敵な方よ」




