とりあえず他の人とお見合い
ああ、マイルズ様に嘘をついてしまった。
しかも「嘘をついた者は確実に処罰する」と釘を刺された直後に。
イーヴィーが実家に帰省中、クラーラとイーヴィーは常に一緒だったわけではない。
クラーラとロバートのお膳立てをして、イーヴィーは2人を置いて出かけることが多かった。
それは「お母様とお買い物」だったり「地元のお友達グループとのお食事」だったりしたが、それをいちいち疑って確かめたりはしなかった。
もしかして『地元の友達グループ』の中に男性がいたのかもしれない。
グループで会っていたならそう目くじらを立てることでもないと思うが、目撃者とやらの証言通り、2人きりで腕組みデートをしていたのなら、マイルズ様が怒っても仕方ない。
イーヴィーに会ったらどう話そうかと悩んだが、放課後ですでにイーヴィーは帰宅しており、翌日顔を合わせるなり人目のない場所に引っ張られた。
「ちょっと聞いて、クラーラ! マイルズ様ったら、私が帰省中に浮気してたんじゃないかってお疑いで……って、クラーラに探り入れたんだよね? ごめんね、巻きこんじゃって」
「マイルズ樣とは大丈夫だったの?」
「うん、大丈夫よ」
「その、誰かが目撃したっていうのは……」
「全く身に覚えがないもの、見間違いじゃないかしらって言ったら、この髪色を見間違うはずがないって。じゃあ、可能性があるのはロバートかなって」
「えっ」
「ロバートとなら、腕組みして歩くこと普通にあるし。確かに帰省中、ロバートと2人で出かけたこと1度くらいあった気がするの。よく覚えてないけどね。男の髪色が栗色だったなら、兄で間違いないわってマイルズ様に言ったわ」
「あっ、ああ、そうなの……」
「えっ、やだクラーラったら、もしかしてヤキモチやいてる? 兄妹なんだから、腕組みくらいするわ。クラーラはもっとイチャイチャしてあげてね。ロバートのこと、前向きに検討してあげてね」
よくもこう白々しいことが言えたものだ。
私、知っているのよ。あなたとお兄さんが愛し合っていること。
男嫌いの私なら、ロバートさんとイチャイチャする心配がないから、あてがおうとしているんでしょう?
2人の会話を盗み聞きしたのよ。
そう言いたかったが、口をつぐんだ。
言ってしまうと大きな揉め事になるのは明らかだ。面倒は避けたい。
その後、クラーラはイーヴィーと少し距離を置くために、子持ちのバツイチ伯爵とのお見合いに向けて忙しいふりをした。
「え〜、子持ちのオジサンでしょー」とイーヴィーはブツブツ言ったが、「でも伯爵だし、両親が一度会ってみろってうるさくて」と家族を持ち出すと、イーヴィーも黙った。
そしていよいよ、お見合いの日となった。
場所は子持ちのバツイチ伯爵が王都に持つ、別宅だ。本宅は伯爵の領地にある。
ちなみにクラーラの父親は領地を治める領主ではなく、王城に勤めて国政に携わる事務方の仕事をしている。
姉のライラのときには仕事を休んでせっせと婚活に同伴していたのに、今日はどうしても抜けられない仕事とやらで、付き添いは母親と使用人だけだ。
その方が気楽で良いが、それにしてもクラーラは緊張していた。
リボンがふんだんについたピンク色のドレスは母親が選んだが、似合っている気がしない。
十五歳も年上の男性と話が合うだろうか、不安しかない。
「大丈夫よ、クラーラ。あなたは黙ってニコニコしていれば良くてよ。若いっていうだけで百点満点よ」
ガチガチに緊張しているクラーラに気づき、母親が言った。




