エピローグ〜3年後〜
とうとうこの日がやってきた、とヴィヴィアンは胸を踊らせた。
兄レイモンドの15歳の誕生パーティーが開かれる。
レイモンドには長年の想い人がいて、今日この日に結婚を前提とした交際を申し込む予定だ。
レイモンドの積年の片想いは、本人がオープンに公言しているため有名だ。
相手が8歳も年上であるため、「相手にされていない」「早く諦めろ」と周りに言われてきたが、レイモンドの片想いはしつこかった。
ついには皆も諦めて、「とっとと告白して玉砕しろ」と進言するようになった。
誰も上手くいくとは思っていない。
しかし家族――両親とヴィヴィアンは、レイモンドの初恋が実ると信じていた。
レイモンドの初恋の相手、クラーラとは家族ぐるみで交流がある。
何を隠そう、クラーラは昔レイモンドの父親のライオネルとお見合いをしたことがあるのだ。
そのとき8歳だったレイモンドと5歳だったヴィヴィアンは、クラーラに遊び相手をしてもらった。
お見合い後、父ライオネルとクラーラが結婚することはなかったが、一家の友人として交流は続いた。
レイモンドが、またクラーラに会いたいと言い張ったからだと記憶している。
ヴィヴィアンもクラーラのことが好きだった。
派手さがなく、そっと寄り添ってくれる感じ。
相手が子供であろうが、同じ目線に立って考えてくれる。
ちゃんと気持ちを察してくれるが、決してグイグイ踏み入ってこない感じも好きだった。
クラーラのことをよく知らないレイモンドの同級生――特に女子は、
「レイモンド様の想い人って、あの方? どんな美女かと思ったら、地味ね」
「レイモンド様の女性の趣味って変わってるのね」
などと勝手に見下しているが、彼女たちが束になってもクラーラには敵わないことをヴィヴィアンは知っている。
レイモンドは8歳の頃から、クラーラ以外の女性に興味がないのだから。
我が兄ながら、とんでもなく一途で、とてもかっこいいと思う。密かに尊敬している。
そんなことを面と向かって本人に言ったことはなく、顔を合わせれば文句ばかり言っているが、今日は全力で兄を応援する。
がんばれレイ。
どうせ上手くいかないと鼻で嗤っている奴らの鼻を明かしてほしい。
王都にある別宅ではなく、領地にある本宅でレイモンドの誕生パーティーは開かれた。
ちょうど冬季休暇に入ったばかりで、王都に住むレイモンドの友人たちもバカンスがてらに訪れて、出席している。
レイモンドの家庭教師をしているクラーラもだ。
パーティーは円滑に進行し、宴もたけなわとなったところで、レイモンドのスピーチが始まった。
皆の注目を集める中、家族と招待客への感謝の辞と成人の抱負を述べるレイモンドは、堂々としていて、普段以上に大人に見えた。
「お兄さん、かっこいいわね。今度紹介してよ」
仲介を頼まれることもよくあったが、そういうときヴィヴィアンは必ず断った。
「難しいわね。兄には強力な想い人がいるから」
実はヴィヴィアンがブラコンで、レイモンドに他の女を寄せ付けないようにしているのではないかと、勘繰られることもあった。
冗談じゃないわとヴィヴィアンは思った。
ああもうレイったら、早くクラーラをものにしなさいよ!
と貴族令嬢らしからぬ品のないことを思ったものだ。
スピーチの最後に、レイモンドが声を一段と張り上げた。
「最後に、この場を借りて伝えたいことがあります。ノースモア伯爵家のクラーラ嬢、前に出ていただけますか」
レイモンドの視線の先にはクラーラがいた。
皆の視線を浴びながら、ゆっくりとした足取りでレイモンドの前に立った。
「普段通りに呼ばせてもらいます。クラーラ、ようやく僕も成人しました。ずっと言い続けてきましたが、心からあなたを愛しています。僕と結婚してください」
真摯で真っ直ぐに胸を打つレイモンドのプロポーズに、会場全体が息を呑んだ。
レイモンドが何年もクラーラを好きだ好きだと言い続けてきたことは、ここにいる誰もが知っている。
どうせ無理だろと冷やかしていた者でさえ、祈るような視線で2人を見守っている。
心の底ではみんなレイモンドを応援しているのだ。レイモンドの馬鹿みたいな一途さを知っているから。
「はい」
とクラーラがよく通る澄んだ声で返事をした。
「私も愛してるわ、レイ。世界一愛してる」
わあっと大きな歓声が巻き起こった。
隣同士で抱き合って泣く人者や、ハンカチーフを取り出して頭上で振り回す者、喜び方は様々だが、誰もが大喜びして2人を祝福している。
ヴィヴィアンは大声で叫んでいた。
「さいっこう! レイ、クラーラ、おめでとう!! 最高すぎて死ぬー! きゃー! おめでとうー!」
おめでとうの大合唱が始まって、レイモンドは少し迷惑そうな顔で笑っている。
その隣ではクラーラが、本当に幸せそうな顔で笑っていた。
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