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公爵令息様からの呼び出し

クラーラが家に戻り、数日が経過した。


子爵夫人に渡されたロバート卿の釣書はまだ手元に置いたまま、父母には見せていない。

その釣書を開いて眺めた。


家柄や学歴、職業などの他に、趣味という欄もあり、「読書、日曜大工、ハーブ草の栽培」と書かれている。

いかにも良い旦那さんになりそうだ。


子爵家の庭には木陰のハンモックがあり、それに揺られながら読書をする時間が至福だとロバートが言っていたことを思い出した。


ああ、それとテラスに置いてある栽培中のハーブたち。


「あのカフェで飲んだ、期間限定品だったブレンドハーブティーを再現してみたくてね、数種類のハーブを育ててるんだ」


と少し得意気に語っていた。

あれも、イーヴィーのためだとすぐに理解した。

イーヴィーが気に入って何杯もおかわりしたというハーブティーをもう一度作りたくて、ハーブから育てているなんて。

その健気さに胸がもやる。


イーヴィーは他の人と婚約中なのに。

何だかなあ、と思う。


しかし他に想い人がいるロバートなら、体裁のためだけの結婚に応じてくれそうだ。

元々、他に愛人を作ってくれて結構だとさえ思っていたわけだし。

しかし、それが親友のイーヴィーとなると複雑だ。


イーヴィーは他の女では嫌だ、クラーラだったらいいとロバートに言っていたが、クラーラはその逆だった。

イーヴィーではなく、全く知らない女性のほうが良かった。


ロバートと正式なお見合いをするか、キッパリ断るか、決断しかねていると、家族に急かされて子持ちのバツイチ伯爵とのお見合いが決定した。


そうだ、とりあえず他の人を見てみても良いかもしれないとクラーラは思った。

ロバートが良いのか悪いのか、一択では計れない。


元々、父親からは「全ての候補者と会ってみて決めても良い」と提示されているし、子爵夫人からも「候補の中にロバートも入れてほしい」と頼まれただけで、正式な約束は交わしていない。


子持ちバツイチ伯爵とのお見合いが差し迫ったある日の、夏休暇が終わって再開した貴族学園で、クラーラは上級生から呼び出しを受けた。


クラーラは貴族学園の最下級生で、上に2学年先輩方がいる。

知らない先輩に連れられて着いた先は、生徒会室だった。


そこで待っていたのは――……嫌な予感通り、


「急に呼び立ててごめんね」


イーヴィーの婚約者、マイルズ・イライアス・バンバリー公爵令息だった。

生徒会長を務めていて、生徒会室を自由に使用している。


「あ、君はもういいよ。ご苦労さま」


知らない先輩は立ち去り、バンバリー公爵令息と2人きり、向かい合うこととなった。


何の用事だろうとクラーラは身構えた。

圧倒的カースト上位のマイルズは多くの生徒に憧れられているが、男嫌いのクラーラは自然と苦手だった。


藍色の髪に深緑の瞳、男らしい精悍な顔立ちで背が高く、クールな雰囲気。苦手だ。


逃げ出したい気持ちをこらえて、クラーラは無言で立っていた。


「クラーラ嬢、君に聞きたいことがあってね」とマイルズは切り出した。


伏せていた目を上げると、刺すような視線とかち合って、一瞬で寿命が縮んだ。


私、いったい何をやらかしたんだろう?

マイルズ様に問い詰められるようなこと……見に覚えはない。


「夏休暇中、イーヴィーの帰省に君も伴っていたそうだね」


「……はい」


えっ、それが何か、まずかったのだろうか?

マイルズの鋭い視線に真っ向から射られ続け、クラーラは嫌な汗をかいた。


「そのことでちょっと聞きたいことが……って君、顔色が青いけど大丈夫? 具合が悪いのかい」


「いっいえ……大丈夫です」


色白で、緊張すると青白く見えるのは昔からだ。

痩せっぽちで青白いクラーラを、幽霊みたいだと男の子はからかった。


「じゃあとりあえず、そこへ座って」とマイルズはクラーラにソファーへの着席を勧め、話を仕切り直した。


「実は……告げ口があってね。イーヴィーの地元へたまたま行っていた者が、イーヴィーが男とデートをしていたのを見たと。べったりと腕を組んで顔を寄せ合っていたから、浮気に違いないってね」


「そ、そんな……それはデタラメの嘘です」


「であってほしいと私も思う。君も知っていると思うが、イーヴィーに関する根も葉もない悪い噂は、これまでもいくつかあったからね」


「はい」


「でも今回は出元の分からない風の噂ではなく、目撃者から直接私への告げ口だ。嘘であれば確実に処罰をする。嘘をつくリスクは大きい」


「…………」


「だけど、もしイーヴィーが浮気をするために帰省したのだとしたら、わざわざ女友達を連れて行くってのも変だよね。その友達が口外しないとも限らないのにね」


「し、しません……私は、」


「てことは、やっぱり君は何か知ってるんだ? 何か隠してる?」


「知りません、し、隠してません」


苦手な公爵令息様と密室で二人きりというだけで冷や汗をかくのに、なぜか問い詰められている状況に卒倒しそうだった。


「じゃあ正直に答えてくれるかな。帰省中のイーヴィーとはずっと一緒だった? イーヴィーが男と2人で出かけたことはあった?」


「…………ずっと一緒でした」



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