好きの種類
レイモンドは優秀な生徒だった。
課題をきっちりこなし、分からないところは進んで質問し、理解力も高い。
その賢さゆえ、大人たちから「大人びている」「小生意気」「ませている」と評されることも多いようだ。
レイモンドの早熟ぶりに感心する一方で、戸惑うこともクラーラにはあった。
例えば
「その髪飾り、初めて見るけど素敵だね。クラーラによく似合ってる」
さらりと褒めたかと思うと、
「あ、待って。ここ、何か付いてる」
と手を伸ばし、
「花びらだったよ。前もくっついてたよね。花の妖精もクラーラのことが好きみたいだ」
取った花びらを見せて、微笑むのだ。
「も」って何、とクラーラは思った。
花の妖精「も」って。
まるで自分もそうだと言うように。
いや、いくら恋愛に奥手のクラーラでも、言動の端々で伝えられるレイモンドの好意に、さすがに気付いた。
しかしレイモンドは8つ年下で、まだ12歳だ。
あくまでも『年上女性に対する憧れ』的なものだろうと理解している。
男には年上女性に憧れる時期があると聞く。
それは大抵ごく若い頃の一時期で、誰しもが通る道だ。と本で読んだことがある。
だからクラーラは、言動の端々で伝えられるレイモンドの好意を真に受けすぎないよう、大人の余裕をもって受け流せるように努めていた。
しかし、マイルズとの一連の出来事を話した後日、レイモンドは直球で伝えてきた。
「僕は何歳になったら、クラーラに男として見てもらえるのかな」
冗談ではないと瞳が訴えている。
笑い飛ばすこともできず、クラーラは困った。
「今はまだガキだよね? 背もクラーラより少しだけ高いくらいだし。ガキにしか見えないよね」
「そんなこと、ないわ。レイは大人っぽいし、同年代じゃ背も高い方でしょう。まだ伸びるわ」
「じゃあ今でも大丈夫? 背はもっと伸びるし、もっと逞しくなるから、期待していいよ」
「そ、それはそうだと思うけど、私より若くて可愛い子がいいわよ。おばさんをからかわないの」
「20歳でおばさんなんて卑下したら、本当のおばさんに刺し殺されるよ」
レイモンドはとても12歳とは思えない返しをして、
「からかってないし。本気だし」
と少し拗ねてみせた。
「僕はクラーラが好きなんだ。クラーラには好きなとこだらけ。その髪色も瞳の色も、色白さもそばかすも愛しい。控え目で謙虚なのに、しっかりしてて芯の通ってるところもかっこいい。優しくて頭が良くて、人見知りのところが可愛いし。打ち解けるとお喋りになるのが嬉しい。クラーラは? 僕のこと好き?」
これだけ面と向かって褒めちぎられたのは、生まれて初めてだ。
最初は人見知りだが打ち解けるとお喋りになるというのは、レイモンドも同じだった。
怒涛の褒めちぎりに圧倒されたクラーラは、思わず
「す、好き」
ごまかしのない言葉で答えた。
それから慌てた。
「といっても、恋愛感情とかじゃなくて。可愛い弟みたいな感じで、好きよ。あ、レイに魅力がないって言ってるんじゃないの。レイの髪色も瞳の色も好きだし、澄ましてるとツンとして大人びた雰囲気なのに、笑うと可愛いところが本当に可愛いし……」
褒めているのにレイモンドの表情がみるみるかげっていく。
しまった、「可愛い」は禁句だった。
ふうと溜め息を吐いたレイモンドが、
「了解しました。所詮弟ね」
と言った。
「いいよ、それでも。クラーラといられるなら嬉しいし。いい男になってクラーラに認められる、のを当面の目標にするから」




