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街ブラデートと借りたブローチ

イーヴィーにお膳立てされ、翌日ロバートと街ブラデートに出かけたクラーラだったが――……


「あ、ここのカフェ、イーヴィーのお気に入りなんだ」


「あ、分かります。壁の色合いがイーヴィーが好きそう……ミントグリーンとピンクで、可愛い」


「ブレンドのハーブティーが人気でね、この前帰省したときに期間限定ものが相当気に入って、何杯もおかわりしちゃってたね」


「あ、分かります。イーヴィー、一度ハマるとしつこいですよね」


イーヴィーが居なくても会話の中心はイーヴィーだった。

共通の話題で、無難に盛り上がるからだ。

自分のことについてあれこれ尋ねられるよりも気楽だった。


しかしそれにしてもイーヴィーの話ばかりだ。

せっかくだからここで昼食をとって帰ろうということになり、ランチセットを食べ、食後のブレンドハーブティーを飲んでいるときだった。


じっと見ているロバートの視線に気づいた。


「そのブローチって……」


クラーラが胸元に着けている花束の形をしたブローチは、一つ一つの花の宝石がカラフルだが、小さめサイズのためそれほど派手ではない物だ。


「イーヴィーの、だよね?」


「あ、はい……ドレスが地味だからワンポイントにって、イーヴィーが貸してくれました」


クラーラが旅行用に持ってきたドレスはどれも地味だった。

いかにも豪華なドレスを着ていては目立って危険だし、田舎旅を満喫するには動きやすいシンプルなものが良いと思ったからだ。


それに元々クラーラは派手好きではない。

社交パーティーには無理をして着飾るが、普段は地味な色を好んで着ていた。


「イーヴィーの物、私じゃやっぱり似合わないですよね……可愛らしくて」


訝しげにブローチをじっと見ていたロバートに苦笑すると、ロバートは慌てて表情を変えた。


「あ、いやそんなことは全然……ただ、クラーラさんには少し安っぽくて幼稚かなと。それ、イーヴィーの12の誕生日に僕があげた物だから……」


「えっ、あ、そうなんですか……」


本当に仲の良い兄妹だな、と感心すると同時にクラーラは居心地の悪さを覚えた。


可愛い妹にあげた高価な誕生日プレゼントを、他人が我が物顔で着けているのを見て、ロバートは嫌な気がしたのではないかと。

安物だとロバートは言ったが、どう見てもそれなりに高価な品だ。


「……すみません」


勝手に私なんかが着けて。


「えっ、何で謝るんですか。すみません、何かこちらこそ。どうか気になさらずに」


ロバートはそう言い、


「クラーラさんには、クラーラさんに似合いそうな物を贈らせてください。イーヴィーがお世話になっているお礼に」


にこりと笑った。


「いえ、そんなっ、私の方がお世話になっていますし」


「あ、じゃあ仲良くしてくれているお礼に。僕、本当に心から嬉しいんです。イーヴィーにクラーラさんみたいな良い方が友人でいてくださって。イーヴィー、あんな感じでしょう、都の貴族学園で浮いてしまって、泣き帰ってくるんじゃないかとずっと心配していたんです。昔からどうも敵を作りやすくて……」


それからイーヴィーの子供時代の話が続き、それはそれで興味深く聞けたが、何だかお腹いっぱいになって帰ってきた。



「イーヴィー、イーヴィー……どんだけ妹大好きなの」


子爵家の部屋に戻って一息ついたとき、蓄積されていた疲れが出た。

クラーラは確信した。

ロバートはなかなか重度のシスコンだ。


そういえばイーヴィーも満面の笑みで言っていたっけ。


『私のお願いなら大抵きいてくれるから』と。


まさか結婚相手も?


日が暮れ始めた頃、友人グループに会いに出ていたイーヴィーが帰ってきた。

帰ってくるなりクラーラの部屋に来て、ロバートとのデートはどうだったのかと質問責めた。


イーヴィーのお気に入りのカフェでランチをして、普通に会話が続いたことを報告すると、イーヴィーは大喜びした。


「ねっ、言ったでしょう。ロバートならきっと大丈夫って。男と二人きりでいて会話が続くなんて、クラーラにはすごいことじゃない?」


確かに、と思った。しかし会話の中心にイーヴィーがいたからできたことだ。


「でもイーヴィーの話で話しやすかっただけだし、ロバートさん自身のことまだよく知らないし……」


「知りたい? 興味出た? 良かったあ! じゃあ聞いて、何でもロバートのこと。私が知ってる範囲で全部教えるわ」


「ねえ、でも勝手にこちらで盛り上がってもロバートさん困るんじゃないかしら。そもそも、ロバートさんに恋人や想い人っていないの? 今さら聞くけど」


「いないわ」とイーヴィーは即答した。


「あ、モテないわけじゃないのよ。恋文が届いたり、女性からアプローチされることは時々あったのよ。けどその度、恋愛に興味ないって断ってたの。子爵家の嫡男として、親が決めた相手と結婚することが決まっているからって。別に結婚は結婚で、恋愛は恋愛で、別物でいいのにねー。ロバートは真面目なのよ」


「えっ、じゃあその、親が決めたお相手とやらがいるんじゃ……」


「候補はいたみたいだけど、高望みして決めきれないまま、候補たちは嫁に行っちゃって。だけどそろそろ本腰入れなきゃって思ってるときに、クラーラよ! クラーラから縁談をちらつかせれば、うちの親なんてすぐに飛びつくわ。王都の伯爵家のご令嬢だもの。だから、肝心なのはクラーラがどうしたいかっていうだけよ」


本当にそうなのだろうか……ロバートさんの希望はないの?

親が決めた相手なら誰でも……男嫌いの私でも?


うーんとクラーラは唸った。

今すぐ決断しろと言わんばかりのイーヴィーを前にして、決断が鈍る。

できることなら、誰とも結婚なんてしたくない。しかし誰かとは必ずしなくてはならない。


「もう少し……ちゃんとロバートさんと話してみるわ……」


「了解。そうね、それがいいわ。明日もなるべく二人きりになる時間作るからね」


イーヴィーが張り切った様子で小さく拳を上げてみせた。仕草がいちいち可愛いのだ。

ブローチのことはイーヴィーには言わなかった。


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