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正直に

しばらくイーヴィーとイーヴィーの子供の話が続いた。

クラーラは話を聞きながら、そういえば昔ロバートと初デートをしたときも、その場にいないイーヴィーの話ばかりしていたなと思い出した。

他に何を話していいか分からなかったからだ。


それは今も同じだが、違うのは話すテンションだった。

あの頃みたいには盛り上がらない。

しんみりと噛みしめるように話し、最後にロバートは「妹が迷惑をかけて、本当にすみませんでした」と述べた。


4年前にも散々謝られ、もう済んだことだとクラーラは笑った。

ロバートに非はない。

むしろ自分と同じく、巻き込まれた被害者だとクラーラは認識していた。


それにロバートはクラーラを信じてくれた。

マイルズの発表よりもクラーラの言い分を信じてくれた。

そのことに感謝している、と改めてロバートに告げた。


家まで送り届けてもらい、眠れない夜を過ごしたクラーラは、翌日リヴィングストン伯爵家の別宅へ向かった。休日で、学園は休みだ。



「今日は、家庭教師の日……じゃないよね?」


レイモンドが怪訝そうな顔で迎えてくれた。


「家庭教師の日じゃないと来ちゃいけない?」


「いや、全然……そうじゃないけど。何で?と思って……」


「昨夜のことを話しに来たの」


「そう……、じゃあまぁ、部屋にどうぞ」


歯切れの悪いレイモンドを押し切るようにして部屋に上げてもらった。

クラーラにしては珍しい押しの強さだった。レイモンドも若干引いている。


クラーラを行動的にさせている原動力は、怒りだった。怒りは人を突き動かす。


普段と違うクラーラの様子に、


「何で怒ってるの?」


とレイモンドが尋ねた。


「何で? 怒るに決まってるでしょう。レイが付き添ってほしいと言うから行ったパーティーなのに、放って帰られたら」


「放ってないでしょ、ロバート卿に引き継いだんだから」


「それ。それが余計なの。ロバートさんが来るから私をパーティーに誘ったんでしょう。引き合わせるために。余計なお世話よ」


レイモンドはむっとした。


「クラーラのためにそうしたんだよ。いつまでもあの男のことを引きずってるから。そんなに好きなら、連絡を取るなり、告白するなりすればいいのに、4年もただ待ってるだけなんてさ。見てられない」


クラーラは驚いた。目から鱗が落ちた。

まさかレイモンドがそんな風に思っていたなんて知らなかった。


「ま、待って。私別に、ロバートさんのこと待っていないわ。確かにむかーし、少しだけいい雰囲気なったこともあったけど、進展せずに終わったし、どうこうしたくもないの。前に話したわよね、流れに乗らなかったって」


「それを後悔してるんでしょ?」


「いえ、全然。どうしてレイはそう思ったの?」


「この前クラーラのお母さんから聞いたんだ。公爵令息と婚約解消した後、それなりに良い縁談もあったのに、全部クラーラが断ったって」


それを聞いて、クラーラは今もロバートのことを一途に想い続いていると、レイモンドは思ったらしい。


「あー……その『それなりに良い縁談』ってのは全部、公爵家が責任を感じて持ってきた話だったの」


マイルズのせいで悪評がついてしまい、クラーラが自力で結婚相手を見つけることは困難だろうと、縁談を世話してくれようとしたのだ。


「だけどそれって、先方は公爵家の顔を立てるための、嫌々の政略結婚なわけでしょう。嫌々結婚してくれた相手と気まずく暮らすなんて、想像しただけでげんなりしたの。だったら結婚なんてしなくていい、1人で気楽に暮らしたいなと思って」


明るく言い切るクラーラを見て、レイモンドは憑き物が落ちたように呆けた顔をした。


「なんだ……本当にそうなんだ……誤解してごめん。僕、昨日ほとんど寝てないんだ。自分でお膳立てしたくせに、今頃クラーラがロバート卿と仲良くしているんだと思ったら、嫌で嫌で。胸にどす黒いものが渦まいて、全然寝れなかった」


それを聞いて、クラーラの胸にはこみ上げるものがあった。


「私もなの。私も、レイに誤解されたままだと思ったら全然寝られなくて。早く会って話をしなくちゃって、押しかけて来ちゃったわ」


「そうなんだ、ごめん……え、何で僕に誤解されたままだと寝れなかったの?」


「嫌だと思ったからよ。他の男の人とくっつけられようとしたのもすごく嫌だった。気付いたの……私ね、レイのこと……弟のように、以上に好きだって」


寝不足でぼんやりしていたレイモンドの目が一気に覚めたようだ。


「えっ! そそそそれって、えっ、男として、好きだってこと?」


クラーラは神妙な顔つきで、こくりと頷いた。

8つも年下の少年を異性として意識していると、認めるのには勇気がいった。


普段取り澄ましているレイモンドがあわわわとなっている様が可愛くて、愛しい。

しかし手放しで喜べるクラーラではなかった。


「でもね、やっぱりどうしても、気になるの。レイとの年齢差が。20歳の女が12歳の少年と付き合うなんて、世間に認められないわ。いたいけな教え子を誘惑した悪女だの何だのと、また言われるだろうし、レイがもう少し大きくなれば目が覚めるかもしれない」


レイモンドが冷静さを取り戻し、険しい顔をした。


「どういう意味? 目が覚めるって」


「一般論として聞いてね。男の子には年上女性に憧れる時期があるの。一時的なもので、長くは続かないと言われてるわ」


「僕もそうだと?」


「そう思いたくないけど、正直分からないわ。今の私では、楽天的に考えられないわ」


クラーラは正直に話した。

好きという気持ちだけで突っ走るには、クラーラは年上すぎた。


レイモンドはじっと考えて、真剣な表情でクラーラを見た。


「分かった。じゃあ3年後。3年経ったら僕も成人する。12と20歳じゃ認められなくても、15と23ならちょっとは違うんじゃない? それで駄目なら、また5年後。20歳と28なら良くないかな。その間、ただ年をとるんじゃなくて、いい男になるから。いい男になって、クラーラにアタックし続けて、それで世間に認めさせる。クラーラが僕を誘惑したんじゃなくて、僕が猛アタックしてようやく付き合ってもらえたんだって。世間に分からせるよ。クラーラは心配しないで」


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